家事下手な氷嬢様
白絹照々(しらぎぬてるてる)
第1話 氷嬢様「氷堂鈴女」
山梨県甲府市、赤髪が特徴の高校二年生「鍛冶場 主税(かじば ちから)」は4月から新しいマンションに引っ越すことになった。高校一年までは古くて安いアパートに父親と二人暮らしだった。しかし、4月から父親が仕事でアメリカに転勤。主税は高校卒業までの間、日本で一人暮らしをすることに。
主税「よっしゃ!荷物の整理もこれでおしまい。」
主税は段ボールから荷物を出し、引っ越しを終わらせた。
主税「しかし、まさか床が抜けるとは思わなかったな・・・・・・」
引っ越しのもう一つの理由は前に住んでいたアパートの老朽化により床に穴が開いてしまい、長く住めるという理由で父にこのマンションに住むように言われたのであった。
主税「お隣さんの挨拶も済んだし、でも右隣の人は留守だったから明日学校帰りにもう一度挨拶するか。」
そして次の日・・・・・・主税はカバンを持って通学路を爆走していた。
主税「遅刻だ~!!寝過ごした~!!」
学校に到着するや否やチャイムが鳴りだした。
主税「やっべ、新学期早々遅刻はマズい!!」
主税は最後の力を振り絞って階段を駆け上り、教室の扉を開いた。
主税「おはようございます!!」
しかし、扉を開けたのは別のクラスの教室だった。主税は新学期早々遅刻となってしまった。
?「お前も災難だな。新学期早々遅刻とはな。」
ケタケタ笑っているこの銀髪のショートの男子生徒は「風祭 駿介(かざまつり しゅんすけ)」主税とは幼稚園の頃からの付き合いのある幼馴染である。
駿介「おじさんが家にいないからってのんびりしすぎじゃないのか?」
主税「んなわけあるか!!」
駿介「冗談だって、お前は一人でも生活できるほどの家事スキルがあるんだからさ。」
主税「家事スキルって、お前また何かのラノベの影響か?」
駿介「最近、スキル最強の主人公の無双ものが流行っているんだ。お前もどうだ?」
主税「俺、本読むと眠れる自信があるな。」
駿介「それよりさ、うちのクラスにあの「氷嬢様(ひょうじょさま)」もいるんだぜ!!」
主税「確か、名前は「氷堂 鈴女(ひょうどう すずめ)」さんだっけ。」
駿介「成績優秀、容姿端麗だけど性格はドライで誰に対しても心を開かない氷の嬢王様略して氷嬢様!!」
主税「氷嬢様な・・・・・・」
主税は凉女の席を見た。彼女は難しそうな参考書を読んでいた。確かにクールビューティーという言葉が似合うと思うが、彼女は周りに関わらないようにバリアを張っているように見えた。
今日は始業式なため授業は無く、午後からは下校である。
駿介「主税、帰りにバッセン寄ってかね?」
主税「わりい、家の中のダンボール片さないといけねえから。」
駿介「そんなの後でもいいじゃんか!」
主税「じゃあ、ダンボール一緒に片付け手伝ってくれたら付き合ってやるけど?」
駿介「あー俺用事思い出したーじゃあまたな。」
と逃げるように駿介は帰って行った。
主税「逃げたか……まあハナから期待してないけど。」
主税は新しい自分の家に帰り、引っ越しの時に使用していたダンボールを片付け始めた。
実は主税、顔に似合わず家事全般が得意なのである。理由は幼い頃に母親を亡くし、4歳年上の姉も手際がよくなく、家族を助けようと始めたのが始まりだった。その後、姉は結婚し、父と2人暮らしになった時も自ら家事全般を進んでやっていた。おかげでクラスメイトからも「主税かーちゃん」と呼ばれていた。
ある程度片付けが終わった主税は、机の上にある菓子折りに目が合った。
主税「さすがに隣の人も帰ってきただろう。あいさつしに行ってくるか。」
主税は菓子折りを持ち隣の家の住人のチャイムを鳴らした。扉の奥からガラガラと物をよけながら来るような音が聞こえた。そしてドアが開いた。
主税「な!?」
何と開いたドアから出てきたのは先ほど噂していた氷堂鈴女だった。
主税「あ、えっ・・・・・・あの・・・・・・」
鈴女「なんでしょう・・・・・・」
主税「(おいおい冗談だろ・・・・・・なんで氷堂さんが隣に住んでんだよ!?)」
鈴女「あなたは・・・・・・」
主税「覚えてないですよね・・・・・・俺は・・・・・・」
鈴女「同じクラスの鍛冶場主税さんですよね。新学期早々遅刻をした。」
主税「そりゃないぜ~そういう覚え方。」
主税は菓子折りを鈴女に渡した。
主税「改めて、隣に越してきた鍛冶場主税だ。これ、つまらないものだけど。」
鈴女「ありがとうございます。」
鈴女は菓子折りを受け取った。すると主税の足元に空瓶が転がってきた。よく見ると玄関にはゴミが散乱していた。
主税「・・・・・・随分散らかっているな。」
鈴女は表情を変えずに首を傾げた。
鈴女「そうですか?私からすれば変わらないものですが。」
主税「・・・・・・・・・・・・。」
主税は体を震わせていた。次の瞬間。
主税「もう我慢できない!入らせてもらう!」
