第19話 分身体の作成に向けて(改訂版)

 流さんは俺たちに、分身体の作成方法が分かったと伝えてきた。待ちに待った報告だが、非常にドキドキする。


「私を増やす方法は単純です。何でも300kg分、食べれば分身体を一体増やせるようです。ちなみに300kg分食べた後、分身体を作るか...それとも今まで私が食べたことのある物を作るか、選択が可能です」


 分身体を一体作るのに300kg必要か...。食べる物を選ばないでいいのなら、ゴミや排泄物、石や岩などかな。それか魔物から出る骨や牙、鱗などかな。


 何を食べて流さんに分身体を作成してもらうかだが...心情的には、パラクード様が頻繁に抱きしめているので「排泄物はちょっと...」と思ってしまう。


「私は以前、ゴミや排泄物関係を食べることが多かったのですが、偶然...ぺリドットやサードオニックスなどの貴金属を食べたこともあります。それらを排出することも可能です。ダイヤモンドも可能です」


 詳しく教えてくれとお願いをしてみたが、ネームをもらう前の、無意識で動いていた時のことだから、記憶には残っていないらしい。


 ローラ様いわく、もう1つの物語「潰れかけのスーパー~」の47話を参照して欲しい。


 排泄物はな~、という表情で流さんを見つめていたのかもしれないが、流さんから 「レン様...私はこちらの世界に来てからは、排泄物は体内に取り入れておりませんからご安心を」と念話を飛ばしてきた。


 流さんも気にしていたようだ。排泄物に関しては、他のスライムたちが処分をしていると流さんは教えてくれた。


 顔に書いてあったかな?なんか申し訳なかったな。


「ごめんよ流さん。変なことを言わして...」


「謝らないで下さい。当然のことです。ただ誤解だけは解消をしておこうと思いまして」


 そう、さらりと言い切った。本当に渋くて格好いいスライムだ。なんかとくる。


 さらに俺たちと会話をしながらも、説明書の解読に努めてくれた様で、いくつか分かったことがあるようだ。


  分身体は20体まで増やすことが可能。これはでの話らしい。ダブルネームとなり、更なる可能性が与えられたようだが、現段階では不明らしい。


 更なる可能性か...。また期待をさせる言葉だ。


 また、分身体を作れるのは本体の流さんのみらしい。そうか、分身体では作れないのか...。そんなに上手くはいかないか。


 ちなみに分身体は副産物の作成は行える。おー、外貨稼ぎまくりだ。


 あと肝心の転移距離についてだが、 「転移距離は一応無制限となっており、一回の転移における人数の制限は、記載されておりませんでした」


「お!そうすると、何人でも移動ができるという事か?」


 否が応でも期待をしてしまう。


「いえ現段階で...1回の転移では、1.5tまでです。現時点での能力です。そしてインターバルとして30分間必要です」


本人からすると、微妙な重量だからなのだろうか?やや声が沈んでいる様だ。


 1.5t。要するに1500kg。100kgの男性10人と500kgの荷物となる。1500kgしか運べないと、流さんは思っているのだろうか?


 でも俺たちは1500kgも一度に運べると大いに喜んだ。すごいことだ。また30分のインターバルを取れば1.5tを、違う場所に運べるのだから。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 試練の遺跡か...凄い場所だ。早速でも動きたいことで目白押し。でも遅くなってしまった。これ以上居座っても申し訳ない。今日はもう一つだけ、お願い事をしてからドランに戻ろう。


「パラクード様。一度ドランに戻り、明日の朝もう一度戻ってくる予定です。あと流さん。大変言い辛いのだが、分身体を一体作って...」


 帰る前に、分身体の作成を流さんに頼もうとしたところ、パラクード様から 「それならばこの試練の遺跡の地上の建物、私の宮殿に泊っていけ。いや是非...皆に見てもらいたい!」


