唯一無二(オンリーワン)

Nemo

令和早々

「いただきます」


 コンビニ弁当の蓋を開ける。


 おかずを、ご飯を、ひょいひょいと口の中に入れる。


  自分で言うのもなんだが、産業用ロボットのように機械的な動きだ。

 

  なんか喉が…、あぁ、お茶飲んでなかったっけ。


 ペットボトルのお茶を喉に流し込む。




  ………そういやここには誰もいないんだよな。当たり前だけど。


  一人暮らしにはもう慣れたつもりだったんだけど、それでも時々寂しくなるもんだな。


ちょっと前までは家族みんなが笑顔で……いや、食べるのに夢中になったり、テレビ画面に食い入ったりしてたからそうでもなかったような気もするけど…




「ごちそうさま」



じゃあ食べ終わったことだし 、そろそろ家族に電話しますか。


 あれ?向こうから掛けてきたぞ。珍しいな。いつもはこっちからなのに。


「あ、もしもし?」

「もしもしワタル?お誕生日おめでとう」



……誕生日?あっ、そうか。今日は僕の誕生日だったっけ。忘れてた。



「あっ、ありがとう」

「ひょっとして忘れてた?」


ようやく大学生活とか一人暮らしとかに慣れてきたばかりだからね。そんなこと考えてる余裕なかったんだよ。


「誕生日プレゼントこれがいいとかってやっぱりないの?」

「だいぶ前にも言ったと思うけど、とくに欲しいってものは今のところないね」


永遠の時間くださいって言っても無理でしょ。母さん。


「そう、…ところで最近どう?うまくやれてる?」

「うん、大丈夫だよ」

「ワタルもあまり無理しないでね」

「うん」

「ハルトと代わる?」


ハルトっていうのは僕の弟の名前だ。


「うん、じゃあお願い」



そっから後はハルトと父さんからおめでとうコールをもらったり、お互いの近況を報告しあったりした。父さん話長い。同じ事を何回も言ってないか?


んで、また母さんに代わって、


「じゃあ、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


…はぁ、「大丈夫だよ」か………。


全然大丈夫じゃねーよな。


別にうまく日常生活を送れていないわけでもないし学校にもちゃんと行っている。

じゃあ何が問題化というと…


テレビもなければマンガもなく近所にあるのはコンビニぐらいしかないという田舎暮らし。つまり僕を誘惑するものは何もない。これなら勉強しかすることがない、よって優等生への道まっしぐら!


……なんて入学したての頃はそんな風に思っていたけど、たいして頭の良さは変わらなかった。

じゃあいったい何してたかっていうと…、


ぼーっ、としてました。ええ、ぼーっ、と。


勉強の障害になるもの全部取り払ったら早速勉強するかといったら、まったくそんなことはない。


「あー、なんかすることないかな〜」

って言って結局何もしなかった。


勉強しろよ勉強‼︎って内心突っ込んではいたんだけど。どうしてもね。


考えてみりゃ、ずっとそうだったな。小学生のころは中学生になったら!中学生のころは高校生になったら!絶対変わってやる!の繰り返し。んで今大学生か…。


 今よりもいい自分になりたい、そういつも思っていた。成績はどの教科も優秀で、スポーツもそこそこできて、趣味にも時間を費やす。たくさんの人たちと友達になって、好きな人ができたらちゃんと告白する。とにかくいろんなことを経験する。それが俺の理想だ。

 でも実際はどうだ。やろうと思って後回しにして結局できなかったことは数えきれないぐらいにある。三日坊主どころか一日坊主すら珍しくなかった。


どうすれば変われるんだ?まぁ絶対にそうならざるを得ない環境に置かれるのが一番手っ取り早い手段ではある。が、そういった状況になることはまずない。



 そういや今月から「令和」か。

新元号になったことだし心を入れ替えて新しいスタートを切りたいんだけどなぁ。…なんて思っているうちはたぶん変われないだろう。今度からじゃなくて今すぐにアクションを起こすべきだ。それが分かっているのになぜできないのだろう。


 もうこんな時間か。 風呂にはもう入ったし、さっさと寝るか。








夢を見ていた。僕は川を渡っていた。いや、飛んでいた。自分がどんな姿になっているのかよく分からないが、白い小鳥になっているんだと思う。手とか胴体とかそれっぽいし。


その川はとても澄んでいた。水面がキラキラと輝いている。川幅が広い。向こう岸までどれくらいあるのだろうか?


川以外には何も見えなかった。前にも後ろにもどの方向にも紫色の霧がかかっていた。


本当に何も見えない。それなのに川ははっきりと見えている。それはなんとも不思議な光景だった。



いつのまにか川が消えていた。そしてやがて辺りを覆う霧も消えていき……、僕の意識はそこでふっと真っ暗になった。


一瞬だけ、すとんと落ちていくような気がした。



そして……、



ザッパーン!!


「ぐはぁ!?」


全身に冷たい感触が伝わり一気に目が覚めた。







~数時間前


「なんだあれは!?」

「くっ、空間に歪みがっ!?」

!?」


とある屋敷では騒ぎが起きていた。

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