第27話 地底湖ヤコブを守りし者

 酪農地コロでバルクスやいっさんと別れた。また必ず訪れると約束をして。そして角の部分が2の形をしたスライムと、新たに旅をすることとなった。何だか車のメーカーみたいだな。エ〇グラ〇ドを思い出す。


 そんなことはさておき、にっさんも新たに加わり、次の目的地である産業都市サンマルッセへ向かった。酪農地コロからサンマルッセまではそれほど遠くない。半日も進めば、町が見えて来るだろう。


 サンマルッセの先には、ドワーフ族が多く暮らす都市、ガルロッドだ。偶然か必然か、サンマルッセに住む民族の中でドワーフ族が一番多いらしい。


 次に人族とエルフ、そして獣人が後に続く。この砂漠の環境で生きていけるのは、ひとえにモーゼという豊富な水源のおかげだ。更にそれに加えて、多民族が協調し、互いに思い合っている面が大きい。


 そして、サンマルッセを中心とした技術力も見逃せない。


 他国なら豊富な水と、木材などを含む豊かな自然からの恵み、そこに集まる動物たち。更に多種多様な魔物。それらがこのアリスト共和国には水以外は殆ど無い。いや、今では水さえも危機的な状況だ。


 そんな中でも、多くの住民が平和に暮らせているのは、このサンマルッセを中心とした技術力の発展のおかげだ。


 自国での商品開発や、他国で開発された商品をいち早く入手し、その商品の効率化と省資源化を徹底的に行う。


 このサンマルッセの技術力が、周りには砂以外の資源が殆どないアリスト共和国の住人たちが、人並みの生活を送れる理由と他国の者たちから、まことしやかにササヤかれている。


 そのため他国の者たちは、このサンマルッセの高い技術力を盗もうと暗躍するが、エルムたちアリスト共和国の暗部が、ことごとく阻止してきた。


 そんなサンマルッセは、どんな状況なのだろうか?産業には水の力が必要だ。機械を動かしたり冷やしたり温めたり。高圧で物を変形させたり切ったりするなど、水は様々な用途で使われる。


 もしかするとこのアリスト共和国で一番深刻な被害を受けているのは、サンマルッセなのではないかと俺はひそかに思っている。


 急がねば。最先端の技術や科学力を衰退させるわけにはいかない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 急ぎ足でサンマルッセに向かっている最中で、突然レンの目の前に透明感のある美しい女性が現れた。


「レン様、お急ぎのところ大変申し訳ございません。わたくしの主人がお呼びでございます。あいにく、主人本人から出向くことが出来ない状況です。どうか私と共に来て頂けないでしょうか?すみません申し遅れました。わたくしはシンランと申します。以後お見知りおき下さい」


 そう俺の前に現れたシンランは少々焦った様子であるが、その焦りさえも彼女の美しさと魅力を際立たせる。


 七色の布が重ねられた美しい衣装を身に纏って立っている。その姿はまるで虹の様に色鮮やかで、目を奪われるほど美しい。顔立ちは凛としており、目は清らかな水のように輝いている。


 唇は桜の花びらの様に柔らかく赤く、その表情は静かな決意を示している。


 髪は一つにまとめられ、後ろに流れる黒髪が白い首筋や背中を優雅に包み込んでいる。体型はスレンダーだが、胸や腰、脚には女性らしい曲線美がある。


 衣装は体にぴったりとフィットしており、スタイルの良さを引き立てている。白い肌と黒髪は衣装の色と対比し、高級感を醸し出している。


 突如目の前に現れた美女の出現に驚いているのは、どうやら俺だけではない様だ。


「ルーメイ...お主...気づいておったか...?」


「い、いえ、まったくもって...。邪悪な気配を感じないとはいえ...。全く感じませんでした。エ、エルム様をもっても...そんな、ばかな...」


「わしもぼけたかと思ったが、少々安心したぞい。何というか天から降ってきた雨の様なお方じゃ...。急に我々の前に音もなく現れた。間違いなく精霊...様であろう」


 そう2人は、驚きながらも答えを導き出した。


「素晴らしいですねお二人とも。私はこのアリスト共和国の地から消えかけつつある地底湖、ヤコブを守る大精霊ユーラン様の使いです。我が主は地底湖の存続に命懸けで守り続けていますが、地底にわずかに残った水分は...もう時間の問題です!」


 そう言い終えるとシンランは俺の前で跪き、深々と頭を下げた。


「我が主をお救い下さい。もうすぐ我が主は消えてしまいます。私も何度も何度も地底湖の復活を、こごろんでいまずが...うぅっ」


 そう言った後、シンランは下を向いたまま激しく首を左右に振った。非常に無念で悔しいのだろう...。地面に美しく激しい雫がぽたぽたと流れ落ちた。


「そんな諦めかけた私の元に、ある情報筋からあなた様の噂を聞きました。「1日に100ℓの水を出す男」であるレン様が、このアリスト共和国に来たと。そしてレン様の力で三大精霊様たちを蘇らせたとも!」


 三大精霊って...もしかしてラスリーとパラクード、更にはモフ様のことなのか?


「そしてその後、私は地底から特殊な望遠鏡であなたを探し、やっと見つけ出しました!」


 俺の瞳を真直ぐ見つめながら、土下座をした姿勢をもう一度改め、俺の心に訴えてきた。


「おねがいです!わが、わがしゅ、ユーランざまの復活に、お力をおかじくだざい!消滅じてほしくない!大切な母親だから!た、助けてくれたら、奴隷でも、慰み者でもなんでもなります!何でも言う事をぎきます!私には力がないがら、だから、だから...」


 凛とした顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。それでも母を思う神々しい美しさを感じる。そんなに切羽詰まっているんだな。母親の為にこんな必死になって...。俺の目頭が崩壊してしまった。


 精霊様を性奴隷の様に扱うつもり何てない。俺の力でよければ助けられる命は助けたい。人間でも動物でも...そして精霊様でもだ!


「シンラン様、お顔をあげて下さい。そして教えて下さい。ユーラン様をどうすれば助けられるのでしょうか?私の力が及ぶなら、いくらでもお貸しします」


 俺も膝をついて、シンラン様の肩に手を置いた。俺に断られると思ったのか、肩に触れた時にびくっと反応された。


「レン様...ありがとうございます。レン様なら可能です!なんせ三大精霊、ラスリースリー様とパラクード様、更にはボランティーノ様まで、お救いになったお方です!そんなお方が、私などに様などを付けないで下さい!」


 そう、少し怯えるような表情で俺に伝えてきた。ただ一つ気になっていることがある。地底湖何て聞いたことが無い。そんな表情でルーメイの方を見たが、ルーメイは首を横に振った。


 エルムの方を見ると「我々暗部は、アリスト共和国全土の状況を把握していると言っても過言ではありません。いやそれどころか近隣諸国のエルフ国、獣人国、人国の隅々も把握していると自負しております。しかし...この地底湖の存在は...知りえません」


 そうエルムも、俺に向かって話してきた。


「アリスト共和国に住む皆さんが、ご存じ無いのは当然です。ただ...暗部の方々なら一度は行ったことがあるでしょう。神殿遺跡ヤコブに」


 そうシンランがエルムとルーメイ、そして俺に向けて静かに透き通る声で告げてきた。


「まさか...神殿地下2階の、底が見えない崖と思われた空間が、実は地底湖なのですか⁉」ルーメイが驚愕した表情を浮かべながら、シンランに確認をとった。


 シンランは真直ぐにルーメイを見つめ、ゆっくりと頷いた。


「何とも...。神殿地下2階の大きな崖と思われた空間が、元々は地底湖じゃったなんて想像もできませんのう。スケールが大きすぎじゃ。ほ、ほ、ほ、ほ」


「そうです。あの神殿地下2階には、かつては広大な地底湖がありました。その地底湖は我が主、ユーラン様がお守りしてきました。でも、長い年月と共に水源が枯れてしまって...ユーラン様はもうすぐ消滅してじまいまず!ううぅ」


 そうシンランは涙ながらに語った。


「それは大変だ!ユーラン様を救う方法はないのか。シンラン?」俺は心配のあまり、大きな声を出してしまった。


「ユーラン様を救うには、レン様の力が必要です。レン様は1日に100ℓの水を出せるとお聞きました。その水を地底湖に注げば、ユーラン様は復活できるかもしれません!でも...」


 それなら...可能かもしれない。俺の能力なら水を無限に出せる。心配しなくても休み休みやればいい。それに湧き水∞№2~№5も使って、ガンガン水を放出させよう。どんとこい!


「でもレン様、まだ問題があります!地底湖ヤコブは塩湖なのです!大量の塩も必要なんです!このサーマレントでは岩塩からしか塩は取れません。他国から大量の塩を取り寄せている時間は、もうありません...。絶望的です...ううぅ」


 そう言って、シンランはまた泣き崩れてしまった。

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