第8話 ロンダさんから説教を受ける

 張り切り過ぎて、畑を通り過ぎてしまったらしい。放水する感覚は今の半分ぐらいか。今の俺ならいくらでも出せるな。


 この放水を見たロンダさんと、シャロウィーンさんは、液体の放出量に驚きと、戸惑いを隠せない様だ。


 本当に100ℓだけしか出せないのなら、あっという間に終わってしまうのではないか。  


 もっと大切に放水をして欲しいという目で、見られているような気がする。いや見ている。


 ちょっと調子にのっちゃったので、ドレンと密に連絡を取り合い、無駄の出ない様に注意をしながら液体肥料を撒くようにした。


「ドレン、こんな感じでどうだ?」


「レン様ばっちりです!この調子でどんどん南に進んで行きましょう!」


 ドレンに促され俺は、南に行こうとした瞬間の事であった。


「ちょ、ちょっと待って下さいレン様。そちらでも液体肥料をまいた植物と、土をご確認下さい!」


 ドレンの急を知らせる声に、俺は液体肥料を発射させる手を止めた。


 そしてここに残っている者に、「ドレンが植物と液体をまいた土を確認して欲しいと言ってきたので、見てきてくれないか」と頼んだ。


 するとここに残っていた、エレン、バロン、カリン、ルネッタ、そしてロンダさんまでも、液体肥料をまいた場所まで、確認をしに駆けつけた。


「どういうことですか!」や「さっきまではあんなにしわしわだったのに...」など、驚きを表わす声が至る所から聞こえた。


 俺とシャロウィーンさんも、慌てて植物の元に駆け寄った。


 すると、あんなに枯れる一歩手前の様な植物たちの茎や葉が、青々と蘇っていた。


「バ、バカな...こんなことが起こりうるなんて...レンさんが与えた液体によって、急激な回復が...。すごいですよレンさん!植物たちが喜んでいます!」


 そう言って俺の前で、シャロウィーンさんのテンションが上がり、ピョンピョン飛び跳ねた。


 もう違うところもお祭り騒ぎ。こちらの世界のブラはどうなってんねん!というぐらい、ブルンブルン。もうイリュージョンだわ。


 こんな魔物が現れたら、見るのを我慢できるか!



「ちょっと待って下さいレン殿!」と言って、ロンダさんが駆け寄ってきた。


「はっ」俺はどこか違う場所にいた様だ。よかった現実世界に戻ってこれた。


「どうしましたロンダさん?」


「こ、この植物たち、成長していませんか?」


 そう言った後、ロンダさんはソルガムを見つめた。


 俺たちもロンダさん同様、ソルガムを見た。確かにここに来た時は、膝下までしかなかった。


 それがどうだろう。今では俺の腰回り付近にまで達している。確かに成長している。それもまだ、成長し続けている様な気がする。


「ソルガム」は、イネ科の穀物で「ソルガムきび」などとも呼ばれる。南アフリカ原産の古来の穀物である。


 日本でも実際に長野県などで作られており、成長力があり茎高は2mほどにもなる。干ばつに非常に強い作物と言われている。


 だから今回、水を与えたことにより、このソロに植えてあるソルガムは、もう水をあげなくていいだろう。


 これで城下町アルタ、人族街のべヘム、獣人族街のドランの最低限の食料は何とかなるだろう。


 ただし、あくまでも飢えに耐えられるレベルである。俺が来たからには豊かな食料と、沢山の笑顔をもっともっと増やしていきたい。


 俺の善行レベルも上がるし、皆と豊かな暮らしをしたいから。


 更にエレンが「レン様~見て下さいこの土を!」と言ってきた。


 エレンの傍に行き、足元の土を見てみた。


 すると、苗が埋まっていない場所に撒かれた液体肥料は、土にしみ込んで、肥沃な土地になっていた。見るからにふかふかだ。


「凄いです!これは!ソロにあった土とは思えないほど肥沃な土です!先ほどのレン殿がまかれた液体を吸って、痩せこけた土がここまで栄養を持った土に変わるとは...そして...」


 そう言ってロンダさんは、自分の思っている続きを、シャロウィーンさんと俺を見つめながら恐る恐る呟いた。


「もしかして連作障害をも、無効にしてしまう土かもしれませんな...」


「まさか!そんな夢のような話が...でも砂漠のサラサラの土が、ここまで肥沃な土に変わった以上...どんな変化が起こってもおかしくはないかも...」


シャロウィーンさんは、こわばった顔でロンダさんに自分の考えを告げ、更に...


「すぐに試してみましょう!ここの空き地は前回トマトを作っていました。トマトは連作を嫌う植物です。ここで芽が出て成長すれば...」


 そう言いながらシャロウィーンさんは、トマトの種を数列分植え始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さて、これで俺の液体肥料はこのソロの農地、いやこのアリスト共和国の農地において、非常に有用と分かった。


 まずソロの全部の植物に液体肥料をまくことにした。ゆくゆくは少しずつ液体肥料を遠くの方に撒き、肥沃な大地を増やしていく予定だ。


 俺はまたドレンに畑の先端まで行ってもらった。そして液体肥料をドレンと連携をして撒いていった。


 約1時間この工程を行い、難無くソロの農地一面に液体肥料を撒くことが出来た。


 今までソロにあった、枯れる一歩手前の植物も全て復活した。茎や葉っぱ以外も土もふかふかで、この畑一面が喜んでいるように感じる。


 そんな満足感に浸っている俺の元に、ロンダさんとシャロウィーンさんが、何かを聞きたそうな顔で俺の元にやって来た。


「お二人ともどうなさったのですか?」


 そう俺が二人に尋ねると2人は神妙な顔で、俺の前に顔を寄せてきた。


「あなたは一日に100ℓ、そして水のみを作り出すことが出来るはずでは?」


 二人はハモった。


「あ、すみません言い忘れていました。水を生み出す量は無限になって、水以外にも、温水や液体肥料なども、生み出せる様になりました」


「は~⁉」


 二人はまたハモった...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そのあと俺は、ロンダさんから「そういう事は早めに言ってもらわないとですね...」とお説教を受けてしまった。


 水以外にも即効性のある液体肥料が撒けるなら、一気に食糧問題が解決できるかもしれないと喜んでいた。


 早速姫様に報告をしないとと、ウキウキしながら宮殿の方に戻って行った。


 急ぐように宮殿に向かうロンダさんを見送っていると、再び頭の中で機械音が鳴った。


 しかしいつもと様子が違う。


 ドラ〇ンクエ〇トのカジノで、大量にメダルを出した時の様な、ゴージャスな機械音が流れた。


 その後に、「おめでとうございます。あなたの善行により1万ポイントを入手いたしました。これにより動物用栄養剤∞、大地の精霊ラスリースリーの実体化を得ることができました」


そう聞こえた...。

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