第10話

「奴隷にされてた獣人たちから解放してくれたお礼としてアウルム商会のお金結構もらったわよ」

「おおそうだったのか……なんだか睡眠薬の効果かまだふらふらするぞ……それに、金をもらったって今金に困ってはないだろう」

「そうでもないわよ?」

「え?」

「船の墓場から財宝を拝借したじゃない?まだその分のお金は残ってるけれど無限じゃないわ」

「……」

「食べ物だって要るしこのまま節約すれば5年や10年は持つけどそこから先どうするのよ」

「う……」

「驚いた。ドレッドあなた未来のことなにも考えてないのね」

メモンは少し呆れながら言う。

「だってまず俺が生きてること自体が信じられねぇし……まだ実感がないんだし……」

ドレッドは小声で呟いた。

「え?なんて言ったの?」

「いえ、考えておりませんです……」

「じゃ、これから考えればいいのよ」

言ってみれば当然なことをメモンは言う。

「沈没船引き上げて金目のもの得るのはメモンが嫌がるからダメだし……」

「ごめんなさいねぇ……泥棒してるみたいでなんか嫌なのよ……さっきの獣人たちに話して鉱山採掘の仲間にしてもらうのは?」

「それだと俺が役に立てないことになっちまう」

「……あんた痩せてるものね。肉体労働は難しいかも?」

「うーむなんとか俺のスキル沈没物操作を上手く使えないかな。なにか思いつくか?メモン」

「魚釣りに役に立つかもよ?タコツボを沈めといてタコが入ったらスキルで引き上げるとか」

「へえ、そんな方法があるのか」

「あとは……船の解体業とか?」

「そうか、そういうのもあるよな」

ドレッドは船の墓場を思い起こしていた。

あの場所はおそらく海の流れで船がたどり着く場所なのだろう、そこにある船をスキルで動かして解体業の人たちに売る。それならいけるだろう。

「まずは船の解体をしてるところに行かないとな……なにも始まらないな」

そう言うとドレッドは地図を広げた。

船の解体を行うようなところは少なくとも街など人の集まるところだろうと目星をつける。

「メモン、俺の乗せて海沿いの街に向かって飛んでくれないか?」

「ええ、もちろんいいわよ」

メモンは翼をバサっと広げる。



ドレッドはメモンの背にしがみつきながら言う。

「そういや俺、これからの目標を決めたよ。この世界を旅すること。そして余裕があれば困ってる人を助ける……俺には大きすぎる夢かな?」

「ふふふ、別にそうは思わないわよ。そんなこと言っても当面の目標はお金稼ぎよ。あとついでにそんなに痩せた貧相な体で他人を助けると言われてもピンと来ないわよ」

幾つかの海沿いの街を飛んで見てみるが解体場どころか船すら見当たらない。

ドレッドは地図を見て次の街を指示する。

5、6つめの街ヤードは船の墓場近くで船の墓場から北西にある街だった。セプテントレオ島、ドレッドとメモンの出身地の海沿いの街だ。

そこには大きな微かに水がはった浅瀬があり、そこには半分になった船が置かれていた。

「船の解体をしているんじゃないか?降りてみようぜ」



メモンと共に街に降り立った。

人々はまばらで平穏な空気がする。

クレーブの街とは違い差別感が少なく感じ、誰もじろじろとメモンやドレッドを見たりしない。

そっちは大陸が違うからだろうか。文化も異なるようだ。

まずは情報を得るため近くの店、酒場に入ってみることにした。

木造の少し古びた、年月を感じさせる店舗で、中身は逆に綺麗に整えられていて落ち着いた雰囲気だった。

昼間故に客は少なく数人しかおらず、ちょうど店員も裏に引っ込んでいるようなので一人でゆっくりと酒を飲んでいる人に話しかけることにした。

「すみません、この街に来たのは初めてなので知らないことばかりなのです。色々教えてもらえませんか?その分おごりますよ」

「ん?俺にかい?いいぜ。色々教えてやるよ。あと敬語なんて使わなくてもいいよ。なんだか堅苦しくてね。ここはヤードって街で、木材の加工が主な街だ。船の解体や森林での伐採とかな」

「やはり船の解体をしているのか……」

「ドレッド、ここで正解だったみたいだね」

「そうだな」

「おっと、まだ名乗ってなかったな。俺はベッセラー。船の設計士をしている。もう何隻か設計して世界に自分の設計した船が動いているんだぜ。なんだかうれしいぜ。俺の最高傑作たちだ」

自分の船に自信を持っているベッセラーは年齢25歳程度でドレッドより一回り上のように見え、見た目は優しそうな好青年だった。

「俺はドレッド、でこっちがメモン」

「よろしくねー」

「…………おうよろしく、あとなんか聞きたいことあるか?」

「そうだ、どうやって船を解体しているのか教えてくれ」

「船か!よしじゃあ外に出てみようぜ。時間が確かなら……」

ベッセラーにつられて外に出てみると、あの水のはった浅瀬から水がなくなり船が砂浜に乗り上げていた。

「これは……?」

「潮の満ち引きを利用して満潮時に船を入れて干潮時に解体をするんだ。今は干潮になりはじめたころだ。水がない方がやりやすいからな」

「なるほど、勉強になる」

「人間たちはよく考えてるねえ」

「さ、店にもどろうか。まだ俺は飲み終わってないからな。お前らも飲んだらどうだ?」

「そうだな、喉が乾いたから何か飲もうかな」

「私もー」



軽めの飲み物を二人は頼み飲む。

二人はこの街に来たことがないためこの飲み物も人生で初めてであった。

「美味そうに飲みやがって……そんなに良かったなら食べ物も頼んでみるか?俺が奢るよ」

二人は言葉に甘えて食べ物も頼み食べた。

海沿いということもあり魚や貝などがふんだんに使われた美味しいものだった。

食べ終わる頃にベッセラーが、

「で、お前らは何をしにこの街にきたんだ?」

「おっと、そうだった。俺たちはここで船の解体業に関わらせてもらいたいんだ。俺たちは船を持ってくるから解体して欲しいんだ」

「船を持ってくる?操縦する方法があるのか?沈没船や老朽船をここまで動かせるのか?なにか曳航できる船があるのかい?」

「まあそこは任せてくれ。とにかく船を浅瀬に持ってくる」

「おし、じゃあ船を持ってきたら俺に話してくれ。解体業のグループと話をつけれるからさ」

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