女神の騎士

翔田美琴

冥帝の光儀

 白雪が舞うクリスマスイブ間近のとある街。

 その数日前から奇妙な噂が流れているとある都市。

 それは【冥帝の光儀】というアイテムを高値で買い取る不思議な女性が、ここ、1ヶ月前に事務所を設立した。

 その【冥帝の光儀】を手に入れた者には多額の金が支払われる。

 街の人々は突然現れた闖入者に驚きを隠せないでいるが、どうやら街には何故か【冥帝の光儀】を持っている人間がかなり多く、こぞって怪しげな女性に買い取ってくれるのに躍起になっていた。


 場所は変わりパブ【ロージィラプソディ】では、何でも屋を請け負う何人かの男達が、突然現れた怪しげな女性に関する何気ない噂を耳にしていた。

 彼らは裏の世界ではこう呼ばれる。

 女神の騎士、と。

 そして謎のアイテム【冥帝の光儀】に関する情報をある情報筋から手に入れている光景があった。


「一体、何だろうな? 【冥帝の光儀】なんて聞いたこともないアイテムだけど」

「女神の騎士のエリオットとオグスが知らないのも無理は無いわ」


 そう答えたのは情報屋の女性、エクレア。

 突如として急に存在が明らかになったこの【冥帝の光儀】にはとある悪魔を目覚めさせる力がある、という。

 女神の騎士は地球上に現れた悪魔を倒す使命が授けられている。

 【冥帝の光儀】にはその悪魔が封印されており、一刻も早い処分を女神は命じた。

 連絡役のエクレアは、パブ【ロージィラプソディ】を根城にして活動をする、一見では普通暮らしをしているような男たち、エリオットとオグスに、依頼をする。

 彼らは木製のテーブルの上に宅配ピザを広げてそれぞれピザを食べながら、話を聞いている。エリオットはえらくくつろいだ格好で椅子に座り、オグスはテーブルの端に座り込んでいる。彼らの格好はそこそこセンスを感じさせる外見に気を配った服装だった。

 エリオットは真っ黒に近いワイシャツに、ズボンは革製を感じさせる濃いめの灰色のズボン。襟が軽く開けられている。そこから微かに十字架のネックレスが覗いていた。

 オグスは灰色のワイシャツに黒系のズボンに軽くネクタイを締めて出前ピザを口に運んで食べながらエクレアの話を黙って、耳を傾けていた。

 外の様子は真夜中。クリスマスイブが近い街はそこかしこに電飾が飾られて、街の賑わいを彩る。

 

「【冥帝の光儀】には非常に危険な悪魔が封印されているのよ。何故かわからないけど、突然、何故かこの街にその忌むべく力が集まってきてしまった」

「……それで俺たちがやるべき事はなんだい?」

「【冥帝の光儀】が集まりきる前に謎の女性からそれを取り返してほしいのよ」

「随分と簡単に言うね。【冥帝の光儀】を集める女は確信犯だろう? それを高く買い取り自らの根城に集めるなんて判ってやっている奴がすることだ」

「いくら怪しいからとは言え、殺すのは偲びないって感じね」

「悪魔を殺すのは別に構わないけど。事が大きくなる前に【冥帝の光儀】を取り返せばいいのだろう?」

「オグス、やってくれるかしら?」

「穏便に済むようにしてみるさ」

「エリオットはどうするの?」

「生憎、クリスマスイブ前後は仕事が忙しいのでね」

「まあ、この手の話はその悪魔とやらが目覚めてくれれば楽しいことになるからな」

「その悪魔に魅入られた人間達が何も知らない人達に危害を加えても楽しいって訳?」

「そこまであからさまに楽しくはないよ。……仕方ないな。とりあえずはこちらも潜入調査を兼ねて奴等の動向を探ってみるか」


 夜が明け、昼間の街のとある事務所には連日のように【冥帝の光儀】を持って来たという客が押し寄せている。

 客達の目は欲望に爛々と輝き、一攫千金をしようと【冥帝の光儀】狩りを始める輩まで現れる始末だ。

 多額の金を支払い、【冥帝の光儀】を手にする怪しい女は嘲笑うように、徐々に集まりつつある悪魔の力にほくそ笑む。

 

「馬鹿な奴らねえ。【冥帝の光儀】はあなた達に災厄をもたらすものなのに、彼らは自ら進んで集めてくれるわ。大金さえ掴ませればこちらの思うがままね」

「このアイテムが集まりきる頃にはあのお方が目覚め、そして街を堕落と悪意で支配してくれる……」


 妖しげな女性は名前をロキと呼ぶ。

 普段の生業は路上占い師を営んでいるが、彼女を訪ねてとある女性がコンタクトを取ってきた。その女性は教皇を勤めているとかで、【冥帝の光儀】を集めるように依頼した人物でもある。 

 教皇ともあろう者が悪魔を呼び出すアイテムを求めている。理由はわからない。だが、豊富な資金源は全てその教皇から流された資金だった。

 晴れて【冥帝の光儀】が集まりきった時にこの街で何が起きるのだろうか?

