第5話 氷嬢様とボランティア(後編)

前回のあらすじ。高校のボランティア活動で主税と鈴女は一番不人気の「田植え」となった。最初は田んぼでの運動会が行われ、現在男子サッカーが行われた。ボールをキャッチした主税は一組にボールを渡し、そのボールを足で受け取るとそのまま今度は鈴女のいるゴールへ向かった。


鈴女「!!」


ボールがワンバウンドし泥水が跳ねて鈴女の頬にかかった。


一組の生徒がスライディングでボールをゴールにねじ込んだ。先制点は一組だった。


一組の生徒「よっしゃ!先制点!」


と田んぼの真ん中で喜びを爆発させて何人かは転んで全身泥んこになっていた。


二組の生徒「お姉ちゃん!ちゃんと止めないと!」


鈴女「あ、すいません・・・・・・」


小学生の正直すぎる一言に鈴女は肩を落としていた。


笛が鳴り試合が再開された。勢いに乗る一組はボール奪いを制しまた鈴女のいるゴールに向かってボールを蹴ろうとした。


鈴女「(くる・・・・・・でもまた捕れない可能性も・・・・・・)」


反対側のゴールから主税の声が響いた。


主税「氷堂さん、真正面に構えるんだ!怖がらなくても大丈夫!どっしり構えれば取れるぞ!」


二組と子がシュートをした。ボールの真正面に移動し、止める構えをした。今度はバウンドせずダイレクトにきた。


鈴女「くっ!」


鈴女はボールを抱きしめるようにがっちり止めた。


二組の生徒「お姉ちゃんこっち!!」


鈴女はその子にボールを投げ渡した。


ボールをもらった子が先陣に乗り込み、主税のいるゴールに向かった。


二組の生徒「いけ!」


シュートした。主税が止めようとしたがゴールポストにかすってそのままゴールに入った。


主税「うわあああああ!」


主税は横ジャンプで止めようとしたためそのまま田んぼにスライディングで飛び込んでしまった。おかげで首から下が泥んこになってしまった。


主税「(あれ・・・・・・俺、なんでこんなことしてんだろ・・・・・・)」


小学生の時汚れることに抵抗があったのだが、その時に比べて今回は派手に汚していた。鈴女はさっきシュートを決めた少年とハイタッチをしていた。鈴女は少し困惑していたがハイタッチを返した。


その後、シュートは何回も放っていたが主税と鈴女が全部のボールを止めてその結果、1対1の同点で試合は終了した。次の競技まで主税たちは少し休憩することに。


鈴女「鍛冶場さん、ありがとうございます。」


鈴女は主税に一礼した。


主税「え、何が?」


鈴女「鍛冶場さんがボールを取るためのアドバイスをしてくれたではありませんか。あれで自分に自信が持てました。」


主税「そっか、あのアドバイスなかったら俺らが勝ってたかな・・・・・・な~んてな。」


鈴女「それにしても服が泥で真っ黒になってますね。」


主税「そういう氷堂さんも真っ黒だぞ。」


鈴女は自分の服を確認した。


鈴女「ほんとうですね。ここまでになるとは。」


主税「反応薄いな・・・・・・普通女の子が汚れるのに抵抗あるはずだろ。」


鈴女「でも、田んぼでここまで動いたらそうなると思うので。」


主税「そりゃそうだな・・・・・・」


鈴女「最後の競技は女子のバレーボールですよね。」


主税「そうだな。俺たちはアタックするのは禁止だけど繋げたり返したりするのはいいらしい。だからセッター(スパイカーにボールをトスするポジション)の役割だろうな。」


最後の競技は女子のバレーボールだ。ボールは当たってもそれほど痛くないママさんバレーのボールを使う。本来は6人でやるスポーツなのだが女子生徒10人と主税と鈴女で一チーム11人となった。


主税のいる一組の生徒がサーブを打ち鈴女のいるコートに入った。一人がボールを取り鈴女がぎこちなくトスを上げた。しかし、誰がスパイクするかでお見合いが発生してしまいボールが田んぼにチャポンと鳴らして落ちていった。


