008:ハッキングから今晩のオカズまで

「わぁ、スゴイわね……」


 イオンは顔を赤らめて、気まずそうに目を伏せた。

 店内の壁には色とりどりのディルドやペニスバンドがずらりと並んでいる。


「異様にケツアナ関係の道具が多い気がするが、これも生殖器が使えなくなった弊害か……」


 だが、あいにく俺は自分のケツにも他人のケツにも興味がないのである。

 この様子だとオナホールなどはなさそうだし、シコるときは右手に任せるとして、オカズ探しの旅に出たほうがよさそうだ。


「とりあえず、俺はエロビデオのほうを見てこようかな。お前はどうする?」


「ワタシはこの辺りで待ってるわ。恥ずかしいから早めに来てちょうだいね」


 金はさっきイオンからもらった分があるので、俺はカゴを持って『AVコーナー』と書かれた暖簾をくぐる。 


『拡張現実ビデオ・コーナーへようこそ。VRが提供する没入感は、もはや過去の物となりました。拡張現実ビデオでは、あなたの五感をリンクさせることにより、夢のようなシチュエーションを現実のように体験することができます。注意:一度快感を味わったら、もう元の世界には戻れないかもしれません』


 注意書きによると、AVとはAugmented reality Video の略称らしい。

 ソードアートオンラインのように、リアルな仮想世界に入りこめるというわけだ。


(せっかく二十三世紀に来て、これを味わない手はないよな)


 俺は感慨深い気持ちになって、周囲の棚を物色した。

 ここがピンク系の店ということもあり、棚にあるのはエロビデオばかりだったが、そのどれにも笑ってしまうようなタイトルがついていて、俺は懐かしさを覚えた。

 しかし、ビデオの表紙に映っている女優に関して言えば、俺の元いた世界のレベルとは比較にならない程であり、どれも甲乙つけがたいほどの美人だった。


(あとはもう、俺の好みの問題か)


 俺は無難に学園純愛モノとNTRモノ、それから秘書がご奉仕をしてくれるビデオを手に取って、イオンのところにもどった。


「あら、ずいぶん早いのね。男の人ってこういうのに、もっと時間をかけるものかと思っていたけれど」


「俺はこの世界の女優を誰一人知らないからな、直感で決めるしかなかったんだ」


「ふぅん。アナタそういうのが好きなのね……」


 イオンは探るような目つきで、ビデオの表紙を見下ろしている。


「なんだよ、人の性癖にケチをつけるのはナシだろ」 


「べつに文句を言うつもりはないのだけど、アナタってロリコンってわけじゃないのよね?」


「はっ?」


 イオンがそんな感想を抱いたのは、俺が一番上に学園モノのAVを持っていたことが原因のようだ。

 いかんせん学校が舞台なので、ビデオの女優も童顔で小柄なロリっ子スタイルなのである。

 

「安心しろ。これはたまたま手に取っただけで、俺はどちらかというとお前みたいなデカパイが好きだ」


「そうかしら? ならよかったわ」


 イオンはホッとしたように胸を撫でおろしてから、一瞬間を置いて顔を赤くして、あわてたように補足する。


「あ。よかったって言うのはそういう意味じゃなくて……」


「俺がロリコンじゃなくてよかったって意味だろ、わかってるよ。……そういえば、手に買い物袋をぶら下げているみたいだが、お前も何か買ったのか?」


「へぁっ!?」


 イオンはウルトラマンのような声をあげながら、片手に持っていた買い物袋を腰の後ろに隠した。

 まるで俺を心配して付いてきたかのような雰囲気だったが、ムラムラしていたのは俺だけではなかったらしい。


「人のAV選びにケチつけてきたくせに、自分の物は見せられないってか?」


「こっ、これはその……全部が全部じっさいに使うものだけじゃなくて、興味本位で買ってみたのがほとんどなのよ。こんなところに買い物に来るチャンスなんて滅多にないでしょうし」


 俺は強引にイオンが持っていた紙袋を広げた。

 そこに入っていたのは、電動バイブと極太のディルド、SM用の手錠に猿ぐつわ、それと大容量のローションだった。


「それにしては実用性がありそうなものばかりだが……」


 イオンは顔を真っ赤にすると、逃げるように店の外に出て行った。


(アンドロイドも色々と大変なんだな)


