創造英雄物語~かくして少年は、全てを捧げる~
上里あおい
序章
1度目の人生と運命の日
酸素を欲して、必死に口を開ける。
それでも息苦しさは変わらなくて、苦しさから逃れるために今度は腕を伸ばす。目の前の獣の腕を蹴って殴って、でも圧倒的な力の前には無力なだけで。
周囲の建物から焦げた匂いがする。人と、無機物と、死体の焼ける匂い。その匂いを感じるだけで、ここが地獄なのだと錯覚してしまう。
苦しさから目を背けるように、目線を獣から逸らす。そこにあったのは死体の山だ。ついさっきまで生きていた、明日が当たり前にあると思っていただろう人たちが、なんの抵抗もできずに目の前の獣に殺された。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
最近、ようやく前向きに生きようと決めたんだ。死んでも守るべき妹が、家で俺を待ってるんだ。だからまだ死ねない。こんな所で、こんな奴に殺されるなんてふざけてる。誰でもいい、何でもいい。だから、俺を……。
「助け──」
その先の俺の言葉は、耳をつんざくような大きな音にかき消された。
苦痛から解放されて、息を大きく吸う。肺が久方ぶりの空気に喜んで、脳に酸素が回りだす。段々とクリアになっていく思考の中で、現状を必死に確認する。うなだれていた顔を上げると、さっきの音の正体が分かった。
そこには、一振りの刀が突き刺さっている。
月夜に照らされ、艶めかしく光るその刀身に思わず目を奪われる。そのまま魅入っていると、刀の柄を白く細い指が握る。
「おう、生きてるかガキ」
刀を握っている指の先を辿っていくと、俺を見下ろすように女が立っていた。長い髪を後ろで一房にまとめ、鋭い目つきを俺に向けている。白い制服は血に濡れているのにも関わらず、血の重さを感じさせない凛とした佇まい。その姿を見て、刀の主だと感じ取った。
「生きてんなら家に帰れ。この時間だと、家で待ってるやつが心配すんぞ」
その言葉を残して、踵を返す女。その後姿を見て本能で理解した。
俺が求めているものは、この人についていけば手に入れられる。妹を、大切な人を守れるだけの力を。それを理解した瞬間、その女に向かって声をあげた。
「待ってください!俺に、あんたの力を──」
その6年前の出来事を、今でも夢に見る。俺にとっての運命の日だったその日を。
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