第1冊「臥薪生譚」②

臥雲がうんくん」


「何、薪原まきはらさん」


「臥雲くんは今まで何冊の小説を読みましたか」


「今までって、今まで?」


「ええ、今まで、今この瞬間までです」


「そうだなあ――読書にハマったのが小学校三年の頃で、だいだい1月3冊くらいは少なくとも読んでいたから――200冊くらいだろうか」


「ふうん」


いた癖に興味なさそうだな」


「ええ、まあ。それが目的ではありませんから」


「薪原さんはどれくらい読んだの?」


「数え切れるまでは、読んだとは言えませんよ、臥雲くん」


「ずっりい」


「ずるくはありません。沢山読んだと言えば良かったのです。別に数を競おうとしてたずねた訳ではありませんから」


「あ、そうなのか」


「全てがあなたの思い通りに行っているとは限らないのですよ――猛省して下さい。臥雲くん」


「……厳しい」


「冗談です」


「薪原さんも冗談言うんだ」


「人間ですから」


「そりゃそうだ――でも、何か意図があって、そんな質問をしたんだろ」


「そう思いますか?」


「うん。薪原さんが、そんな無意味な会話を僕に振るとは思えないから」


「これは認識を改めなければいけないようですね。やりますね、臥雲くん」


「そりゃどうも」


「ええ。そうです。この質問には、続きがあります」


「へえ、じゃあ続けて」


「その大量の本の中で、最も印象に残っている本はありますか? 一番好きな本、でも構いません」


「……どうも質問の意図が見えないけど、うん、まあ、あるよ。小学校の時に――」


「ああ、あるんですね」


「遮るなよ」


「いえ、ある――ということなら良いんです。多分、共感してもらえると思うので」


「?」


「いえね。昨日私、その自分にとって一番好きだった小説、私の読書体験の原点となった小説を読んだのですよ。お風呂に入って、髪の毛を乾かした後、ベッドで寝転がりながら、パジャマで、です」


「ふうん」


「……今、私のパジャマ姿を想像しましたね」


「してねえよ」


「まあ許してあげましょう。ちなみに、パジャマの私も可愛いんですよ?」


「自分で言いやがった」



(続)

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