 まるで自分の新しい部屋を見せびらかしたい、小さな子供の様であった。


「宮殿の二階には、ゲストルームが沢山ある。皆で泊まっていくと良いぞ。というか泊っていけ!」


 目をキラキラとさせて、皆でお泊り会をしようよと、訴えてきている。


 寂しがり屋のパラクード様らしい発言だ。


「宜しいのでしょうか?」


 そう俺はパラクード様、そして流さんの両名に対し...伺うように聞いた。


「よろしいも何も...誘ったのが私だから、いいに決まっているぞ!それにレン!先ほどから仰々ギョウギョウしいぞ。私に対して敬語はいらん。なにせレンは私の恩人じゃ。レンが現れなければ...まだ流さんと2人きりで、気づかれずに寂しく暮らしていたからの!」


 俺の背中をバシバシと叩きながら、パラクード様は笑顔で言われた。何となく泊っていけ、そうおっしゃると思っていた。それに目で訴えてきている。仲良くしようよと...。


「わかりました。そういたしま...そうしよう。ただ、まだ慣れていないから、言葉が変になるかもしれない。その時は許してくれ」


 そう俺がパラクードと流さんに伝えると、パラクードは嬉しそうに「うん!」と頷いた。


 確かエルスの話では、住む所に困っていた者達の、ねぐらになっていた場所だったな。あとパラクードの話では礼拝堂もあるらしい...が。 


「そうか...では、そこにお邪魔をして明日に備えることにしよう。だがまずその前にエルス、ドランに戻りすぐに王女様に報告を頼む。パラクードの復活と試練の遺跡の復活、更には食糧問題に目処が立ちそうだと。あとは流さんの事もだ」


 王女様になるべく早くこれらのことを知らせないと...。また流さんの事も。流さんの分身体を活用すれば、物資を迅速に配分できる可能性も含めて...。


「あとエルス、「戦の間」で食料の調達と下見を獣人族で行ってもらいたい。ドランに戻った時に、その人選もお願いしたい。急に色々なことを頼んで済まない」


 そうエルスに頼んだ。


「お任せ下さい。屈強な者とは戦闘ができる者という捉え方で、間違いがないでしょうか?」


 エルスは俺に対し、片膝をついて聞いてきた。そんなに堅苦しくなる必要はないが...。まあ、俺も疲れているし放っておこう。


「そういう解釈でお願いしたい。多くても5人ほどでいい。数ではない。精鋭部隊で魔物討伐を頼みたい。やることは山のようにあるからな。「戦の間」だけに人を取れない」


 そして俺は、エルスに「ただし分かっていると思うがリュースは抜きだ。まず責任をもって人間性を成長させてくれ。危なっかしくて何も任せられない」そう伝えた。


 エルスには悪いが、はっきりと告げた。むやみに抜刀する人間は返り討ちにされても仕方ない。今のうちから精神的な成長を促さないと...。


「は...了解いたしました。リュースの件は,,,ご配慮ありがとうございます。私が責任をもって鍛えなおします」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 エルスは、戦える獣人を選ぶために2人をここに残し、他の獣人とともにドランのもとに戻った。


 エルス達獣人は、他の種族よりも体が屈強で睡眠を3,4日取らなくても、何の問題も無いという。また怪我の回復も早いらしい。ただし魔力を殆どの者が持たず、短絡的な行動をとる者が多いらしい...。もろ...リュースじゃんか...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そうか大体...流さんの能力が分かった。短時間での説明書の解読ご苦労様。でも大変に言い辛いことだが頼みたい事事がある...」


 無理を承知で流さんに、分身体の作成を頼んでみることにした。朝までにこれを行ってもらえば、出発を早めることが出来る。


「レン様の考えとして...。レン様のおともに、私の分身体を連れて行きたいのですね。各エリアに私の分身体を配置したいのですね」


 そう。さすが優秀なスライム。ダブルネームもちだ。各主要エリアに流さんを配置し、転移門の代わりになってもらう。


 でもなんか分身体だの、本体だの流さんの呼び方が厄介になって来た。本体を「マスター流さん」、これから増えるであろう分身体を、「流さんNO.~」と呼ぶことにした。まあ、分身体が増えてからの話になると思うけど。