 暇つぶしにタロットカードで近い未来を見るロキ。でたカードは死神のカードの正位置。

 この計画が失敗に終わるという暗示だろうか?

 気を抜いて引いたカードだが、無視はできない。一体誰が邪魔をしにくるのだろうか?

 そんな折にロキに会いたいという男性がやって来たという。

 広告の人材募集のチラシを見て来たらしい。

 事務所の面談室に向かうとそこには銀髪のナイスミドルな男性がそこにいた。


「お待たせしました。ロキですわ」

「人材募集のチラシを見て来ました。エリオットです」

「仕事の内訳は【冥帝の光儀】の管理とありましたが」

「ええ。この街にあるそのアイテムは裏の筋達が血眼になって探してきてくれているの。あなたにはその者達から【冥帝の光儀】を受け取って欲しいの。彼らにそれを受け取ったら、このアタッシュケースごと渡してくれればそれでいいわ。簡単な仕事でしょう?」


 アタッシュケースには金の札束がぎっしり入っている。

 当のエリオットは中身をあえて聞かないが、裏の筋と聞いて、欲しがるものは一つ、莫大な金と察した。しかし、今回は潜入調査。自分が女神の騎士とバレると厄介な事態になる。ここは正体を隠したままその【冥帝の光儀】をこの目で見る為に指示に従うことにする。

 夜の22時。裏の筋達が【冥帝の光儀】を集めたので受け渡しをしたいとロキにコンタクトを取る。

 ロキはアタッシュケースを持った男性が代わりの受取人として約束した場所に来ると報せる。彼らはそれぞれ煙草を咥え、その場所で待つとアタッシュケースを持った男性が現れる。

 街灯一つもない暗闇での受け渡しとなったが、彼らは疑り深そうに注意してその男性に声をかけた。


「約束の金は持って来ただろうな?」

「持ってきた。【冥帝の光儀】は集まったのかい?」

「ロキさんに言われた数は揃えてきた。商談といこうぜ」


 彼らは暗闇の街中で、取り引きをする。

 裏の筋の下っ端が【冥帝の光儀】を男性に差し出す。

 どのようなアイテムかと思えば、それはまるで宝石のような品物だった。何の変哲もなさそうな宝石に悪魔とやらが封印されているのか?

 だが、素知らぬ顔をしてアタッシュケースを渡すエリオット。

 【冥帝の光儀】は専用の袋に詰めて持ってくるようロキの指示があったので、それに詰めて商談は呆気なく終わる。

 さて、これをロキに渡す前にこの宝石に本当に悪魔が封印されているのか確認する必要がある。

 その現場には連絡役のエクレアが気配を消してそこにいた。

 頃合いを見てエクレアが近寄るとエリオットが一つの宝石を彼女に見せる。エクレアは大きく頷いた。


「間違いないわね。【冥帝の光儀】ってこの宝石のことよ」

「どうする? 目覚める前に破壊するか?」

「それじゃあ解決にならないじゃない。あなた達、女神の騎士の役目は?」

「悪魔狩りだ」

「ロキに渡してきなさい。どの道、この街から【冥帝の光儀】を消滅させるなら全てがロキの下に集まった時に実行に移せばいいわ」

「大胆というか、なんというか……」

「早い所、ロキの下に戻らないと怪しまれるわよ?」

「了解。わかったよ」


 【冥帝の光儀】の受け取りが成功した彼はロキの事務所に戻る。

 真夜中の事務所からはクリスマスの照明だけが眩しく見える。ガラスの窓の景色は息を呑む程に美しい。程なく雪が舞い散る。

 そこに彼が戻ってきた。商談は成功したのだろう。アタッシュケースの代わりにロキが渡した袋を持っている。

 

「商談は成功したようね。簡単な仕事でしょう?」

「心臓に悪いけどね」

「文句は言わないの。【冥帝の光儀】は約束した数を揃えてきたのか心配だわ」

  

