第7話 氷嬢様と初めての友だち
期末試験が終わり、もうすぐ夏休みの7月中旬。昼休みの時間に主税と駿介は教室でお昼ご飯を食べていた。
駿介「なあ主税、その唐揚げ一つくれよ。」
主税「いや、パンと唐揚げって組み合わせ悪くないか?」
駿介「いいじゃねえか。食にうるさい男はモテないぞ。」
主税「うるせー」
主税は自分の自家製のお弁当を食べていた。中身は3色そぼろと唐揚げ、卵焼き、ブロッコリーの塩ゆでだ。
主税「(今日も氷堂さんは一人で弁当か。)」
主税が気にしていたのは同じクラスの氷堂鈴女。水色の長いロングヘアにキリっとした目元、スタイルもモデルみたいでまさに学校一の美人。しかし表情を表に出さないことから氷の嬢王様。略して氷嬢様と言われている。そんな彼女と話をしている人は一人もいない。別に嫌われているわけではないが、周りの女子からは話しかけづらいらしい。しかし、今日は・・・・・・
?「氷堂さん!一緒に食べないですか!?」
と元気な声が聞こえてきた。茶髪のポニーテールを揺らしながら少女は鈴女に話しかけた。
鈴女「あなたは?」
朱莉「隣のクラスの山吹朱莉(やまぶきあかり)です!」
鈴女「その、なぜ私とお昼を?」
朱莉「実は入学してから氷堂さんの事気になっていたの。」
鈴女「そうなのですか。別にかまいませんが。」
朱莉は前の席の椅子を借り、お昼を食べることになったのだ。それから夜、主税と鈴女で晩御飯を食べていた。今日のご飯は簡単にざるそばである。そこで主税は今日のお昼に話していた女子高生の話をすることに。
主税「氷堂さん。今日の昼、一緒にメシ食ってたのって誰だ?」
鈴女はそばを啜っていた。飲み込んだ後、口を開いた。
鈴女「山吹さんのことですか。隣のクラスらしいです。」
主税「隣のクラスから一緒にメシ食いに来るのはよくあることだけど。」
鈴女「私は高校に入って初めてですね。一緒にご飯を食べるのは。」
主税「・・・・・・なんかすまん。」
鈴女「いいえ、本当のことですので。」
主税「でもその山吹さん。かなりのマシンガントークをかましてたよな。」
鈴女「内容はクラスの方の話が多かったですね。」
主税「よく理解できるな・・・・・・」
鈴女「ですか、あの山吹さん。何か無理をしているような気がします。」
主税「無理?」
鈴女「私の思い違いかもしれませんが、なにかキャラを作っているように感じました。」
主税「キャラづくりか。そうしなくちゃならない理由があるのか?」
鈴女「いえ、あくまで私の予想です。」
鈴女はそばをまた啜りだした。ワサビが効いたのか鼻の先を赤くしていた。
次の日、主税は学校で幼馴染の林原倫に、クラスメイトの朱莉のことを聞いてみた。
倫「う~ん。確かにクラスでの人気も高いし友達も多い。とても明るい子ね。」
主税「やはりそうなのか。」
倫「でもなんで山吹さんのこと知りたくなったの?もしかして山吹さんの事が・・・・・・」
主税「バーカ、そんな訳ねえだろ。でも、なんかキャラづくりしている感じがしてるって思ったんだよ。」
倫「意外、主税って勘がよかったっけ?」
主税「うっせぇ。」
倫は廊下の壁に背中をつけた。
倫「それは私も思う。ちょっとおかしいなって思う時があるのよ。何て言うか無理にクラスメイトに合わせようとする感じがね。」
主税「やっぱりか・・・・・・」
倫「それともうひとつ、彼女県外から来たらしいのよ。」
主税「マジか!」
主税はキャラづくりの原因が新しい環境になじむためなのか考え始めた。
放課後、主税は日課だったため教室の掃除を終わらせていた。
主税「うん、我ながら完璧な仕上がりだ。」
教室はピカピカになっており床にはホコリ一つも落ちていない。主税の家事スキルは学校にも生かされていたのだった。しかしこのことを知っている人は数人しかいない。
主税「さて、帰るか。今日の晩飯何すっかな~」