 これを流さん、いや流さんに伝えると、嬉しそうにその場で跳ね、「格好いいですね!了解です。楽しみです」と、快く了承してくれた。


さて話を戻すと、明日からの予定はこうだ。


 流さんNO.1と一緒にコロに向かい、流さんNO.1には、コロの転移門となってもらう。流さんNO.1から流さんNO.2を呼び寄せ、次の目的地である産業都市サンマルッセまで、俺たちと一緒に向かう。あとは同じことの繰り返しだ。


 その計画を実行する為にも、分身体ができるだけ早く欲しい。そんな俺の気持ちを察したのか、流さんから念話が届いた。


「出来ましたら...。皆様にお手伝いをして頂きたいことが一つあります」


 ここにいる皆に、遠慮するよう様に念話を飛ばした様だ。獣人たちからは「一つじゃなくていいぞ」と温かい声が漏れている。皆、やる気に満ちている。


「今から分身体を作りたいと思います。「鉱石の場」で、私が食べやすいように石を切って下さい。あそこからは鉱石がいくらでも採掘できます。それらを食べれば、分身体を効率よく作れると思います」


 そうか!石や鉱石が無限にわく「鉱石の場」の石を食べるのか!


 食べやすい大きさって...どのぐらいなんだ?あとどうやって鉱石をカットすればいいんだ?


 ダイヤモンドカッターなど無いだろうし、石切り刃で、1つ1つカットしていくのか?それともクサビでも石の壁に打ち込んで、手ごろな大きさに...岩を砕いていくのか?


 どちらにしても重労働だな。


「あーでもない。こーでも無い。ドランからハンマーでも持ってくるか?それとも「鉱石の場」に便利な石きりの道具でもあるのか?」  


 一人でぶつぶつ言いながら、考えているとパラクードが近づいてきた。


「そんなの簡単だぞ。私の能力を使えばあっという間だぞ。昔は私の能力を使い、アリスト共和国の城壁を作ったのだ。今よりも水も、食べ物も豊富だった。それでも獣人達からは見えない存在だったがな...。だから今は幸せだ!」


 そう言ってパラクードは、また流さんを抱え、ぐるぐると回り始めた。


「私の能力って、そうか!すっかり忘れていたが...試練の遺跡以外のパラクード固有の能力、力付与と石切りか!」


 俺も興奮して大きな声を出してしまった。スーパーで高齢者の相手をしていると自然と声が大きくなるのよ、これが...。


 でもパラクードの能力って、一時的で人数制限があると聞いた。何人ぐらいがパラクードの能力の、恩恵を受けることが出来るんだ?


「安心しろレン。まだ完全じゃない今の段階でも、ここにいるすべての者に与えるぐらい訳が無い。皆に一時イットキは与えることが出来るぞ。


 確か...一刻が約30分、一時が約2時間だったな。


 今ここには男性獣人が2名。更にエレンとカレン、それにドレンがいる。


ここに残っている獣人達の方を向いて「君ら2人が中心となって、石切の作業を行ってもらう事になるが...それでもいいかい?」と聞いた。


「もちろんです。お任せ下さい。我々だけでも十分です。パラクード様から直々に力を与えてもらえるとは...子供たちや嫁、いや爺様や婆様にも自慢が出来ます。大変名誉なことです」


 2人は俺の前でヒザマズき、目を潤ませながら俺を見上げた。


 本当に名誉なことなんだろう。涙ぐみながらも...どこか胸を張っている。獣人の世界には獣人しか分からないことがある。そっとしておこう。


 さあもうひと踏ん張りだ。各自が色々な感情を胸に本日最後の仕事に向かい、動き始めるたのであった。

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