第19話 今に見ていろ、全滅だ
裏門のテロリスト共を鎮圧するのに大した時間はかからなかったものの、正門から銃撃の音が聞こえてきたってことは、もう始まってるんだろう。
通信機を起動、俺は正門近くで戦っているのであろう由希奈に状況確認のための連絡を取る。
「此方西條だ。聞こえているか、由希奈」
『聞こえてますよー! てかどこで油売ってるんですか?』
「念のためにと回ってみたら裏門に伏兵がいたのでな、その鎮圧をしていた」
本当のことは言っちゃいないが、事実は確かに言っている。
嘘をつく時のコツはある程度の真実を混ぜ込むことだとか、どこかの誰かが言ってたが、全くもってその通りだ。
真相はともかく、物証は残してあるから、これで疑われるようならあとで見てもらえばいい。
『裏門って……まあ了解です、とりあえず早くこっち来てくださいよ、先輩!』
「承知した」
百パーセント腑に落ちたって声色じゃなかったが、とりあえずは西條千早の行動だから見逃してもらったってところだろうか。
言われた通り、俺も急がなきゃな。
銃撃戦で由希奈たちが負傷する心配は皆無に等しいとしても、正門付近にはゴーレムが十機ほど配備されている。
原作じゃ、裏門からの突入部隊が出現するまでは、こよみと由希奈がテロリストとゴーレム、その両方をハンドガンで相手しなきゃいけないとかいう展開だったが、そうはさせない。
ゴーレムの装甲は銃弾程度じゃ傷つかないってのに、支給された非殺傷性の弾しか撃つものがない拳銃でそんなの十機と戦えとか、その時点でクソゲーが極まってたのを思い出す。
だが、本命はその後に待ち受けている生徒たちを巻き込んでの銃撃戦だ。
無惨に死んでいく生徒たちをただ見ていることしかできず、その犯人はどんなに憎かろうと非殺傷性の弾丸で撃つことしかできないこよみ。
そんな凄惨極まる光景を自分たちの失態で見せつけられることになった彼女の心には、深く暗い影が落ちるってのが、このスニーキング・ミッションにおける筋書きだった。
やっぱり製作陣には人の心が未実装なんだろう。あの鬼畜生どもめ、とにかくヒロインを曇らすことに余念がねえ。
ただし、今回ばかりはそうはさせない。させてたまるものか。
胸の中で呟いた俺は一息に跳躍して、魔力を推進剤代わりに空を飛ぶ。
わざわざ正門まで回り道をするぐらいなら、校舎を飛び越えてしまった方が早い。
幸い、認識阻害が働いている都合、空を飛んでいるところを見られても、それが西條千早と同一人物だとは思われないはずだ。
多分の話だけどな。もしも勘付いたやつがいれば、政府と公安からの監視対象になることは約束されてるだろうから、いないことを祈る。
前世の俺みたいに未来を無駄にするんじゃないぞ、学生諸君。
なんていったところで、ここに通ってるやつらは、一流大学を経由して大手コンサルやらゼネコンやら広告会社、果ては役人や政治家への就職は決まってるようなもんだから、釈迦に説法か。
校舎を飛び越えて校庭を俯瞰してみれば、そこにはスクラップになって炎上しているトラックと、そこから起動したゴーレムを相手に戦っている由希奈とこよみの姿があった。
葉月とまゆも合流したようで、何十人単位で押しかけてきたテロリスト共は、蹂躙されるかのように次々と昏倒していく。
「……これ、俺いるか?」
戦いの趨勢は当然のように魔法少女側が握っている状態だ。
数は揃えてあったとしても、ゴーレム程度じゃ焼け石に水、銃弾は魔力障壁に阻まれて届かない。
当たり前といえば当たり前すぎる。原作じゃ不意打ちには成功したかもしれないが、その目論見はご破算になった上で、特級魔法少女を相手取らなきゃいけなくなったのだから。
「……まあ、ほっとく理由もないし、お礼参りの一つぐらいしておくべきだよな」
とはいえ、そこで敵に情けをかける理由の方も皆無で、同情の余地もないなら、オーバーキルだろうがなんだろうが徹底的に叩いておくべきだ。
例え連中が本当にこの国の行く末を、未来を案じて立ち上がったとしても、どれだけ高潔な志とやらを持っていたとしても、暴力に訴えかけた時点で論じるに値しない。
その上子供を標的にした無差別殺戮なんて手段に踏み切ったんだ、民家への放火や銃乱射の余罪も含めて、あいつらは憂国の士でもなんでもない。ただの外道の集まりだ。
「な、なんだ……!? 今頃騒ぎが起きてるんじゃないのかよ!?」
「突入部隊はどうなってる!?」
「ダメです、連絡取れません!」
そんなわけで今のところご自慢のゴーレムは葉月のソードメイスに粉砕され、銃の撃ち合いでは由希奈とこよみに圧倒され、おまけとばかりに相手を昏倒させる魔力を注ぎ込んだまゆの「ナルコシス・シリンジ」で夢の世界にご案内されている連中だが、万が一にも、一人でも逃すまいと、俺もまた戦線に飛び入り参上する。
