第23話 水よりも役立つ能力

 静かにバルクスが落ち着くのを待った。バルクスは一通り泣きつくし、少し落ち着きを取り戻したようだ。


 そして、酪農地帯コロの現状を語り始めた。まず今まで使用していた井戸水が枯れてしまったこと。そのためドワーフのオラシオンが、作ってくれた井戸彫り器で色々な場所を掘ったこと。


 でもどこを掘っても水は少ししか出てこなく、すぐに枯れてしまったことなど。聞いているこっちまで、泣きたくなるような話ばかりだ。


 さらに最近、雨が降っていないため牧草も育たない。水だけではなく動物たちの餌不足も深刻だと伝えてきた。


 まあ動物たちを見ればわかる。ガリガリにやせ細っているから。でも餌や水がもらえなくても、バルクス達の足元によって来る。動物たちも分かるのだろう。バルクスたちが、意地悪をして餌や水を渡さないわけでは無いということを。


 まずは水をあげよう。動物以外にも。ここにいるバルクスやバルクスの部下たちにも。皆が水分すら満足に取れていなさそうだから。


 バルクス達にまず、冷たい水を与えるためにカップに注ごうとすると、「き、気持ちはありがたいのですが、まずは動物たちに与えて頂けないでしょうか?」と聞いてきた。


 自分たちよりも先に、育てている動物たちにあげて欲しいと頼んできた。泣かせる言葉だ。


 そのバルクス達の思いを汲んで、動物たち用の水桶に水を注ごうとした時、「レン様、レン様少しお待ち下さい」と、流さんNO.1の声が脳内に響いた。


「どうしたんだい。?」そう脳内で俺が返事をすると、「レン様、確かレン様は能力を沢山お持ちのはず。その中にはレン様、この場面で水よりも役に立つ能力があったかと思います」と俺に伝えてきた。


 とは流さんNO.1のことだ。流さんNO.1は呼び辛いし、親しみ感が無い。流さんNO.1と相談してに決まった。


 まあ話を戻して、水よりも役に立つ能力?何だ、何かあったか?


 俺も色々な能力を善行によって授かったから、全部をしっかりと把握しきれていないのかもな。まあいっさんが言うならあるんだろう。


 え~と。能力一覧から...。


 水の排出∞

 水の濾過∞

 冷水∞  

 温水∞  

 水魔法攻撃レベル10(Max)

 ポーション効果小∞

 液体肥料∞

 湧き水∞(小)5か所分 

 動物用栄養剤∞

 魚用栄養剤∞

 ビール∞

 海水∞


 ああ、ポーションもいいかもな。流さんはこれを教えようと...「あ!」


 俺は、動物用の水桶に水を注ごうとした姿勢で、大きな声をあげた。


「どっ、どうかいたしましたか⁉レン様」


 バルクスがすごく怯えた表情をして、俺に話しかけて来る。まるで自分たちの行動によって、俺が気分を害してしまったのではないかと心配をしている様だ。


「ごめんね。驚かせてしまって。思い出したんだよ!そうだよ。思い出した!動物用栄養剤があったんだ!」


 俺は自分の能力の1つを思い出した。動物用栄養剤だ!危うく忘れるところだった。危ない危ない。これを試してみないと。教えてくれたいっさんには感謝だな。


「いっさん、ありがとうね」と、いっさんにお礼を言うと「いえいえ。こちらこそ差し出がましい真似をしてしまいまして...」と逆に謝られてしまった。


「これからもどんどん指摘してね。本当にありがとうね」と、もう一度いっさんに感謝の気持ちを伝えた。


 農地ソロでは、枯れかけた植物に植物用栄養剤を与えた瞬間、若葉のような青々とした状態にまで復活した。


 絶対、ここにいる動物たちにも動物用栄養剤を与えれば、何らかのプラスの効果が現れる...はず。


 俺は早速、動物用栄養剤を餌桶に注ぎ込んだ。すると、やせ細った牛や羊が鼻をひくひくさせ、匂いを嗅いでいる。すぐには飲もうとしなかった。毒の有無を確認しているのだろうか?


 しかし、恐る恐る液体を嗅いでいた鼻の動きに、変化が現れた。


 最初は左右にゆっくりと動かしていた鼻が、高速に、更に上下斜めにと、ありえない動きをし始めた。その鼻の動きがぴたりと止まった瞬間、今度は血走った目が、「カッ!」と開いた。


「ひっ!」あまりの迫力に、ルネッタは泣きだしてしまった。


 恐る恐る動物たちを見ていると、勢いよく動物用栄養剤を飲み始めた。いや、もう飲むという表現ではないような気がする。ゴクゴク飲む?あびるように飲む?顔全体に動物用栄養剤がついてもお構いなしに、むさぼり飲んでいた。


 その勢いか、匂いに誘われたのかは不明だが、日陰で体力の温存をしていた他の動物たちも、凄い勢いでこちらに駆けよって来た。


「メ~!(羊・ヤギ)」


「ヒヒ~ン!(馬)」


「グワ~ン!(ラクダ)」


「ク~!(アルパカ)」


「コケコケコケ!(鶏)」


「そんなに美味しいの?なら私も少し...(エレン)」


 こんなに沢山の動物がここにいたのか...。それとエレンの行動は、お約束芸人のであった...。


 凄い数であった。10ケ所はある餌場に餌を入れても、すぐに無くなってしまう。忙しい。


「レン様~こっちにも入れて下さい」と、エレンが動物用栄養剤を要求してきた。


 おいおい、本当に飲んだのか?という疑いを込めた目でエレンをみた。髪や肌が何だか艶々しているような...。


「やだ~私じゃないですよ。カンジャとエイトですよ。もう凄い勢いで飲んでいます。顔で飲んでいます。よほど美味しいのか、よほど飢えていたのか。他の動物たちも、すごい勢いで飲んでいますよ」


 どの動物を見ても我先にと、がぶがぶ飲んでいる。その光景を見たバルクス達は大喜びである。


「よかったなーお前たち。よかったなーお前たち」と泣いて喜んでいる。ブイやシックス、そして他の動物が、夢中になって飲み続ける背中を撫でている。


「こんなに勢いよく食事を取っている姿を見たのは、いつぶりでしょうか...。本当にありがとうございました!」そうバルクスは俺に頭を下げてきた。


「それに、何だかあの子達、ふっくらとして、毛並みもよくなっている様な気がするのですが...」と俺に言ってきた。


「まさかバルクス。そんなに効果がすぐに現れるわけない…」とブイやカンジャの姿を見ると、そこには先ほどまでの頬がこけて、ガサガサした毛並みのブイではなく、毛並みが美しく輝き、全体にふっくらとしたブイの姿があった。


 他の動物たちも皆、動物用栄養剤で顔中べたべたではあるが、あんなに痩せこけていた姿がウソの様に、ふっくらとした姿に戻っていた。そして動物たちは皆、幸せそうな顔をしていた。


 その感謝を示すかのように、俺たちの元にすり寄って来た。


 元気になった彼らは、俺たちの足元に擦り寄ってきたり、顔を舐めたりしてきた。バルクスやその部下の元に真っ先に感謝をつたえた後、何故だかエレンの所に向かって行き、エレンをもみくちゃにした。


「レン様助けて~」と叫んでいたが、「エレンは人間に関わらず、多くの種族から愛されるな~」とその光景を見て、感心してしまった。

 

 そんなほのぼのとした?光景の中で、あの定番のファンファーレが、俺の脳内で響き渡った。いつもの善行を称える例のであった。

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