私にとっての青色
吉高光一
第1話
昔、面接官に
「色を見たことがない人に、青色を理解させるためには何と説明しますか?」
と問われたことがある。
当時の私は、突拍子もない質問に唖然としてしまった。今思うとよくある質問だ。某外資系IT企業の面接が先駆けだろう。この手の質問は非常に対応が難しい。
今回の質問の場合、色という視覚を通してのみ、認識することが出来るものを、言葉で説明しなければならない。数秒ほど沈黙した後、
「代表的には晴れた昼の空や海の色がそれに当たる、と説明します」
と面白みのない回答をした。
答えが影響したかは不明だが、その後、面接通過の連絡が来ることはなかった。
おそらくこの質問の意図としては、咄嗟の対応力、思考の柔軟性の確認をしたいといったところだろう。
多少のユーモアでも混えて返すべきであっただろうか。それとも奇抜な案を出した方がうけただろうか。現実には起きえない設問を考えるだけ無駄だ、と悔し紛れに考えることをやめた。
このことをもう少し考えておけば、と後悔する日が来ようとは思いもしなかった。
私は今日、課長から呼び出された。わざわざ応接室に呼びつけるのだから公には口にできない話であることは間違いない。
この会社に勤めて4年。仕事には慣れたものだ。ここ最近では大きなミスもしていない。なぜ呼び出されたのか。心当たりがないばかりに余計にそわそわとしてしまう。
心配をよそにバタバタと呼び出した張本人がやってきた。私は立ち上がって挨拶をする。
「お疲れさまです」
「ああ、お疲れさま」
煙草の匂いとつけすぎた香水にむせそうになる。どうも歳を取ると鈍くなってしまうらしい。さっさと話を終わらせてしまおうと、こちらから切り出す。
「えっと、今日は何で呼ばれたんですか?」
「君自身気づくことはないかね?」
思い当たる節がない。強いて言えば最近、課長の薄毛が進行していることぐらいだ。いや、進行というより後退だなと下世話なことを考えていると、痺れを切らした課長が続けた。
「得意先からクレームが来ているんだよ。君の対応についてね」
これは驚いた。どうやら事態は深刻かもしれない。薄毛など余計なことを考えている場合ではない。
しかしなぜだろう。現在受け持っている案件は一件だ。かなりの得意先であることから、万全の注意をして応対している。
つい昨日、接待をしてきたばかりだ。得意先も上機嫌であったし、君のところに任せて正解だ、とまで言っていただいた。
私がピンと来ていないのを察したようだ。彼は言いにくそうに口を開けた。
「その...なんだ、率直に言うと、君の...奥行きが気に入らないそうだ」
「奥行き?」
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