第17話 ダブルネーム持ち

「でも...何で流さんは、太郎と離れてしまったんだ?何でこっちの世界にいるんだ?」


 思ってみたことを、流さんにぶつけてみた。それに...まだまだ聞きたいことは沢山ある。


 太郎はどんな暮らしをしているのか。サーマレント?文明は?危険な場所なのか?


 ちょっとだけでも、知っているだけでもいい。太郎のことを教えて欲しい。


 太郎は29歳。東京の大学を出て、そのまま東京で働いていた。高校や大学時代も手が空いている時は、スーパーの仕事を手伝ってくれた。


 心優しい子だった。もっと知りたい。突然、別れてしまったから...。


「私は...太郎様から名付けて頂いた後、身体全体が光りに覆われ、進化の最終過程の、最後の分裂をした時の片割れです。そしてその進化において、どんな物でも消化可能と二度と分裂をしない、それと衝撃無効化の能力を得ました」


 分裂の片割れね。じゃあもう一人の流さんが太郎と共にいるという事かな...。


「うちの息子は、太郎はどんな様子だったのか...教えてはくれないか?」


「すみません。私では何とも。出会ってすぐに名を頂きましたので...。ただ強そうな、獅子族の獣人の方と一緒におられました。あと...言葉を理解する子犬とも」


 そう言った後、流さんは謝って来た。いやしょうがないよね。でも元気に頑張っている様だ。安心をした。


 それにしても...不思議なものだ。親子で獣人と仲良く暮らしているだなんて...。地球の感覚じゃ考えられないことだ。


 そのあと流さんから、一般的なスライムについての説明を受けた。


「私たちスライムは、一定量以上の栄養を摂取すると分裂を行います。そしてスライムが嫌われる理由は、分裂時に...とても強烈な悪臭を放ちます」


 確か...人間を含む、排せつ物を食べると聞いたし...。


「そりゃもう凄い匂いです。自分で言うのもなんですが...。そして殆どのスライムは分裂の時に、元の個体は死んでしまうと言われております」


 まあ匂いはおいといて...分裂をして両方とも無事なら、世の中はスライムで溢れてしまう。流さんには申し訳ないが...。


「ただ...今回は名前を頂いた後の分裂です。死ぬのではなく他の異世界に飛ばされたようですね。まさかご主人様のお父様にお会いするとは...。驚きです。また...太郎様同様にレン様も、魔力量は無限ですね...素晴らしい限りです」


 進化ってすごいね。違う世界に飛ばされるとか...。驚いただろうな流さんも。いきなり違う世界に飛ばされて...。


 ある意味、違う世界に飛ばされるって...俺と同じか。


 でも目の前の流さんを見て...何となく息子の気持ちが分かった。ついつい俺は、思っていることを...言葉に出してしまった。


「息子じゃなくても、俺が流さんに名前を付けるなら、やっぱりだな。なんたってスライムだもんな。という文字を使いたくなるよ」と...。


 すると、目の前の流さんが急にそわそわし始め、更に急にピカ―!と、ひとりでに光を放った。


 なんだなんだ?自爆か?もしかしたら...名前が嫌だったのか!


 親子二代に渡って、同じ名前を付けられて...。ショックの自爆か?


「レン!流さんは大丈夫なのか!流さんが急に光ったぞ!」


 慌ててパラクード様が、俺の元に駆けよって来た。いや俺も、何が何だか分からない。逆に俺の方が聞きたいぐらいだ。


「いや俺も正直焦っている。親子で「流さん」と名付けたことが、そんなに嫌だったのか?」


「いや、流さんはそんなことは一言も言っていなかったぞ。こんなに...スライムの特徴を理解してくれた、名付け親に会えない自分は...と、遠い空をよく眺めていたぞ」


 太郎が、名付けた名前を...喜んでくれていたのか。では何でだ?何で体中が光り輝いているんだ?


 少なくても自爆ではないとしたら...。


「レン様、こ、これって、ま、まさかのまさかの...進化じゃないんですか!」


 慌てるように俺の前に来たエルスが、声を、いや声だけではなく体全体を震わせながら、俺に言ってきた。


「レン様も名付けるなら「流さん」だって...。偶然にも魔力量無限の二人から、これまた偶然にも...同じ名前を名付けられるという...ダブルネーム持ち...」


 エルスが青い顔をしながら、俺に絞り出すような声で伝えてきた。


 俺の体内から魔力を大量に奪いに来る何かを感じる...。流さんの進化に必要な分の魔力を、ネームを偶然に与えた俺から、奪いに来ているのだろう。


 しかし...俺は魔力無限だ。


 ごっそりと、2回目の進化に必要な魔力を奪いにくるが、その分俺は、大気中の魔力を取り入れるだけ...。


 どんどん俺から奪っていけ。流さんの2回目の進化は、行わせて頂く。


 そんな魔力を奪われて行く感覚も、あっという間に終わった。


 辺り一面に、眩い光を放っていた場所には、全くといっていいほど代わり映えの無い...流さんの姿があった。


 そして、俺の姿に気が付くと流さんは、俺の元に...慌てた様子で弾んできた。


「ご迷惑をおかけいたしました!レン様!いえご主人様。私の力ではどうしようもなく...身体が勝手に進化を始めてしまいまして...。大変...ご迷惑をおかけいたしました!」


 流さんは俺の前で土下座をして、まるで頭を下げているかのように、身体を2つ折りにしてみせた。器用なスライムだ...。


「流さん、それよりも気分は悪くない?大丈夫?」


 見た目からは全然違いが分からない。進化した前と後との違いが...。


「私は大丈夫です。多分ですが...私の深層にある意識の中で、ご主人が太郎様からレン様に塗り替えられました。これからも末永くよろしくお願いします」


 そう俺に伝えてきた。太郎から俺にか...。複雑だが、流さんの事を考えると、会えないご主人様を思って暮らすよりも、俺の傍にいる方が幸せなのかもしれないな。


 よろしくね流さん...。


「そして、新たな能力も追加されたようです。私の分身体を作成する能力と、転移能力です。私の分身体が、何体まで所持可能かなど、詳しいことは説明書をしっかりと読まないと。それと転移ですが...説明書からみておそらく...」


「おそらく...」


 ここにいる皆が、流さんの方に視線を向けた。


「おそらく私や分身体から、分身体に移動することが出来る能力だと思います。一回転移を行うと、30分のインターバルが必要と、説明書には書いてあります」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 驚異的な能力だな...。それと説明書があるんだな...。


「進化したで悪いが流さん、説明書をできるだけしっかりと読んで欲しい。流さんの新たに追加された能力を早々に活かしたいんでね」


「了解しました」


 ただ凄いことだぞこれは...。行きたいところに瞬時に行けるという事だ...。


 それもこれも...先に流さんを、太郎が名付けてくれたから、可能となった能力だ。太郎に助けられた気分だ。親父...そっちも頑張れよと...。


 頑張るよ俺も...。はるか遠くの夜空に向かい...心の中で呟く根津正58歳であった...。

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