 ロキはそう呟きながら無造作に袋をひっくり返すと、妖しげな光を放つ宝石がテーブル一杯に広がる。ロキは数える。

 全部で66個ある。この街にある全ての【冥帝の光儀】は99個。

 そのうち32個は見つけ出し教皇に献上された。後一個ということだ。

 残り一個は教皇自ら持っているとのロキが話した。


「残り一個は教皇様自らが持っているわ。これで献上する数は揃ったわね」

「明日にはこれらを献上すれば私の臨時アルバイトも終わるわね」

「話から察するに教皇様に雇われた人かな?」

「そういうことね。普段は路上占い師なのよ、私の生業は」

「その占いで気になった内容のものは無かったのかい?」

「そうねえ。気になるカードが出たのは確かにあったわ。塔のカードと死神のカード。これらは計画の破綻の暗示を示すけど、未来は確定していないわ。嫌な予感は感じたのだけど……」

「あなた、裏の筋者と取り引きを成功させたのはいい筋をしているわ。教皇様に仕事の斡旋をお願いしてみたらどうかしら?」

「……考えてみるよ。雇用期間はこの取り引きが終わるまでだろう? その取り引きは終わったのならバイト代を貰いたいね」

「とっておきなさい」


 ロキは気前よくエリオットにアルバイト代を支払う。たった1日かそこいらの仕事で、この街でなら1ヶ月も暮らせる金を得た。

 彼はその札束を黒いコートの裏ポケットに潜ますと「世話になった」とだけ言い、足早にそこから去った。

 そしてその足でパブ【ロージィラプソディ】へと向かう。

 真夜中だというにそこには連絡役のエクレアと同期の女神の騎士オグスがいた。

 オグスも何か得たようだ。手応えを感じている様子に見えた。


「何かわかった? エリオット」

「【冥帝の光儀】を集めているのはどうやらこの街の教皇らしい。明日、ロキという女性がそれを献上しに向かうと言っていた」

「こちらも教皇に関する胡散臭い噂を聞いたよ。どうやら奴は悪魔を信仰する教団らしいな。世間では天使だ、神だを信仰しているように見えるが、奴が信じるのは悪魔共さ」

「で、どうするの?」

「明日、その教皇様の所へ挨拶しに行ってやろうか?」

「ついでに悪魔とやらを召喚して貰って悪魔狩りをさせて貰おうぜ」

「決まりだな、フフフ……」


 ロキが教皇がいる神殿へと姿を現した。

 この街はとある大きな教団が幅を利かせていることで有名だ。

 市民の生活から、金のやり取りから、政治まで支配されてしまっている。

 彼らの名前は聖剣教団。その名とは裏腹に教皇は悪魔を崇拝する人物だ。

 実は彼女と女神の騎士達は対立関係にある。

 女神の騎士は正義と調和の女神アストレイアに仕える人間の男性達。彼らはそれぞれ己が守るべき人々の為に女神の騎士になった。

 彼らは表向きは何でも屋をする男性達だが、裏の本業は悪魔狩りであった。

 人間の世界を堕落と混乱から護る為に人知れず闘う男達。

 だが、それはせめて自身が関わる人たちを護ることができればいい、というささやかな目的だった。

 女神の騎士の一人、エリオットには愛する妻と娘がいた。彼女らにはこの裏の本業は知られていない。あくまでも何でも屋と株式のディーラーとして活動をしている。

 もう一人の女神の騎士、オグスは元軍人で今は何でも屋稼業と暗殺者稼業を兼任している。

 情報屋のエクレアも表向きはジャーナリストとして活動している。

 そして悪魔の復活が予見されると彼らはエクレアの合図で集合する。

 聖剣教団の教皇は女神アストレイアを敵視している。この世の穢れを望む欲望に塗れた教皇にとっては女神アストレイアに仕える騎士は邪魔でしかないのだ。

 

「教皇様。ロキ殿が神殿に参りました」

「お通しになって」

 

 教会のシスターの姿にしてロキが袋を持ちやってきた。

 中には【冥帝の光儀】が必要数、収まっている。

 教皇はロキの姿を見ると歪んだ笑みを浮かべる。そして自らの手に収まる悪魔の宝石の力が高まるのを実感した。袋に入っている同じ宝石が力を求めて輝くを増しているのを感じる。 

 ロキは恭しくその袋を差し出した。教皇が一言だけ謝辞を述べた。


「よくやってくれた。ロキ、あなたの働きに感謝します」

「目覚めるがいい。【冥帝の光儀】に封じられし悪魔、人間共に怠惰を与えし悪魔、ベルフェゴールよ! その力で人間共に堕落を与え、そして我々、聖剣教団にその祈りを捧げさせよ! 我を敬え!」

 