鈴女「(やっぱり汚れるのが嫌でスパイクしないですね。)」


一組の生徒がサーブを打ち、二組の生徒がボールを取り、鈴女がトスを上げようとしたとき


鈴女「ボールは相手の取りにくいところに返しましょう。」


すると最後に返したボールがアウトゾーンギリギリのところにボールが飛んでき取りに行こうと下がっていた女子生徒は足元がもたつき、後ろから倒れた。


主税「大丈夫か!?」


主税がゆっくり歩きながら倒れた生徒のもとに駆け寄った。


一組の生徒「足元が動きにくくてコケちゃった。」


主税は手を出して女子生徒を引っ張り起こした。


主税「(おそらくこの作戦出したのは氷堂さんだな・・・・・・)」


二組の生徒がサーブして一組の子がレシーブをした。少し乱れたが主税はボールをレシーブで返した。そのボールはネットに引っかかったもののボールは二組のコートの前に落とした。


主税「(どうだ、さすがに飛び込んで取りに行くことはできないだろう!)」


なぜか泥のフィールドでの頭脳戦が行われていた。このあとも一組はネット前にボールを落とし、二組はあまり人のいないところに落とすスパイク無しのバレーが続いていた。点数も中盤に差し掛かったころ二組の返したボールが一組コートの真ん中にボールが行った。ちょうどそこはアウトコースにボールを落としている二組対策で真ん中側は誰もいなかった。


主税「(このままだと点が取られる・・・・・・でも、汚れるのは嫌だ・・・・・・)」


しかし点数は二組がリードしている。このままだと一組は負けてしまう。


主税「ぐっ!やるしかねえ!!」


主税はボールをフライングレシーブで取ろうとした。ボールは無事に上がり一組の生徒がボールを返し一組の得点となった。


一組の生徒「お兄ちゃん派手に飛び込んだけど大丈夫?」


主税はむっくりと立ち上がった。とうとう唯一キレイだった顔が泥まみれになった。


主税「最悪だ・・・・・・口の中に泥入ったし。」


一組の生徒「ごめんなさい。取りに行けばよかった。」


主税「いいって、もう俺泥んこだからギリギリのところは全部取りに行ってやる。」


そこからギリギリのところは主税が取りに行くことにその代わりトスや返す人は声掛けで一組に団結力が生まれた。点差が縮まりついに一組が逆転した。


二組の生徒「ヤバいよ、このままだと負けちゃうよ~!」


鈴女「(鍛冶場さん本気でやっていますね。このままだと負けてしまいます。)」


一組がボールを返そうとしたがネットに引っ掛けて落とすやり方をしていたため全体的に前に集まっていた。そのためボールをコートの後ろに返した。


二組の生徒A「しまった!!」


二組の生徒B「後ろには誰もいない!」


そのとき一人の女子が後ろのボールを取りに飛び出した。思い切り飛び込んだため泥しぶきが上がり取ったボールが前にいる生徒たちに飛んで行った。一人がそれをダイレクトでアタックして二組の点になった。


二組の生徒A「大丈夫ですか!」


1人がその取りに行った女子のもとへ向かった。その女子はゆっくりと立ち上がった。


主税「(氷堂さん!?)」


ボールを取りに行ったのは鈴女だった。もはや誰か分からないほどの泥人形と化した鈴女は無表情でコートの真ん中に立った。


鈴女「これでお相子です。もう好きにはさせません。」


しかしその目には炎が燃えているように見えた。


主税「(以外に負けず嫌いなんだな氷堂さん・・・・・・)負けねえ!!」


そこからは主税と鈴女がくさいところに落ちそうなボールを取りに行く展開になり、周りの女子生徒も二人に感化されたのか、積極的に取りに行くようになった。


結果は・・・・・・主税のいる一組の勝利で終わった。二組は僅差で負けたため悔し涙を流す人もいた。


二組の生徒「せっかく追いついたのに負けちゃった・・・・・・」


鈴女は泣いている生徒の頭を撫でた。


鈴女「悔しいですけどみなさんと一緒にプレイできてよかったです。」


鈴女は少し微笑んだ。周りの女子生徒がざわめいた。水も滴るいい女ならぬ泥も滴るいい女の鈴女に思わず二組の生徒たちは


二組の生徒たち「う・・・・・・美しい・・・・・・。」


こうして全部の競技が終了した。残り30分は自由に遊ぶフリータイムだ。生徒は田んぼで走り回ったり泥を投げつけていたりで遊んでいた。主税と鈴女は顔についた泥をペットボトルの水で洗い流していた。