主税は今日の晩御飯の献立を決めながら歩いていると隣の教室に一人の女性がノートを書いていた。
主税「あれって山吹さんだよな。」
教室にいたのは今日話に上がっていた山吹朱莉だった。真剣にノートを書いていたので中身が何か気になった。
主税「(まさか・・・・・・学校の生徒の悪口ノートとか・・・・・・)」
主税はそっと帰ろうとしたが足元にある木の枝(なぜ教室内に・・・・・・)をうっかり踏んでしまった。パキッと乾いた音が響いた。
朱莉「だれ!?」
朱莉は音の鳴った方に顔を向けた。主税と目が合った。
主税「あ・・・・・・」
朱莉「あなたは・・・・・・」
主税「俺は、鍛冶場・・・・・・」
朱莉「鍛冶場主税くんだよね!氷堂さんと同じクラスで一年の時は遅刻の常習犯だった!」
主税「うるせぇ!今は遅刻してないっつうの!!」
朱莉「でも、どうしてこんな時間にいるの?」
主税「今日日課で掃除当番任されたんだよ。」
朱莉「そーなんだ。」
主税「ところでそのノートって」
朱莉はノートを閉じた。
主税「お前、まさかクラスメイトの悪口を書いてたとかじゃねえよな!」
朱莉「そんなわけないでしょ!何で人の悪口書かなきゃならないのよ!」
主税「じゃあそのノートの中身は何なんだ?」
朱莉「・・・・・・みんなには内緒にしてね。」
朱莉はノートを開いた。中身はクラスメイトの名前と生年月日や好きなものや苦手なものなどが書かれていた。
主税「これって・・・・・・」
朱莉「私、昔はコミュ障で話かけることができなかったの。それを直すために身なりを整えて私のことを誰も知らない県外のこの高校に来たの。」
主税「コミュ障?そんな風には見えねえけど。」
朱莉はスマホを取り出し、写真を主税に見せた。写真には眼鏡にジャージ姿のイモっぽい見た目の女子が映っていた。
主税「だれ?」
朱莉「私よ。二度とこうならないよう自撮りしたの。」
主税「確かにまったく違うな。」
朱莉「だからこの学校では会話をして友達を増やそうとしたんだけど・・・・・・どうやらキャラを作っているみたいって陰で言われてどうすればいいのかなって。」
主税「(自分でも気づいていたのか・・・・・・)」
主税はある提案をした。
主税「俺は今の山吹さんの方が話しやすいけどさ。会話はする方も聞く方も長めだと疲れるからさ。」
朱莉「・・・・・・そうなの?」
主税「俺はそうだと思うし他の人もそう思うんじゃないか。昨日の氷堂さんとの話を聞いて思ったんだよ。」
朱莉「そうだったのね。やっぱり慣れないことをしてはいけないわね。すぐにぼろが出てしまう。」
主税「だったら、やめるとか。」
朱莉「そんなことしたら友だち無くなるじゃない!」
朱莉は声を荒げた。
朱莉「だって今更キャラを元に戻してこんな感じじゃないって幻滅されて友達やめられたらって思うと・・・・・・」
主税「そんなに友達関係が脆いのか?」
朱莉「そんなことはないと思いたいけど。」
主税「それなら。そんな友達捨てちまえ。」
朱莉「さ、最低!何でそんなひどいこと言うの!」
主税「そんなんで崩れるくらいなら崩れた方がいい。俺はそう思うだけさ。」
朱莉「何よ、クラスの人気者であるあなたには分からないでしょうね!」
主税「だったらもういいよ。でもこれだけは言っておく。今の状態だとお前は間違いなく体調を崩す。それだけだ。」
主税は教室を後にした。
朱莉「何よ。私の事知ったように・・・・・・」
朱莉は下唇を嚙み締めた。
次の日、体育の授業ではプールの授業が行われていた。同じプールサイドだが男子と女子では別々に授業をしていた。
主税「しゃっ!自己ベスト更新!」
主税は25mクロールを計り自己ベストを更新していた。
駿介「お前スゲーな。水泳部よりも速い記録が出てたぞ。」
主税「やっぱり体を動かすのは気持ちがいいな。」