 教皇に捧げられた【冥帝の光儀】が袋から飛び出して、そして金色の光に包まれる。

 眩い光と共に現れたのは世にも美しく、世にも妖艶な女性の悪魔だった。

 悪魔の名はベルフェゴール。聖剣教団に支配されし都市に更なる怠惰と色欲を煽る為に、【冥帝の光儀】に封印されていた悪魔だった。

 その瞬間だった。

 

「よう、ベルフェゴールさんよ。待ちくたびれたぜ」

「今回の相手は骨がありそうだな!」


 渋い大人の男性の声が二人、何処からか響く。挑戦的な男性達の声が、雪の降る都市に、神殿に響いた。


「この声はいつぞやの男達か」

 

 女性教皇が声の方向を睨むと銀色に輝く鎧と剣を携帯した男たちが二人して並んで、上から教皇を見下すように現れた。

 身軽な動きで大理石で覆われた床に着地する。

 

「あいつらは──女神の騎士!」

「女神の騎士ですって!?」


 ロキは驚きの声を上げる。あの銀髪の男性は昨夜、日雇いした男性ではないか。

 もう一人の男性も辻占に立っていた時に噂で聞いたことがある外見の男性だ。

 細かい部分のデザインは差異があれど、銀色に輝く鎧は同じ騎士達だった。

 彼らは裏の世界では悪魔狩りを生業にする男性達だったのだ。


「美しい男達だこと……」

 

 ベルフェゴールは妖艶な声で目の前に現れた男達へ魅惑の視線を送る。

 だが、彼らにはその視線の魔力は効いてなかった。普通の我欲に溢れた人間達ならあっという間に理性を失わせる魔力に対する抵抗力がある証だった。

 彼らは視線を顔を少し動かして流すと目の前にいる金色の悪魔ベルフェゴールに対して、そして我欲に満ちた教皇に対して毒を吐いた。


「全く聖剣教団の教皇様の欲深さには呆れるしかないよ」

「何がそんなに楽しいのかね、理性を失った人間を支配してさ」

「馬鹿な領民共に仕える貴様らにはわからぬ楽しさよ」

「やれ、ベルフェゴール。女神の騎士さえ倒せば、この街はお前の力で思うがままぞ」

「美女に刃を向けるなんて野蛮な男……」


 悪魔ベルフェゴールは自分に対して毒を吐いた男達の間合いに一瞬で入って先制攻撃として強烈な蹴りを入れる。

 彼らは吹き飛ばされる。しかし受け身をとったので深刻なダメージは入っていない。

 そしてここから悪魔ベルフェゴールと女神の騎士との闘いが始まった。

 悪魔ベルフェゴールが無数の蹴りを入れる。足捌きは熟練の技で、ベルフェゴールはまずエリオットを狙いに定める。

 エリオットの顔に余裕の表情は無くなり彼は鋭利な銀色の剣を鞘から取り出して、剣の舞を披露する。

 ベルフェゴールは華麗な回避をしながら、鋭利な爪で引き裂こうと両方の腕を振るいながら女神の騎士を追い詰める。

 するともう一人の女神の騎士も片手に握る拳銃で牽制射撃をを繰り出す。

 悪魔ベルフェゴールは華麗に回避すると艶やかな声色で彼らを褒める。


「中々やりますね。褒めて差し上げましょう、しかし……!」

「私の魅惑の呪に従え!」


 周囲を囲む聖剣教団の兵士達の眼が突然赤く染まった。

 彼らは気が狂うような叫び声をあげていきなり女神の騎士へと槍を突き立てる。

 まるでこれは狂戦士、そのものだった。


「何!? いきなり奴等が狂暴化したぞ!」

「ベルフェゴール様のために! ベルフェゴール様のために!」

「死ね! 女神の騎士!」

「クックックっ。我が魅惑の呪にて支配してやった。さあ、その女神の騎士を殺せ!」

「安易な誘惑に惑わされやがって…!」

「別にいいのよ? こいつらの代わりは幾らでもいる。斬り殺して貰っても構わないわ」

「それがベルフェゴールの考え方か。さすが悪魔だけはある」

 

 ベルフェゴールの魅惑の呪の被害は拡大する一方だ。

 その場に立ち合わせた男だけではなく女すらも操り、手足のように操り襲わせる。

 狂暴化した彼らは手に持った槍や剣で次々と女神の騎士へ襲いかかる。

 女神の騎士達は銀色の剣で防ぎながら一太刀ずつ浴びせるが、いかんせん数が多すぎる。

 ベルフェゴールは背中の翼を羽ばたき上空にてその光景を高みの見物に興じる。

 

「そうだ。我が身を犠牲にして奴等を殺せ。単純な人間共など良い捨て駒になる!」

「あはははははは! あーはははははは!」

「極楽の気分は味わえたかしら?」


 すると背後から突然、赤い薔薇の花びらの刃がベルフェゴールを包み込んだ。


「ロージィラプソディ!」

 

