じぶんのはなし
雪待ハル
じぶんのはなし
ねえ、ねえ、すくってくれないか
このどろどろした何かから
くるしいじぶんの心をさ
すくいあげてはくれないか
ねえ、でも、それって他力本願?
白馬の王子を夢見てさ
結局泣き疲れては目を閉じるんだ
ねえ、ほら、窓の外をのぞいてごらん
色んな声が聞こえてくるよ
色んな景色が広がるよ
あの中へ飛び込んでみようよ
ねえ、でも、じぶんは怖いんだ
敵意を向けられ蔑まれ
憎まれ妬まれ怖がられ
たくさんの色や音の中で
ひとりきりになるのは とても怖いよ
じぶんの心の中には怪物が一匹
そいつを必死に抱きしめて
「落ち着け」とさとす
するとそいつは泣き出して
「だったらわたしを殺してくれよ」
じぶんにすがってはそう叫ぶんだ
ねえ、ねえ、心の中の怪物よ
それはできない相談だ
なぜならきみはじぶんだから
じぶんは怪物も含めてまるごとじぶんだ
じぶんはきみごとじぶんを愛しているのさ
だから外の世界をおそれる
じぶんを否定されるんじゃないかって
びくびく震えておののいて
怪物と体を寄せ合ってぎゅっと目をつむる
まぶたの裏は真っ暗で
白馬の王子なんか見えないのさ
ねえ、ほら、どろどろしたものの中からも
見えるものがあるよ
聴こえるものがあるよ
あなたの笑顔
あなたの言葉
あなたの温度
そういうものに
じぶんは何度も救われてきたのさ
怪物と一緒にすくわれてきたのさ
だから、ねえ、白馬の王子が来なくても
どろどろの中から這い上がる
世界にはあたたかなものが確かにあると
じぶんは知っているから
これがじぶんのはなし
ねえ、ねえ、聞かせてくれないか
あなたのこれまでの旅路のはなしを
じぶんのはなし 雪待ハル @yukito_tatibana
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