駿介「じゃあなんで部活に入らないんだよ。夏休みの間、体育なんてないんだぞ。」
主税「それはいろいろ事情があってだな。」
駿介「それって・・・・・・カネか?」
主税「それは問題ねえよ。親父に十分な仕送りももらっているしな。」
駿介「だったらさ。ウチのバスケ部に入らないか。中学の時みたいにまた全国目指そうぜ。」
主税「それは・・・・・・」
体育の先生「鍛冶場、ちょっといいか。」
主税「なんスか?」
体育の先生「氷堂が泳いでいる最中に壁に頭を打ったらしくてな。体育委員だし万が一倒れたりしたら大変だからお前が適任だと思ってな。頼めるか?」
主税「うぃっす。」
主税はベンチで頭をアイシングで冷やしている鈴女のもとに向かった。
鈴女「すみません。お願いいたします。」
主税「いいって、とりあえず着替えて保健室行くか。」
鈴女「はい。」
2人はそれぞれの更衣室で制服に着替え、保健室に向かった。
保健室の先生「どうしたの?」
主税「どうやら頭を打ったらしくて。」
保健室の先生「じゃあ頭見せてもらえるかしら。」
と、保健室の先生に、たんこぶが無いか確認するために頭を触って確認していた。主税はベッドに誰かいるのに気づいた。
主税「誰かいるんスか?」。
保健室の先生「山吹さんよ。授業中に突然倒れたらしいの。」
主税「倒れた!?」
保健室の先生「静かに、まだ寝てるのですよ。」
主税「すんません。」
鈴女「それで倒れた原因はなんだったのですか。」
保健室の先生「話し合いの最中に倒れたらしいのよ。」
主税「そうスか・・・・・・」
保健室の先生は用事で保健室を出て行った。鈴女はたんこぶができたところにアイシングを当てていた。
鈴女「鍛冶場さん。さっきから呻き声が聞こえてきませんか?」
主税が耳をすませると「う~んう~ん」と悪夢にうなされたような声が聞こえた。
主税「ちょっと様子見てくるわ。」
主税はゆっくりカーテンを開けた。ベッドでは朱莉が呻き声を上げて寝ていた。目をつむっているが苦しそうにしていた。すると朱莉が
朱莉「もうやめて!!」
とがばっと起き上がった。
主税「ビビった~!」
突然の起床にビビった主税は飛び上がった。
朱莉「鍛冶場くん!?」
主税「悪い。氷堂さんの付き添いできたんだ。」
朱莉「氷堂さん!?」
主税「もう自分を偽るのはやめた方がいいんじゃねえか。」
朱莉「またそんなことをいうのね。」
朱莉は主税を睨みつけた。
朱莉「でも、無理しすぎたのはホントの事よ。今日倒れたのはクラスの人たちと話し合いをする授業があったんだけど、その時にクラスメイトにやる気のない子がいてね、一緒にがんばろって言ったら、無視されてね。最後にはあなたの外面の態度が気に食わないって言われちゃった。」
朱莉はシーツを握りしめた。唇を嚙み目から涙がこぼれた。
朱莉「じゃあどうすればいいのよ・・・・・・ここまで頑張ってきたのに・・・・・・また一人はヤダよ・・・・・・」
とある人物が朱莉の手を握った。
朱莉「!?・・・・・・氷堂さん。」
朱莉の手を握ったのは鈴女だった。アイシングを持っていたこともあり手がとても冷たかった。
鈴女「私は、初めてあなたに話しかけられたとき、とても嬉しかったです。私も友達がいなかったので。」
朱莉「そうなの、とてもそうとは思えなかった。」
鈴女「なので、私とお友達になってもらえないでしょうか。」
朱莉「いいの・・・・・・?」
鈴女「はい、でも一つだけ約束していただけますか。私の前ではありのままの自分で接していただけないでしょうか。」
朱莉「・・・・・・ありがと。」
朱莉は鈴女の胸に飛び込み泣き崩れた。鈴女は優しく朱莉の頭を撫でた。こうして鈴女の初めての友だちができた。
第7話(完)
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