主税「ぷはっ・・・・・・まさかここまで白熱するとは・・・・・・」


鈴女「でも楽しかったですね。皆さんで楽しく遊ぶことはほとんどなかったので。」


主税「もしかして学校に友達がいなかったとか?」


主税は発言した後、しまったと口をふさいだ。


主税「ごめん・・・・・・デリカシーのないこと言っちゃって。」


鈴女「いいのです、本当のことなので。元々この不愛想な顔なので周りは寄ってこないですし・・・・・・」


主税「昔はそうかもだけど今は少しずつ表情も柔らかくなっていると思うぞ。」


鈴女「ありがとうございます。」


そんな話をしていた時、鈴女の体に泥団子が投げつけられた。


男子生徒A「ごめんなさい!当てるつもりなかったんです!」


どうやら泥団子を投げようとした人に避けられ、その球が鈴女に当たったのであった。


鈴女「いいですよ。気にしていないですから・・・・・・」


と言いながら鈴女は泥をすくいあげてこねていた。


主税「おい・・・・・・氷堂さん?」


鈴女「お返しです。」


鈴女は泥団子を投げ返し男子生徒の顔に当たった。


男子生徒B「ぶっ!!」


男子生徒C「よ~し!僕たちもお返しだ!」


男子3人は泥団子を鈴女に投げつけ続けた。鈴女はその猛攻を受け全身泥まみれになった。


男子生徒A「あ・・・・・・やりすぎちゃった。」


主税「氷堂さん?」


鈴女「もう・・・・・・小学生はやんちゃですね・・・・・・」


鈴女は怒っているわけではなくなんか少し楽しくなっているように感じていた。鈴女は主税の方に向かった。


主税「え?」


鈴女は主税を突き飛ばし田んぼに落ちていった。


主税「何してんの!?」


鈴女「鍛冶場さんも参加しませんか?」


主税「いや、俺は汚れるのはチョット・・・・・・」


そういって立ち上がろうとしたが鈴女と投げ合っていた男子3人に抑えられてしまった。


男子生徒A「お姉ちゃん今だ!」


鈴女「はい。」


鈴女は泥をこねて主税の顔に投げつけた。


主税「ぶっ!!」


主税は口に入った泥をペッと吐き出していた。男子3人から解放された主税は鈴女を追いかけまわした。逃げようとした鈴女はバランスを崩しこけそうに、主税は助けようと手を掴んだが主税もバランスを崩し二人仲良く田んぼにダイブした。


こうして田んぼ運動会は終了を迎えた。最後の挨拶で主税と鈴女が前に出たが二人とも原型が分からない泥人形となっていた。その姿に周りは騒然としていた。


鈴女「今日はみんなと遊べて楽しかったです。ありがとうございました。」


主税「みんな泥んこだけど俺たちはもっと汚れて自分でもビックリだよ。明日の田植えもよろしくな。」


あいさつが終わり小学生は放水シャワーで泥を落としていた。永野先生が二人のもとにやってきた。


永野先生「二人ともお疲れ様。生徒より泥んこになっているなんて今までのボランティアの中じゃ初めてじゃよ。」


主税「ハハハ・・・・・・ここまでなるとは思わなかったけど。」


永野先生「実はの、高校ボランティアにこの田植え活動を止めようかと考えていたのだが、考えすぎのようじゃったな。」


主税「え・・・・・・」


永野先生「いや~君たちのおかげで悩みが吹き飛んだよ。ありがとう。」


主税はその場に座り込んだ。


主税「そ、そんな~・・・・・・」


隣の鈴女はそんな様子を見て面白そうに微笑んでいた。


生徒が学校に戻るのを確認した後、主税と鈴女も泥を洗い流していた。


主税「冷たいって!!」


鈴女「我慢してください。」


主税「そんなこと言ったって冷たいものは冷たいんだよ!」


鈴女「鍛冶場さんが終わったら次私の番ですからね。」


主税「(終わったら同じことをし返してやる!)」


主税の泥を洗い流した後、ホースを主税に渡し、水を鈴女にかけた。しかし反応は全くなかった。


主税「(おかしいな、なんのリアクションもない?)」


鈴女「(ほんとに冷たかった・・・・・・)」


一日目の田んぼ運動会を終えた次の日の田植え本番。主税は腕を伸ばした。


主税「よく寝た~まさしく泥のように眠っていたよ。」


なんて冗談を言っていたのだが主税はある異変を感じていた。


主税「いつもこの時間に氷堂さんが来るはずなのに来ないな。」


主税は準備をして隣の鈴女の部屋のチャイムを押した。するとドアが開き鈴女が現れた。しかしなぜか中腰だった。


鈴女「す・・・・・・すみません。筋肉痛になりまして・・・・・・」


主税「確かに昨日体使っていたしな。」


鈴女「今日の田植え上手くできるでしょうか?」


主税「無理はするなよ。」


その後の田植えでは鈴女は動ける範囲内で田植えをしたという。


第5話(完)

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