鈴女「ちょっ・・・・・・」
主税は鈴女を押し切って部屋に入った。部屋に入ると玄関よりもひどい廊下やリビングなどにゴミが溢れかえっていた。主税はあまりのひどさに開いた口が塞がらなかった。
主税「なあ、氷堂さん。ここに引っ越してきて何年経つ?」
鈴女「1年です。高校に入ってからここに引っ越してきたので。」
主税はシャツの腕をまくった。
主税「これから大掃除を行う。早急にだ!!」
鈴女はキョトンとしていた。この時、彼女は初めて表情を変えた。
主税はゴミの分別、いらないものの処分、その他もろもろのことを主税一人でこなしていた。鈴女は比較的きれいな洗面所に避難していた。
主税「このペットボトル飲料、飲みかけじぇねえか!!しかも賞味期限切れてるし・・・・・・」
主税はピザの箱を開けた。中からハエが湧いて出てきた。
主税「ぎゃあ!!ハエが群がってる!!」
主税はピザの箱ごとゴミ箱に捨てていた。
掃除は夜になるまで続き、何とかきれいにすることができた。ゴミは全部ゴミ袋に入れ、リビングの端にはたまったゴミ袋が大量に置いてあった。
主税「(疲れた・・・・・・いつの間にか外が暗い・・・・・・)」
鈴女「すいません。お手数をおかけしました。」
鈴女は頭を下げた。
主税「まあなぜ汚部屋になったか今は置いておいて・・・・・・」
主税のお腹から腹の虫が鳴った。
主税「じゃあ俺、帰るね。晩飯の用意しないと。」
鈴女「そうですか。」
鈴女のお腹の虫も鳴った。鈴女は真顔で主税の顔を見ていた。
主税「あの・・・・・・メシ、食いに来る?」
鈴女はご飯を食べに主税の部屋に入った。主税は料理するときにつける赤色のエプロンを身につけた。鈴女はご飯ができるまでの間、リビングで本を読んで待っていることに。
主税が作っていたのは手作りのハンバーグだった。慣れた手つきで肉をこねて形を整えて、フライパンに入れた。
主税「(こんなもんかな・・・・・・)」
ある程度時間が経ち、ハンバーグが完成し皿に盛りつけた。白米とわかめスープも用意した。ちょうど本を読み終えた鈴女の目の前に置いた。
鈴女「いただきます。」
鈴女は箸を使ってハンバーグを割った。中から肉汁が溢れて出てきた。食べやすい大きさに切って口に運んだ。
鈴女「!!」
鈴女は驚いた表情をしていた。初めて表情を表に出した瞬間だった。
主税「どうだ?」
鈴女「・・・・・・おいしいです。」
鈴女はまた無表情に戻った。
鈴女「これって・・・・・・豆腐ハンバーグですよね。」
主税「気づいたか!俺も最近ヘルシー料理に凝っていてな。最近始めたんだよ!」
鈴女「最近でこのクオリティはすごいですね。」
主税「そうか!?よかった~今まで一人で食べていたから美味しいかどうかわからなかったからさ!」
主税は自分の作ったハンバーグを白米と一緒に食べていた。
主税「うま~氷堂さんにうまいと言われたから余計うまく感じる。やっぱ飯は誰かと一緒に食うのが一番だな!」
鈴女「・・・・・・そうですね。」
ご飯を食べ終わった後、鈴女は自分の部屋に帰ることに。
鈴女「ご飯、ごちそうさまでした。」
主税「お粗末さん。また食べたいときいつでも寄ってくれ。」
鈴女「ありがとうございます。失礼します。」
鈴女は一礼をして部屋を出て行った。
主税「氷堂さん美味しそうに食ってたな。」
お皿を洗いながらしみじみと思っていた。
主税「でも意外・・・・・・氷堂さん家事ができなかったとは・・・・・・あのゴミ屋敷はとんでもなかったな。」
主税はその時思った。せっかく片付けたあの部屋をまた散らかすのではないかと思い身震いした。
主税「また・・・・・・掃除コースだな。」
次の日、朝早くにチャイムが鳴った。
主税「なんだ・・・・・・こんな時間に・・・・・・」
ベッドから起き、眠気眼の擦りながらドアを開けた。チャイムを押したのは鈴女だった。
主税「なっ何で氷堂さんがいんだ!?」
鈴女「おはようございます。よく遅刻するって聞いたので迎えに来ました。」
主税「そんな時間?」
鈴女「私、待っていますので早く準備してください。」
主税「え!?待って、一緒に登校するの!?」
鈴女「嫌ですか?」
主税「いや、嫌じゃないけど一緒に登校したら噂が・・・・・・」
鈴女「噂・・・・・・」
主税「だから一緒に行けない。ごめん。」
鈴女「分かりました。では先に学校に向かいます。」
主税「あっ待って!」
鈴女「はい?」
主税「その、これからもこういう風に呼び出してくれたら嬉しいかな・・・・・・」
鈴女「分かりました。いいですよ。」
とあっさりOKをもらった。
鈴女「しかし、早くしないと本当に遅刻しますよ。」
主税「あ!!」
こうして主税は急いで支度をし、学校にも何とか間に合ったとのこと。こうして主税と鈴女のほのぼの?隣人生活が始まったのであった。
第1話(完)
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