 薔薇の花びらが意思を持ったかのようにベルフェゴールを一気に切り刻んだ。

 魅惑の呪が一時的に弱まった。彼らが拳で兵士達の鳩尾を殴りノックアウトすると、悪魔ベルフェゴールに相対する女性の騎士が華麗に立っている。


「ロージィ!」

「お久しぶりね。元気にしていたかしら?」

「小癪な真似を!」

「そうはさせないわ。薔薇よ! 悪魔ベルフェゴールに血の薔薇の洗礼を!」

「グアアアッ!!」


 彼女は女性の女神の騎士、ローズ、相性はロージィ。

 薄目の桃色の鎧と赤いマントが目印の女性の女神の騎士である。

 この女神の騎士は植物を魔力によって武器とする能力を持つ。路傍の雑草すらも彼女にとってはナイフよりも切れ味鋭い刃物になる。

 血の薔薇の洗礼で隙が晒されたベルフェゴールに二人の女神の騎士の剣技が炸裂した。

 

「喰らえ! フォトンインパクト!」


 オグスが大きな真っ白いエネルギーの球をベルフェゴールに直撃させる。

 青白いエネルギーの嵐がベルフェゴールの体を容赦なく焼く。

 それに続いてエリオットの大技も炸裂させた。


「エターナルレイジング!」


 エリオットが銀色の剣でベルフェゴールの心臓に一気に十数回も刃を突き立てる。

 妖艶な女性の悪魔は断末魔の叫び声をあげて、光の彼方に浄化されていった……。


 だが、ベルフェゴールを復活させた聖剣教団の教皇の姿がない。

 彼らは教団の奥の敷地に入っていくが。

 聖剣教団の教皇はこの期に及んで逃げようと神殿から出ようとしている。

 女神の騎士は必ず自分を殺しにくる。そう簡単に殺されてたまるか。

 彼らが教団の奥の通路に出る頃には、教皇は無事に逃げおおせた後だった。

 

「逃げ足だけは一丁前だな」

「悪魔狩りは完了だ」

「助かったよ、ロージィ」

「感謝するよ。ロージィ」

「聖剣教団の教皇の逃げ足の速さは今に始まったことではないわ、それよりも」

「それよりも?」

「今夜はクリスマスイブじゃない! 聖夜を楽しみましょうよ」

「そうだな」


 彼らが空を見上げる頃には白雪が舞い散り、そして聖夜を報せる鐘の音色が都市中に響き渡っている時間だった。

 闘いが終わった彼らはパブ【ロージィラプソディ】でクリスマスイブの祝杯を上げている。情報屋のエクレアも駆けつけて、店内にはラジオの賑やかな声が聞こえる。

 彼らは出前ピザを取り寄せてそれを頬張りながら反省会を兼ねたパーティを開く。

 服装は元の服装になり、それぞれ思い思いの服を着てクリスマスイブを祝っている。

 エリオットは濃いめの灰色にアクセントに青のラインが入った長袖のシャツに、黒のズボン。上着にジャンバーを羽織っている。

 オグスは白いワイシャツに紺色のネクタイに灰色の上下のスーツ姿。その上には黒いコートを羽織っていた。

 ローズは落ち着いた色調の赤いシャツに、革っぽい質感の黒いズボン。上着には茶色のコートと首にはチェック柄のマフラーを巻いている。

 エクレアはゆったりしたブラウスにピンク色のカーディガン、裾が長い薄目のピンクのロングスカート。

 彼らはパブ【ロージィラプソディ】にてその後、【冥帝の光儀】がどうなったのかの顛末をエクレアから聞いた。


「悪魔ベルフェゴールが倒されてから【冥帝の光儀】というアイテムは現れることはなくなった様子よ」

「でも、悪魔全てを倒してはいないから俺達の仕事に終わりはないさ」

 

 ピザを摘みながら、リキュールを傾けるエリオット。

 オグスはビールを飲みながらピザを口に運んでニヤニヤして笑っている。


「本当は普通の仕事はやりたくないからだろ? エリオット」

「なんだとー?」


 なんだかんだで言い争いになるが、どうにもこの二人は悪友同士ね。

 ローズとエクレアは呆れながらも笑って、そして、白雪が舞い散る外の景色を眺めた。


「今年も良いクリスマスイブになったわ。女神アストレイアよ、感謝致します」


 雪は静かに降りながらパブ【ロージィラプソディ】を優しく包むのであった。


 The END

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女神の騎士 翔田美琴 @mikoto0079

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