 俺はレジで会計を済ませながら、そんな風に思ったのだった。




 $ $ $




「ごめんごめん、待たせちゃった?」


 シーナはパンパンになった買い物袋を両手に四つぶらさげて、おぼつかない足取りでこちらに歩いてきた。

 俺とイオンが二つずつ袋を持ってやり、シーナをベンチまで誘導する。


「ふぅー、ありがと。二人は何してたの?」


 イオンはまだ口を利いてくれなそうだったので、かわりに俺が答える。


「ちょっと野暮用でな」


「ふーん。ハルトのことだから、どうせエッチなビデオでも買ってたんじゃないの?」


 図星なので、ぐうの音も出ない。


「やっぱりね。……でも、ハルトがAVを観るには専用の再生機器が必要なんだよ? ちゃんとそれも買ってきた?」


「な、なんだって……」


 俺がわかりやすく意気消沈すると、シーナはニヤッと笑ってレジ袋からヘルメットを取りだした。


「そんなことだろうと思って、ちょっと高いけどふんぱつして、ハルト用の再生機器を買ってきてあげたの。いい子にしてたらあげるけど、どうする?」


「頼む、このとおりだ! これからは食器は自分でキッチンまで運ぶし、リビングに掃除機をかけるときは、面倒くさがらずソファからどいて他のところに行くからさ」


 俺が懇願すると、シーナは指でそのヘルメットをくるくると回しながら、イオンと顔を見合わせた。


「ほんとにもう、男の人ったらこれなんだから……」



 $ $ $



 俺は帰宅するなり、シーナに拡張現実デバイスの初期設定を頼んだ。

 新時代のエロビデオが体験できるとなれば、男としてそれをやらないという選択肢はないだろう。


「いちおう邪魔が入らないように、リビングよりもわたしの部屋でプレイしたほうがいいんじゃない?」


「それもそうか。何から何まですまんな」


「気にしないでいいよ。セッティングはできたから、後はご自由に」


 シーナの部屋でAVを観るのには少し抵抗があったが、かといってリビングで観るわけにもいかないので、俺はその言葉に甘えることにした。


「さて、いよいよだな……」


 俺はシーナの部屋の扉を閉めてから、大量のティッシュを敷き詰めたベッドの上に横になった。

 拡張現実の中に入っているあいだは現実では無防備になるらしいので、何があってもいいようにパンツは脱いでおく。


(たしかこのヘルメットのうなじの部分から、注射針のようなものが出て、脳に接続するんだったか?)


 俺がそのフルフェイス・ヘルメットを被ると、ガシャッと前方のバイザーが降りると同時に、チクッとうなじに痛みが走った。

 麻酔をしているときのような夢見心地の感覚になり、視界がぼやけていく。


(本製品をご購入いただき、ありがとうございました。初期セットアップを開始しています。しばらくそのままでお待ちください)


 すると、俺の脳内に直接アナウンスが流れた。

 言われたとおりにしばらく待つと、画面にビデオのHUDが表示された。


(あの学園モノのビデオを再生してくれ)


 脳内で念じると、紙吹雪が舞うように周囲の景色が剝がれていき、気がつくと俺は学校の中にいた。

 西日が射しこむ放課後の教室では、俺の彼女とみられる少女が、前方の席で書き物をしている。


(たぶんあれが俺の彼女……でいいんだよな?)


 俺はキョロキョロと辺りを見渡して他に人がいないのを確認したあと、少女の肩をとんとんと叩いた。 


「あっ、ハルトくん!」


 その少女は黒髪のボブカットで、一見すると大人しめな美少女だった。

 しかしテーブルに乗っているたわわに実った巨乳は、およそ学生には不釣り合いなサイズである。


「お、おう」


 俺は照れながら返事をした。

 役に入りこまなければいけないはわかっているのだが、いかんせん慣れていないのでこっぱずかしい。


「今日の体育の時間、わたしの胸ばっかり見てたでしょ?」


「あぁ、そうだったかな」


「いまは二人きりだから、好きなだけ触っていいよ」


 黒髪の少女はふりむくと、ゆっくりと制服のボタンを開けた。

 俺はおそるおそる彼女の巨乳を揉んでみたが、彼女は怖がるどころか、嬉しそうに微笑んでいる。


「あんっ♡ ハルトくんったら……♡」


 俺の名前も把握しているらしく、胸の感触も本物同然だった。

 女の胸を揉んだのはイオンの胸が最後だが、それに勝るとも劣らない感触だ。


(これほどとは思わなかったな……さすが二二四〇年だ。時代設定は未来の癖に心躍るようなガジェットがなくて失望していたが、やはりエロこそが技術を進歩させるんだな)


 などと感激しながら、俺は彼女を机の上に押し倒した。

 向こうも満更でもない様子で、上目づかいでこちらを見つめているので、俺はキスをしようと思って、口を近づける。


「もう、ハルトくんったらららららららラララララ――」


 その瞬間、彼女の声が壊れたラジオのようになったかと思うと、体の関節がぐにゃっと曲がってあらぬ方向を向きはじめた。

 まるでゲームがバグったときのように、少女の体のテクスチャが四方八方に伸び縮みしている、


(なんだ、これは……?)


 俺は暴れ狂う少女の肉体をドン引きしながら眺めていたが、しばらくすると不意に彼女の肉体の変形がおさまった。


(ようやく治ったか。まだ本番前だったからよかったものの、これが行為中に起きたらシャレにならんな)


 俺は気を取り直して、彼女にキスをするためにもう一度顔を近づけた。

 だがそのとき、俺は目の前の少女の顔が見覚えのある表情へと変わっていることに気づいた。


「……シーナ?」


 そこにいるのはまぎれもなく、シーナだった。

 シーナの顔をした少女はむくりと起きあがると、意味深な微笑みをうかべて、俺を見つめるのだった。


「やっと二人きりになれたね、ハルト♡」

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