第6話 家族会議~ただし、フィーネは抜きで
翌日ロルフが留学先から帰って来た。
ドノバンから話を聞いたロルフもミュゲをシュタイン公爵の元へ嫁がせることに反対した。
彼は妹のミュゲをことのほかかわいがっているし、二人は幼いころから仲が良かった。
結局、サロンには病で臥せっているフィーネ以外の家族が集まり、会議が始まった。
ちなみにフィーネは実家の財政難や縁談について何も知らされていない。
「フィーネお姉様ではだめなの?」
ミュゲと言い争った末、マギーが出した答えだ。
「だから、フィーネは魔力なしだろう」
ドノバンが困ったよう言うにいう。
「私、いやよ。まだ十四なのに結婚だなんて。それも醜い変人魔導士の元へ。あの人、貧民街で人をさらい人体実験をするのでしょう?」
マギーは恐ろしさに震えていた。
「あら、あなたフィーネと仲が良かったのではなくて。子供の頃はよく看病してもらっていたじゃない。少しはフィーネに恩を返そうって気はないの?」
ミュゲが意地悪く言う。
マギーは幼いころは体が弱く、よく熱を出しては寝込んでいたのだ。
「それは小さなころの話よ! フィーネお姉様は今じゃ部屋にこもりがちだし、社交もろくにできないし、そのうえハウゼン家の人間なのに魔力なしだなんて信じられない」
「あなた小さな頃、フィーネによくなついていたじゃない」
ミュゲがマギーに冷たい視線を送る。
「だから昔の話だって言っているでしょ! それにフィーネお姉様は、魔力なしだから貴族と結婚なんてできないかもしれないのでしょ。それなら、公爵様と結婚したらいいわ。伯爵家から嫁ぐのだからいいはなしじゃない」
マギーは十一歳までフィーネに甘えていたが、外の世界を知った今では、魔力なしの姉を心底馬鹿にしている。
「ミュゲ、いい加減になさい。マギーではまだ幼いわ」
デイジーがとりなした。
「だから、私に行けというの?」
ミュゲは兄ロルフの腕をぎゅっとつかむ。
「父上、ここはフィーネに行かせましょう」
ロルフがミュゲを庇う。彼も姉妹と同じく魔力のない次女フィーネを疎ましく思っていた。
ロルフはこの家の跡継ぎであり、魔力のないフィーネはゆくゆく一家のお荷物になると考えていた。
「しかし、偉大な魔導士を輩出してきたシュタイン家だぞ。魔力なしで、ここのところ病で臥せりがちのフィーネを辺境にやるわけにはいかないだろう? それに社交の経験のないフィーネにうまく立ち回れるとは思えない」
ドノバンが説得しようとするが、ロルフは引かない。
「ミュゲの言う通り、フィーネをミュゲと偽ればいい。幸い二人は年子なのだし」
「だが、ばれたら、大変なことになるぞ。それに髪の色が違うではないか!」
ミュゲはハウゼン家特有の赤毛で、フィーネは白金だ。赤毛の家族の中にあってフィーネだけが、髪色が違う。
「しかし、彼は魔塔を去り、王都にはいません。もとより研究馬鹿で社交などしないという噂ではないですか? 入れ替わったところで気づきませんよ」
ロルフが吐き捨てるように言う。父母は顔を見合わせた。確かに彼は社交の場に出てこない。
叙勲の時ですら、シュタイン公爵は仮面をつけていた。なんでもひどく醜い顔をしているという理由で国王の御前でも仮面の装着を許されているということだ。
「確かに、彼が社交の場に出てきたことはないな。仕方がない。フィーネに頼むか」
三人の子供たちに拒絶され、ドノバンがとうとう折れた。
「仕方がないわね……。そういえば、明日フィーネの付き添いで医者に行くことになっていたから、公爵領までひと月の長旅に耐えられるか聞いてみるわ」
気が進まないように、デイジーも言う。
この縁談はハウゼン家から申し込んだものだ。
ドノバンが、シュタイン公爵に婚約を打診し顔合わせを頼んだら、辺境にある公爵領に来るならば、会ってもよいとの返事が来た。
そんな対応をされ腹も立つが、財政難なので背に腹は代えられない。だからこそ、みそっかすのフィーネではなく、社交慣れしていて立ち回りの上手いミュゲに行ってもらって、この縁談を成立させてほしかったのだ。
「しかし、相手は顔合わせと言っている。フィーネがしくじったら婚約どころかその場で家に帰らせられるぞ。どうするつもりだ」
ドノバンは苦り切った表情でいった。この縁談にはハウゼン家の命運がかかっているのだ。
「それについては考えがあるから大丈夫です」
心労がたたり寝不足気味のドノバンをよそに、血色のよいロルフが自信ありげにいった。
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