第4話 氷嬢様とボランティア(前編)

6月になり、学校では近くの小学校のボランティア活動をすることになった。


駿介「悪いな主税。このじゃんけん死んでも勝たせてもらうぞ。」


主税「ふざけんな、ぜってぇ勝つ!」


主税と駿介は班決めのためじゃんけんをした。主税がグー、駿介がパーを出した。


主税「だ~!負けた!」


駿介「悪いな、じゃあ俺プール掃除。」


駿介は黒板に自分の名前を書いた。


主税「・・・・・・最悪だ。よりによって田植えとは。」


一方女子班は・・・・・・


鈴女「負けちゃいました・・・・・・」


女子生徒A「氷堂さんごめんね。田植え頑張って。」


主税「(え・・・・・・まさか氷堂さんと同じかよ!)」


駿介「お前、氷嬢様と同じだと!許せん!」


主税「じゃあ変わるか?」


駿介「嫌いいや。」


主税「なんだよ!」


その夜、主税の家で鈴女と晩御飯を食べていた。今日のご飯はかつ丼だった。


鈴女「しかし、皆さん嫌がっていましたけどそんなに大変なボランティアなのですか?」


主税「いや、田植えは別に大変じゃないんだよ。大変なのはその前、土を耕すために田んぼで運動会をするんだよ。高校生はそのサポーター。格好は汚れてもいい服を着ていいし、中にスクール水着を着るんだけど、まあ間違いなく全身泥んこになるな。」


鈴女「詳しいですね。」


主税「ほとんどの生徒がこの学校の卒業生だからな。俺もその一人だよ。俺がやってた時のボランティア学生の人もいやいやでやっていたしな。」


鈴女「そうですか。でも、私は逆ですね。」


主税「逆って、楽しみだってことか?」


鈴女「ええ、だって鍛冶場さんと同じなんですから。」


主税「!!」


主税は恥ずかしさを隠すためにかつ丼をかきこんだ。かきこみすぎてむせたのは言うまでもなかった。


そしてボランティア活動の日がやってきた。ボランティアの期間は2日間で今日は田んぼ運動会、次の日に田植えをする予定である。空きの教室で主税は汚れてもいいシャツとズボンをはいて、隣の教室で着替えている鈴女を待った。


