あいつを刺そう
レイジ
第1話 いや、やめるべきか?でもやっぱり
「あいつを刺そう」
男はそう思いついた。前から思っていたのかもしれないし、突発的に思ったのかもしれない。男は殺気をまとわせて、まずは着替えるようにした。まるで自分の意志を確かめるように。男の恰好は返り血を隠すように真っ黒だった。黒いロングコートに黒いスラックス、革靴も真っ黒で、全身が夜の闇に溶け込むようだった。
男の顔色は土気色をしていて、ほほはゲッソリこけていた。
どこか病的なものを感じさせ、見る人によっては精神を病んでいる人のそれだった。
そんな男が刺そうと考えている相手は上司だ。男が会社の中で一番低い役職であることは認識できていた。だからこそヤツが許せない。いつもニコニコしている顔。しかし時に冷たく感じるもある。その笑顔が貼りついた下には、何が隠されているのだろうか?
刺したい理由はたくさんあるが、とどのつまり、気に食わないのである。馬が合わないとも言うだろう。
凶事を今日、今から行う。その時にして、男の心境は平穏だった。何ということはない、と言う風情だった。あまりに何とも思わなかったので「これはいけない」と独り言を言って身を引き締めたくらいだった。
ついに来た。男は標的の背後に迫っていた。標的となった哀れな男は、彼に気づくこともなく、黙々と仕事をつづけていた。
一歩踏み込み刃を立てる。殺気をまとってもう一度刺す。
「ふう。すっきりした。いつも俺を見下しやがって。お前がいると、こっちの仕事が減るんだよ」
刺した後も、男に罪悪感はなかった。むしろ顔色もよくなった。男の足元には工事中の道路を誘導する時の、人形型機械である『すすむくん』が痛々しい姿で横たわっていた。その姿は物を言いたそうにさみしげであった。
あいつを刺そう レイジ @reiji520316
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます