第25話 モフ様の能力

 皆、土下座をするような勢いで、いや土下座をしていた。


 特にエルムは「いやはや本当に失礼なことをしてしまい、すみませんでした。久しぶりのご馳走が歩いているかと,,,」


 また心の声を駄々洩れにして、ボランティーノ様を怖がらしていた。


 余計に怖がらせてどうするんだよ...。絶対にわざとだろう。


 まあ今まで、精霊様のことを見ることが出来なかった。だから想像で話していたのだろう。だけどあまりに違いすぎる。


 俺の後ろで皆を、いや特にエルムを怖がっている精霊様を見て思った。ただあまりに噂と違うので、少し笑ってしまったのだが。


「レン様、この度は本当にありがとうございました!ずっと酪農地帯コロにいる動物たちが元気のないことに、心を痛めていたのです。私の力ではどうすることも出来なくて...でも動物たちが弱っていくし。私の体も小さくなる一方だし」


 大変だったな。でも何その...身体が小さくなる一方だしとは?


「はい!私は、皆が元気な時は身体が大きくも、小さくもなれるのです。外に来て下さい!」


 そう言ってボランティーノ様は、外の方に向かって、てくてくと歩き出した。


「可愛い~」


 そう言ってルネッタが、また抱きしめようとしたところを、慌ててカリンが抑え込んだ。


「早く来て下さいよ。ボラ様がお待ちですよ!」


 エレンが早速、あだ名をつけたようだ。おいおい、まだ出会って間もない精霊様に対して...。はあ、困ったエルフ娘だ。ボラさまじゃないだろう!モフモフのモフ様だ!


「ボラ様って...よく分かりましたね。動物たちの一部からは「名前が長~い」とか、「ボラちゃんでいいでしょっ、可愛いから」って言われます!」


 エレンまさかの正解!


 は~癒される。名前何て何でもいい。とにかく可愛い。肉球をむぎゅむぎゅしたい。


「ではいきますよ!」


 そう言った後、突然モフ様は、体を膨らませた。すごい。どんどん大きくなる。約10.5mの大型バスぐらいの大きさだろうか。


「えへへ。すごいでしょう」と満面の笑みだ。それも、同時にちょっと照れくさそうなドヤ顔。可愛い。


 モフ様の体毛の中に入らせてもらったら、寒い夜でもすぐに熟睡できそうだな。


 でも一体どこまで大きくなれるんだ?もう25mプールぐらいの大きさだぞ?


「いやはや凄いですな。何人前ぐらいでしょうな」と、俺の隣でぼっそっとエルムが物騒なことを呟いた。まだ食うつもりかこの爺さんは。


 余計なことを言うなよという目で、俺は隣にいるエルムを睨んだ。


 ただ俺も、モフ様が大きくなる意味は何だろう?そう考えていた。


 攻撃力が上がる?それとも大きくなり皆を守る盾となってくれるのだろうか?うーん分からん。


「凄いですな。こんなに大きくなられたら、敵から攻められても百人力ですな。この可愛い姿から岩でも投げられたら、肉体的ダメージだけではなく、精神的ダメージも与えることが出来そうですな」


 そうバルクスがモフ様に対し、俺が思っていたことを伝えた。やはり皆も同じことを思っていたようだ。


 しかしモフモフ様は「すみません。大きくなることだけです。力はありませんし、戦う能力もありません」


 そうもふ様は、すまなそうな顔で俺たちに伝えてきた。場が一瞬にして静まり返った。


 あーあー。また拗ねてしまう。そう皆の表情が少しひきつったが、それは杞憂に終わった。


「でも私が両手に持っている物は、一緒に大きくすることが出来るんですよ!しかも何でもですよ!」


 大きくなることのメリットは、可愛さが倍増することと、持てる物なら大きくすること。


 すごいぞ!すごいじゃないかモフ様!


 皆が「凄い、凄い」と称賛した。モフ様はすごく照れ臭そうで、でもドヤ顔という、なんともキュートな表情をなさっていた。


「私の能力には、まだまだ封じ込められているものもあります。レン様!この土地の復興に力を貸して下さい!」


 そうだな。まだこの酪農地帯は、牧草への対策を行っていない。農地ソロで行ったように液体肥料をまいてみるか。野菜同様に効果が見込めると思うし。


 ただその前に俺たちも腹が減った。もう夜も更けてきた。今日はコロの作業小屋で休ませてもらおう。


 俺は「鉱石の場」で作ってもらった、サイ族でも10人は入れる風呂桶を、作業小屋の裏に出した。


 そこにお湯をなみなみと注ぎ、サイ族の皆に入るように勧めた。


 サイ族の皆は何も無い空間から、巨大な風呂桶が出てきたのにも驚いた様だが、その後の、俺が出す温水にも、驚きを隠しきれない様であった。


「凄い!」


「これがレン様の能力!」


「さすが我々の神だけある」


 いやいや神じゃないよ。神はモフ様だし。


 そんな事はどうでもいい、さあ入った入った。


 サイ族の皆は初めて温水に浸かったという。


 確かに体の大きいサイ族が、一度に10人ほどが肩まで浸かれる湯舟など、地球でも見たことが無いかもな。   


「とても気持ちが良かったです」


「また、是非入らせて下さい」


 さっぱりとした顔をして、皆から感謝された。


 そんな時であった。


「おめでとうございます。あなたの善行により10ポイント入手しました。これにより100%オレンジジュース∞の能力を得ることができました」


 頭の中であの機械音が、また聞こえた。


 なんともルネッタや、子供たちに喜ばれる能力が、手に入った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな中、お腹の満たされた動物たちは、非常に心地よさそうな顔をして、すやすやと気持ちの良さそうな寝息をたてていた。


「こんなにこの子たちの、幸せそうな顔を見るのは久しぶりです」


 そうモフ様は、嬉しそうにカンジャなどの顔を見ながら言った。


 さあ、俺たちもご飯を食べよう。そして、ここで俺は一ついい案を思いついた。


 そうだ!モフ様に頼んでみよう。モフ様は確か、持てる物ならば何でも大きくすることが出来るんだよな。


「ボランティーノ様!申し訳ありませんが、さっそく力を使わせて頂けないでしょうか?」


「もちろんいいですが、何を大きくしたいのですか?それとレン様、私に「様」は不要ですよ。普段通りの言葉使いでお願いします」


 相手は精霊様だし、少し気が引けたが、フランクに話させてもらう事と、「モフ様」と呼ぶ事の許可を得た。


「これを持って、大きくなってもらえないだろうか?」


 ドレンは、俺がモフ様に渡そうとしている物を見て、「流石ですレン様!ボランティーノ様がそれを持って大きくなって下されば、一気に食糧問題は解消されますよ!」


 常に冷静なドレンらしからぬ、大きな声を上げて俺を称えた。  


「モフ様、お願いします」


 そう言っあと俺は、ローラ様から頂いた、ほっ〇もっとのお弁当をモフ様に渡した。

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