でかパイ婚約者候補!?~でかパイと突然お見合いをすることになった話~

三国洋田

第1話 これはでかパイ!

 目の前にでかパイがある。


 でかいパイだな。


 直径二メートルくらい、厚さ四〇センチくらいの円形のパイ生地の上に、底面の直径が生地よりやや小さ目で、高さは一メートルくらいのプリンが載っている。


 これはプリンパイだな。


 良い焼き色が付いていて、とても美味しそうだ。



 これは何人前あるのだろうか?


 数十人前くらいか?


 ひとりで完食できたら、賞金が出そうだな。



 そういえば、ここはどこなのだろうか?


 周囲は和室だ。


 窓からは立派な日本庭園が見える。


 俺は高級そうな座布団に座っている。


 でかいパイも大きくて高級そうな座布団の上に載っている。


 見覚えのない場所だな。


 なんで俺はこんなところにいるんだ?


 訳の分からないことだらけだなぁ。



「お初にお目にかかります。私は出火羽でかぱ 偉富凛いぷりんと申します。純田すみだ ひとし様の婚約者候補に選ばれました。よろしくお願いします」


 プリンパイの方から声が聞こえた。


 えっ!?

 今のはなんだ!?


 もしかして、このプリンパイがしゃべったのか!?


「あの純田すみだ様? どうかされましたか?」


 またプリンパイの方から声が聞こえたぞ!?


 やっぱりこいつ、しゃべっているぞ!?


 な、なんじゃこりゃぁぁぁっ!?


「な、なんであなた、しゃべれるのですか!?」


「なぜと言われましても、人だからでしょうか?」


 人なの!?

 どう見てもプリンパイだろ!?


 いや、待てよ……


「もしかして、中に人が入っているのですか?」


「えっ、人ですか? ええと、ちょっと意味が分かりませんが、おそらく違うと思いますよ」


 なら、やはりこのプリンパイがしゃべっているのか!?


「どうやってしゃべっているのですか!?」


「えっ? それは、確か声帯プリンが関係しているそうですが、人体には詳しくないので原理の説明まではできません。申し訳ありません」


 声帯プリン!?


 ナニソレ!?

 訳が分からないよ!?


 それに君は、どう見ても人じゃないだろ!?


 なんで『人体』なんて表現をしたんだ!?


 お前は自分が人だと思っているのか!?


 まあ、そこはどうでもいいか。



「ところで、婚約者候補というのはなんですか?」


「言葉通りの意味ですよ」


 ただのお見合いの相手ということで良いのかな?


 なんで俺はお見合いなんてしているんだ?


 訳が分からなさすぎるぞ!?



「私の職業は『スペシャルハイパーグレートパイクリエイター』と『パイ専門のフードファイター』です」


 職業!?

 プリンパイが職業に就いているのか!?


「それはどのような職業なのですか!?」


「スペシャルハイパーグレートパイクリエイターは、パイを作る職業です」


 そのまんまだな!?


「パイ専門のフードファイターは、パイの大食いをする職業ですよ」


「そ、そうなんですか……」


 自分の仲間を作って、食うのか!?


 なんだか闇が深い職業な気がする!?


「年収は三億から五億円くらいですよ」


 ナニソレ!?

 すごすぎない!?


 パイって、そんなに需要あるのか!?


 俺もその業界で働きたいぞ!


 後で調べてみよう!


「これだけあれば、純田様を養えます」


「えっ!? え、ええ、まあ、そうですね、はい……」


 えええええええっ!?

 このプリンパイは、俺を養う気でいるのかよっ!?


 俺は専業主夫になるのか!?


 まあ、悪くはないかな。


 うん。


 お金があって悪いことはないしな。


 うん。



「私は辛い物が好きなんですよ」


 はぁっ!?

 全身が甘いものでできているのに!?


 いや、甘いからこそなのかもしれないな!?


 というか、このプリンパイは食事をするのか!?


 いったいどうやって食べるんだ!?


 想像も付かないな。


「香辛料を集めて、料理するのも好きなんです。純田様は辛い物はお好きですか?」


「適度に辛い物なら好きですよ」


「では、私の手料理を食べていただきたいですね」


「ええ、喜んで」


「ありがとうございます。日時は後程ご連絡いたしますね」


「はい、分かりました」


 いったいどんな料理が出て来るのだろうか!?


 そして、こいつはどうやって物を食べるのだろうか!?


 興味深い食事会になりそうだな!



「お酒も好きですよ」


「そうなのですか。何を飲まれるのですか?」


「ウイスキー、ブランデー、ワインをよく飲みますね」


 プリンのソースに使われてそうな酒だな。



「それから筋トレも好きですね」


 筋トレ!?

 どこに筋肉があるんだ!?


 ちょっとツッコんでみても良いのかな?


 うーむ、どうなんだろうか?


 とりあえず、やってみるか。


「どんなトレーニングをしているのですか?」


「プリンスクワットやプリンランニングに、プリンダンベルを使用したトレーニングを行っています」


「そうなんですか」


 意味が分からねぇ!?


 なんだよ、それは!?


 スクワットにランニングって、お前には足なんてないだろ!?


 ダンベルなんて、どうやって持つんだよ!?



「映画も好きですよ。最近は『追放された悪役令嬢だと思ったら、実は男で、その辺にあったポーションを飲んだら女の子のスライムになったので、サバイバルをやってみたら、ダンジョンを発見したので、入ってみたらお宝を見つけてハーレムができた件ですが、ナニか?』という作品を見ました」


「そ、そうなんですか……」


 なんだその訳の分からんものは!?


 タイトル長すぎ、性別変わりすぎだろ!?



「他にはドライブに、ギターを弾くのも好きです」


「そうなんですか」


 多趣味なんだな。


 というか、筋トレに映画にドライブにギターか……


 女にモテる男の趣味っぽい感じだな。



「ダンジョンでモンスターを狩るのも好きなんですよ」


「はぁ、そうなのですか」


 ダンジョンにモンスター?


 ゲームの話なのかな?



「それから子供も好きなんです。三人は産みたいですね」


「子供!? できるのですか!?」


「えっ!? それはできますよ!?」


「どうやるんですか!?」


「ど、どう!? そ、それは普通に……」


「普通にナニをするのですか!?」


「そ、そんなの乙女の口からは言えません! 純田様、これはセクハラですよ!」


「えっ!? そうなのですか!?」


「はい、これはセクハラです! このドスケベド変態ドスケベ色情魔ドスケベ女狂い浮気者クズド変態エロ男ケダモノ!!」


「それは、さすがに言いすぎだろ!?」


 ドスケベが三個に、ド変態が二個もあったぞ!?


「いいえ、言いすぎではありません!」


「いや、言いすぎでしょ!?」


「違います! おのれっ、反省も謝罪もせず、そのような発言をするとは、なんと愚かな! 成敗します!!」


 突然、出火羽でかぱさんの前に、金色の光の球体が現れた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」


 しかも、どんどん大きくなっているぞ!?


 最初は直径十数センチくらいだったものが、今は直径三メートルくらいになっている!?


 な、なんだこれは!?

 いったい何をするつもりなんだ!?


「超必殺奥義、アンリミテッド・ミラージュ・トワイライト・クリムゾン・ディザスター・アブソリュート・エターナル・サンシャイン・カタストロフィ・セイクリッド・ダークネス・スーパーノヴァァァッ!!!!!」


 出火羽さんがそう叫ぶと、球体から金色の光線のようなものが放たれた。


 俺は光に飲まれ、強い衝撃を受けた。

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