第8話

夜が明け朝になりドレッドは目を覚ました。

夏だが朝は少しばかり寒さを感じながらテントから外に出る。

外にメモンはいなかった。

「まだ寝てるのか?おーいメモンー」

メモンのテントに向かって話しかけるが返事はない。メモンはまだ寝ているらしい。

いや、ほんとにそこにいるのか?

ドレッドは少し心配になり様子を見てみる事にした。

テントの入り口の布を退ける。

メモンはそこに居た。

ただ寝ているだけだった。丸まって。

ドレッドは安堵し、そしてほんのわずかに自嘲気味に感じた。勝手に一人で心配になって勝手に安心して、なんだか自らの弱さを認識させられたようだった。

だがその思いはメモンの顔を見ると吹き飛んだ。

美しかったのだ。

いつも見ていた整った印象の顔立ちというより、かわいさが強い印象があった。

凛々しさのある目を閉じて寝ているからだろう。

「……んー?」

メモンの目が開きドレッドと目が合う。

「わっ!」

メモンのテントが広がった翼のせいで変形する。

「す、すまん」

ドレッドは謝りテントを閉じる。

そこに続いてメモンが出てくる。

「びっくりしちゃっただけよ……でも驚くからやらないでね」

「すまん、わざとじゃないんだ、怖くなってな」

「怖い?一人が怖くなったの?子供ね」

「ばかにするなよ」

「ふふふ」

二人は少し笑った。


メモンに火をつけてもらい暖を取り、ドレッドが言う。

「上手くいけば今日で睡眠薬が確保できる。後は酒だな。酒は特に問題なく手に入れられるだろうし」

「私はどうしてようかなー……」

「それは任せるさ」

「じゃ、行ってくる」

ドレッドは焚き火を消し街に向かった。


早速、昨日行った薬屋に行った。

朝早くだが開いているようだ。店に入る。

「いらっしゃーい」

その後、あ、と少し呟くのが聞こえた。

ドレッドは薬がよく効いたと女性に伝える。

「……」

続けて、薬が辛かったことも伝えた。

「!……本当に自分用に使われたんですね」

もっと必要だとも伝える。

「大量に、ですかぁ……ちょっと厳しいかもです」

ドレッドは食い下がる。自分は商人でこれから長旅をするからここにこれないと伝える。

「……えっと……」

辛くても構わないから、と更に伝える。

「……分かりました。そんなに必要なら仕方ないですね……辛くないのがあります。あ、えっとちょうどさっき在庫が補充できたんです」

ドレッドは感謝をし、代金を支払い大量に睡眠薬を手に入れた。


「よし、次は酒……その前に大きなカバンを買おう。持ちきれんだろう」

近くの店でカバンを買い酒の店を探し歩く。

酒の調達に関しては薬のような制約はないはずだ。近くの店で買って戻ろう。



時が経ちアウルム商会のパーティの日が来た。

ドレッドはアウルムの城を訪れた。

どうやら部下を労うのも目的のパーティらしく部下らしき者も酒を飲んでいる。

パーティ会場は城の一階層丸ごとで見通しがいい。目に入るだけで40人程度の部下らしき者たちが参加している。ほぼ全員の部下がいるのかもしれない。

この様子だと鉱山の方は部下が少ないだろう。

「1週間ぶりですねアウルムさん。ドレッドといいます。私は思い直しまして奴隷を売ろうと思ったんですが……今日はパーティの日でしたね。明日にでも連れてきますよ」

「おおドレッドさん思い直してくれるとは感謝の極みですな。どうですパーティに参加されては?パーティは一人でも多い方が良いのです」

「ありがたい申し出です。ぜひ参加させてください!」

「実は酒を持っているのでそれを開けましょう。何もなしに参加するのもいただけないです」

「そんなお気になさらずとも……」

「いえ、1週間前は無礼な物言いをしてしまったのでそのお詫びも兼ねさせてください」

ドレッドは一度立ち去り、大きなビン5本を運んでくる。

睡眠薬はもう仕込んである。


「……おや、蓋がもうすでに開けられているようですが?」

……気づかれたか?なんとか乗り切る

「つい先ほど開けました。これは炭酸が入ってるので蓋が吹き飛ぶ可能性があったので。それでけがをされたら困りますから」

「ん〜〜申し訳ないですが目の前で開けられた物以外は飲まないことにしているのです」

別の酒を探しているアウルム。

「おお、安全性のことを気にされてるのですか?アウルムさん」

「ええ、こんな商売しているから敵が多くてですね」

「それなら……」

ドレッドは言い切る前に蓋の開いた酒を器に移し飲みきる。

「どうです、安全じゃなきゃ飲めませんよ」

「ふぅむ、そうですかなぁ」

あとひと押し、とドレッドは感じた。

「この酒たちは温かい環境ではすぐ劣化が始まり不味くなってしまいます。他のもすぐに飲んでしまいましょう」

「それなら仕方ありませんね……」

しぶしぶとアウルム。そして部下も続く。

「おお、他の酒と味が違いますねぇ。なんだが甘みが強いような」

「そうでしょうかね?私は他の酒を飲んだことがないからわかりませんね。せっかくですので部下の方々全員にも配りましょう」

ドレッドはコップを手に取りながら心の中で思う。

(メモン、作戦はうまくいったが俺も睡眠薬入りの酒を飲んでしまった……あとは頼むぞメモン!)

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