主税「(前に言われたことが頭から離れねぇ・・・・・・)」


主税は恥ずかしさのあまりその場でしゃがんでしまった。


鈴女「あの・・・・・・鍛冶場さん?」


主税「なっ!」


鈴女は水色のシャツに紺のズボンを着て現れた。肩からチラッとスク水が見えた。


主税「ひょ、氷堂さん!?」


鈴女「どうしたのですか、調子悪いのですか?」


主税「ちげぇし!そんなんじゃねえし!」


まるでツンデレヒロインみたいな返しをした主税は鈴女と共に学校から少し離れた田んぼに移動することに。田んぼには小学5年生の生徒が集まっていた。


?「鍛冶場くんかい?久しぶりじゃの。」


眼鏡をかけたジャージ姿の老人先生に声をかけられた。


主税「永野(ながの)先生、お久しぶりっす。」


永野先生「大きくなったのぅ。あのやんちゃ小僧がここまで成長するとは。」


主税「言わないで!恥ずかしいから。」


鈴女「こんにちは。今日はよろしくお願いします。」


永野先生「君がもう一人のボランティアの氷堂さんだね。田んぼ運動会、サポーターとしてよろしく頼むのぅ。」


鈴女「はい。」


永野先生がマイクを持ち、生徒に挨拶をした。


永野先生「次に高校生ボランティアの人たちのあいさつじゃ。」


主税がマイクをもらうと挨拶をした。


主税「鍛冶場主税だ。この学校の卒業生でこの田んぼ運動会も2回目なんでよろしく!」


と元気よくあいさつした。鈴女にマイクを渡すと鈴女はおしとやかに挨拶をした。


鈴女「氷堂鈴女です。よろしくお願いします。」


女子生徒からはかわいいだったり、きれいだったり容姿に関して女子生徒に羨ましがられた。

先生からの話を終えると、さっそく生徒全員で田んぼに入ることに。


女子生徒「キャー!気持ち悪い」


男子生徒「変な感触・・・・・・」


と悲鳴が飛んできた。主税と鈴女も田んぼに入ることに。主税が田んぼに足を突っ込むとにゅるっと泥が足にまとわりついた。


主税「う、気持ち悪・・・・・・やっぱりなれないな。」


鈴女「そうなのですか?」


主税「入れるか?」


鈴女「そうですね、ちょっと怖いですね。」


主税が手を差し出した。


主税「手、掴んでいいから。」


鈴女「ありがとうございます。」


鈴女は手を掴むと足を田んぼに入れた。表情は相変わらず分からないが、ほかの人同様気持ち悪いと思っているのだろうか。


主税は手を離した後、その場を歩き出した。


主税「(くっ・・・・・・早く終われ・・・・・・)」


全員が田んぼに入った時、永野先生がマイクで全員に知らせた。


永野先生「よし、みんなだいぶ慣れたようじゃし、徒競走を行う。」


主税「いきなりこれから始まるからな・・・・・・」


永野先生「じゃあ鍛冶場くん。お手本として一人で走って。」


突然の呼ばれに主税は驚いた{泥だけに・・・・・・なんでもありません。}


主税「え、先生!?今までそんなことなかったじゃねえか!」


永野先生「鍛冶場くんは経験者なんじゃからお手本見せてもらわんと。」


主税「(このクソジジイ・・・・・・)」


主税はスタート地点に立った。一人の徒競走とは公開処刑ものだ。


主税「(しょうがねえ、やるしかねえか。)」


すると鈴女が手を挙げた。


鈴女「あの、私も参加して大丈夫でしょうか?」


永野先生「あ、その気があるならいいぞ。」


鈴女が田んぼに足を取られながら慎重に歩き主税の隣に向かった。


主税「氷堂さん。何で?」


鈴女「私もボランティアなので。」


主税「ありがとう。でも、無理はしないでね。」


合図のピストルが鳴り、主税は全力で走り出した。泥しぶきが上がりぬかるんだ足元に足を取られながら、主税はゴールまで走り切った。


主税「ふぅ・・・・・・何とか走り切った。」


一方鈴女自身は全力で走っているのだが、こけないように走っていたため、勢いがなかった。なんとかゴールにたどり着いた。


鈴女「ハアハア・・・・・・」


主税「お疲れさん(走り方も女の子走りだったな。もしかして運動苦手なのか?)」


二人のオリエンテーションを終え、ここから生徒の徒競走が始まった。並びは男子5人横に並び、その後ろに女子が5人横に並んでいた。その後ろに男子女子と交互に並んで徒競走をすることになった。そして主税と鈴女はゴールテープの係をすることになった。しかしそのゴールテープは白ではなく茶色であり、おそらく何年も使って泥に染まった色なんだろう。主税と鈴女は端を持ちゴールした時さりげなく離す仕事である。離すのは主税の担当となった。


主税「じゃあ氷堂さん。離さないように気を付けてな。」


鈴女「はい。」


こうして、一組目の男子の組がスタートした。主税のオリエンテーションが効いたのか激しい泥しぶきが立って、ゴールした男子たちの服は泥水で汚れていた。


主税「すごい迫力だな。俺の時とは全然違う。」


次の女子の組も同じく激しい泥しぶきが立ち、キャーキャー言いながらもゴールした。汚れるのが嫌いな女子生徒でも、なんだか表情はやり切った感がすごかった。


そして、順当に徒競走が進んでいく中、主税にある悪だくみが閃いた。


主税「(そうだ、いいこと思いついた。)」


男子の組がスタートした。5人ともほぼ同じ差でゴールテープを切ろうとしたその時。


主税「(今だ!)」


本来ならここで主税がゴールテープを離さなくちゃならないのだか主税はわざと持ったままの状態で、その結果、ゴールテープに引っかかって男子全員が派手に転んでしまった。


主税「あぁわりい、ボーっとしてて離すの忘れてた!」


主税が男子生徒に駆け寄った。5人とも派手に泥んこになっていた。


男子生徒A「全然痛くなかったな。」


男子生徒B「むしろ泥の感触が気持ち良かったし。」


と男子生徒たちは順位の旗が経っている待機場所に向かった。


主税「(なんか思ってた反応と違ったな・・・・・・)」


主税は逆にもっと怒られるかと思ったがまさかの反応に顔をしかめていた。

徒競走が終わり、10分間の休憩をとることに。一度田んぼから出た生徒たちは顔についた泥跳ねをタオルで拭いたりしていた。主税と鈴女も水分補給をしていた。


主税「あち~」


鈴女「次は何の競技ですか?」


主税「確か次はサッカーだったよな・・・・・・」


永野先生「おお、2人ともお疲れ様じゃのう。」


主税「先生、どうしたんですか?」


永野先生「ここからは君たちも一緒に参加するからよろしく頼むのう。」


主税「う・・・・・・そういえばそうだった・・・・・・」


休憩が終わり、次はサッカー。ここからは一組と二組に分かれて行う。

一組には主税、二組には鈴女が入り、ともにゴールキーパーをやることに。グローブは軍手を使うことに。サッカーは男子のみで行い、女子は田んぼの外で応援をしている。


主税「氷堂さん、気をつけろよ。小学生は手加減できないから。」


鈴女「でも、よけたらゴールキーパーの意味がないじゃないですか。」


主税「そうだけど、俺たちはあくまでボランティアなんだから気楽にいけばいいんじゃねえか?」


鈴女「気楽・・・・・・ですか?」


主税「あまり力みすぎるのもよくないぜ。楽しんでいこ!」


主税はサッカーゴールに向かった。鈴女も自分のゴールに向かった。サッカーゴールはフットサル用の小さめのゴールを使用することに。永野先生が試合開始の笛を鳴らし、試合が始まった。男子がボールを奪い合い、二組の生徒がボール奪いを制し、主税のいるゴールに向かってシュートした。


主税「ぐっ!」


主税は両手でボールを抱きしめるようにボールを止めた。泥でコーティングされたボールを取ったためシャツは泥まみれになった。


一組の生徒「お兄ちゃん、ナイスセーブ!」


主税「おう!(うわ・・・・・・汚れたよ・・・・・・)」


主税はボールを赤のスポーツベストを着ている一組の子にボールを投げて渡した。一組はそのボールを足で受け取るとそのまま今度は鈴女のいるゴールへ向かった。


鈴女「!!」


第4話(完)

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