Abelの森

Mei.(神楽鳴)

第ゼロ話 Abelと言う名のエゴ、Cainと問う性にエス

「この荒れ地に、老人が花を植えたとする。」

 真っ白な髪をランプに透かして、言葉を聞いているようで聞いてない。少女らしく振舞えば、誰も存在しない空間で自身を認められる。そんな気がしたのは一昨日を、彼等に喰われたからだと知っていた。

「Abelは言った。その老人を愛しなさい、と。全ての万物に命が宿り、緑溢れる最中に老人の佇む情景こそが美しいのだ。そうして、彼は解釈を重ねて死んだ。」

 蛇口を捻る為に、暖炉を探している。花言葉に総てを覆すためだと、懺悔の涙を浮かべている。意味のない行為と分かっていても、人はどうして超越を影と呼ぶことが出来ないのか。

「Cainは彼を罵った。老人を断罪すべきである、と。罪を償うべきが、地を荒らした人であるならば、老人もまた人である。そうして、彼はAbelを殺した。」

 手を止めて、振り返るには自分に躊躇を付ける事が正解だろう。花瓶に折れた花を差し込みながら、彼女は透明な輝きを持つ瞳で、神を見つめた。

「創世記に生きた。君は、後世の人間でありながら彼等を知っている。」

「望んだのは、固体よ。Rudeの意思。私じゃないわ。」

 最初から神と言う存在に反旗を翻した本物に、何を言うのか。彼女は崩れ散った研究室で、砂漠へと立ち去る青年を見つめつつ、神との会話に終止符を齎したのだった。


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