雷の魔力を活性化させ、身体を保護する力場と弾き出す斥力の両方に応用、空中から一気に最前線へと降り立つ。
腰のホルスターからコンテンダーを抜き放って覆面野郎の腹に突きつけるまでおよそ二秒足らずといったところか。
「さて、其方が指揮官か」
「ひッ……お、俺はただ……そ、そうだ! 上に言われただけなんだ、ただ金払いのいい仕事があるって、だから──」
「目を開けて寝言を話すとは斬新だな」
「隊長ッ!?」
残念だが、上に言われようが下からせっつかれようが、もうアウトなんだよ。
遠慮なく、ほぼゼロ距離でコンテンダーの引き金を引いたわけだが、非殺傷性の弾とはいえ至近距離でライフル弾の直撃を、隊長と呼ばれていた覆面野郎は土手っ腹に喰らった形になる。
一瞬大丈夫かと思ったが、まあ防弾ベスト着てるみたいだし、死にはしないだろう。死ぬほど痛いだろうけどな。
「た、隊長ーッ! おのれ魔法少女、腐敗した権力の走狗め! 全員構えろ、あいつから粛清するんだ!」
ふむ、なるほど。
銃弾を魔力障壁で跳ね返しながら、俺は一つ、察したことを頭の中で捏ねくり回す。
動機はアホそのものだが、こいつらは素人じゃない。
三段構えの作戦を立ててきたからとか、そういうことじゃない。
ただ単純に、無軌道なテロリストにしては統制が取れていて、今もこうして指揮系統の引き継ぎがスムーズに行われているのがその証だろう。
なにより決定的なのは、銃の扱い方だ。構えや狙いに躊躇いがなく、精度も高い。
素人じゃあ、こうはいかない。
俺も実銃を撃った経験は今世が初めてで、それも西條千早の能力アシストあっての話だが──とにかく、銃ってのは素人が思うよりも狙いが定めづらいものなのだ。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるなんていうが、それも、使い方を知っているプロが扱う前提の話だ。素人がいくら撃ったところで、まぐれ当たりが精々だろう。
銃を持っただけで相手を仕留められるんなら、それこそFPSのように、ヘッドショットをズブの素人ができるんなら、軍隊は必死こいて射撃練習なんかしてないし、アサルトライフルも必要ない。
素人が民間人に向けて無茶苦茶にぶっ放すタイプの銃乱射についてはこの際置いておくとして、重要なのは、こいつらが銃の扱いに慣れてるってことだ。
ただのアマチュアが武器を持った犯行じゃないってことは、この問題は相当根深い。
こいつら「暁の空」については設定資料集にも断片的で曖昧な記載しかなかったのも厄介だ。
裏で糸を引いている黒幕の存在は示唆されてこそいたが、結局本編には最後まで登場しなかったしな。
本編の状況がそれどころじゃなかったってのもあるが、ファンサービスとして出された設定資料集にすらぼかされたような記述しかされてない辺りが、なんかどうも引っかかる。
「……『雷電鈍鎚』!」
「ぐ、ぐああああっ! く、クソが……ッ……」
だが、今はこいつらの始末が最優先事項だ。
至近弾なら、と踏んだのか、射程内に全員が勝手に収まってくれたこともあって、テロリスト共を無力化するのは簡単だった。
範囲魔法持ちを警戒しなかったのは迂闊だが、警戒したところでどうにかなるもんでもないから、大方破れかぶれにでもなったんだろうよ。
こと対人戦に関して、西條千早は特化してるってわけじゃないが、元々なんでもそつなくこなせるオールラウンダーだ。
雷に打たれて気絶した連中を横目に、俺は一応「雷切」の柄に手をかけて、残ったテロリストとゴーレムを視界に収める。
指揮官を失って、引き継いだやつもノックアウトされたことで怖気付いたのだろう。
「ちっ……撤退、撤退だ! 逃げ──がっ!?」
「悪いけど、逃すつもりなんかないですからねー」
「……学校の皆を狙うなんて……許し、ません……!」
諦めたテロリストは逃走の構えに入っていたが、全員が全員、由希奈とこよみに非殺傷性弾で撃ち抜かれていた。
「これで終わり? 歯応えないわね!」
ゴーレムに関しても、残ってた個体が撃ち放つ魔力弾を全て回避しながら、ソードメイスを叩きつけた葉月に粉砕されている。
「ひ、ひぃーっ! 助けてくれ、殺さないでくれ!」
「そんなつもりはありませんよぉ……ただちょっとだけ、夢の世界にお出かけしてもらうだけですからぁ」
そして最後のテロリストにまゆが「ナルコシス・シリンジ」をぶっ刺して昏倒させたことを確認、俺は「雷切」の柄から手を離す。
まあ、なんだ。
無血での完全勝利、事後処理は関係機関にぶん投げるとして、とりあえずはミッションコンプリートってところだった。
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