#1 プロローグ②
彼女の班は縁結びの神社を中心に、有名なスポットを巡った。
途中で写真映えのする和スイーツを見つけては堪能し、写真を取りまくる。
神社では事前に学んだ礼拝の作法をきちんと守り、神妙な面持ちで手を合わせた。
「なに、野分。ついに好きな人でもできた?」
「……チケットとのご縁がありますように」
「なんだ、アイドルのことか」
「なんだとはなによ!こっちはライブ参戦のために毎回必死なんだから!」
横からちゃちゃを入れてきては勝手にガッカリしている律に噛み付くように答えると、「へぇ、へぇ」と言いながらおみくじ売り場の方に行ってしまった。
私だって本当は追いかけているアイドル本人とのご縁を結んで欲しい。
しかし、そんなことは天地がひっくり返っても無理だということは重々承知なのだ。
だからせめて、ライブに毎回行けるようにチケットの当選をお願いしているのだ。
だけど、律が言うように、私もそろそろ彼氏が欲しい。
(……どうか私に彼氏ができますように。できればアイドルに似ている人がいいです。)
そんなことを神様に願い、静かに手を合わせる。
時間を忘れて祈り続ける彼女の背後を、さあっと風が走り抜けていった。
一瞬だけ、自分以外誰もいなくなったような気がした。
彼女は誰に聞かれているわけでもないのに無性に恥ずかしくなり、
(あと、健康!ずっと健康でいられますように!)
と、無難なお願いを付け加え、そそくさとお辞儀をすませてその場を離れた。
社務所前に集まっている他メンバーのところに合流し、おみくじの結果に一喜一憂してはしゃいでいると、同じクラスの別班の子たちがやってきた。
それぞれ購入したものや食べたものの情報を交換していると、「あそこ行った?」と一人が尋ねてきた。
「あそこ?」
「ほら、ガイドさんが行ってたあの隠れた縁結びスポット!」
そう言われて、野分たちは今朝のバスの中でガイドさんが言っていたことを頭の中で再生する。
「ちょっと郊外から離れてますけどね、ここのお寺の中に石碑が立っているんです。なんでも、平安時代に多くの民を疫病から救ったイケメンな貴族を祀ってあるらしくて。その人にはとても美しい恋人がいて、都を追われたあとも二人は生涯添い遂げたということから、縁結びスポットとして密かに人気なんです」
確かにそんなことを言っていた。
ただ、一日のスケジュールを決めてしまったあとに言われたので、彼女たちの班の行程には入っていなかった。
「竹林の中にあってね、なんかすごく雰囲気良かった!マジ、行った方がいいよ!」
興奮気味に話してるクラスメイトの様子に俄然興味が湧いてくる。
彼女たちは誰ともなくそこへのルートを検索し、所要時間を計算した。
行程の合間にねじ込めるスペースを発見し、そそくさとその場を後にして駆け出す。
もはやそれは、狩人の目だった。
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