金で量れない価値

 「カナはいくら出す?」

 この質問は誰かと食事に来て会計するときに必ず訊く常套句である。ここでその問いを投げかけることにより、価値観や金銭感覚を見ることができる。最近では平等とか争いを起こさないための協調性概念から割り勘で済ますことが多いそうだ。またデートでお金を払うのは男性の役割と、ひと昔の価値観で進行する女性もいる。


 まあ、その価値観を押し付けてくるのも無理はないとは思う。だって、ひと昔つまり母親の価値観や創作物によって育てられた人物がそういう価値観になるのは仕方ないことだからだ。


 個人的には気に入らないが、環境が生み出した価値観だから一応許容はしている。


 相坂はその問いに対し、財布を出そうとカバンの口に手をかけたが、何か思い立ったのか動作を止め、直り、傲慢な態度を取った。

あなたが払てよ」


 お互い好感度が下がる音がした。一瞬、あれ?自分は筋が通っていないことを言ったけ?と思考と疑問符を並べ考えたが、悪いと思う点が見つからなかった。後でその理由が解かるので先送りにする。


「わかった」自分は彼女の悪態に対して、毅然とした対応を取り、会計の人には「食事代とお釣りはいつも通りチップとして貰っておいてくれ」と返事を返した。


「承知しました。またのご来店をお待ちしています」と、見送られ外に出た。


「で、次どこ行くの?」

 女の気分は秋の空くらい変わるとはいうが、もう少し情緒というものを持って欲しいとは思う。さっきまで気遣いができる女性だと思っていた分、突き放された気分になってしまう。


「いや、どこにもいかない。自分は帰る」と不貞腐れた感情を醸し出し、帰る行動を取る。


 さきほど、男性が奢らないといけない論に対し許容をしているとは言った。だがこの行動は、自分のポリシーとして『全部奢らせて来る女』はどんな良い性格をしていても付き合わないと決めている。補足として、別にそういう性格じゃなくとも、行いに関しては、相手の動揺を誘いどんな反応を取るのかという最低な遊びでもある。これは初めてデートする時はすると定番づけている。


「プッハハハハ。ホント、ユガって面白い人!お腹痛い」

 振り返らなくとも解かる。彼女は腹を抱えて笑っている。一秒ほど反応のギャップのショートにより足を止めた。が、彼女の悪業がフラッシュバックしてきて、帰る足の活力を復旧させる。


「あたし、って言ったわよね。食事して帰るって、ダメ人間でもやらないよ」

 ダメ人間を引き合いにだされ頭がカチンと来た。ただの常人の戯言なら、聞き反らしてそのまま帰っていた。今思えば、彼女との待ち合わせの折り合いが良くあってもそのまま帰っていたと思う。


「だれがダメ人間だ」振り向き直し、怒りの想念を彼女に伝える。それで、ビビる行動をするかと淡い願望が過ぎ去ったが、かき消すように、

「じゃあ、どこ行くの?」と、口を添え嘲笑の笑みで返された瞬間、完全にケンカのモードに切り替えさせられた。


 どこか合法的に彼女に痛い目を合わせる方法はないかと、彼女から十メートル離れた地点から探す。思考のマップ上では、ボーリングなどがやれる大型遊戯施設やビリヤードクラブが検索に引っかかった。しかし、そうなると移動中に冷めて、またいつもの病気を発症し、不完全燃焼にも帰ることを選択しかねない。


「よし分かった!相手してやる!」

 自分の口から言葉が出ていないはずなのに、彼女は駆け寄ってきて、両手で左手をつかみ、すぐ数メートルの前にあるゲームセンターへと引きずり込まれた。


 自分も頭に血が上っていたとはいえ、自分の家(本家)が管理を包括しているゲーセンが選択肢に無かったのは痛手だった。いや、自分に取ってあまりにもあり触れた場所だから思考にも無かったのだろう。きっと、彼女の目からは自分が行きたいシグナルが感じとれ、わざわざ距離を詰めてくれたのであろう。


 カナに引きずられ入店し、不本意ながら権威を使用しいつも通り、ゲームを無料でやらせろと店長を呼ぼうとした。でも、それより先にカナはお札を両替機に入れ、硬貨にして、ふたたび駆け寄り「はい」と五枚の硬貨を貰った。

「別にこんなことしなくともタダでやれたんだぞ」と、何かプライドが傷付いて怒り混じりに言い放った。

「……さっきは、支払いしなかったからって帰ろうとしたのにいいご身分で」

「チッ、それ言われたら愚の出も出ねえ。なら、何をやるどれでもコテンパンにできる自信はあるのだが」

「それじゃあ~あれにしよう~」


 カナが余裕を持った症状で、指をさしたのは『リズムゲームの定番、太鼓の鉄人』だった。


「わかったやろう」と了承し、現機の前に行った。


 説明不要だと思うが一応。『太鼓の鉄人』とはドンとカッその他連打ギミックに合わせ太鼓を叩くというシンプルなゲームだ。それ故に老若男女問わず人気があり、その中でいろんな技やドラマが誕生している。


「よし、それじゃあ。小手調べとしてまずは『ナイツ・オブ・ザ・ガンツ』でもやりましょうか」

 髪をゴムで束ね、言い訳なしと言わんばかりに気合を入れる。

「……」

 コインを入れ、ゲーセンのカードを着ければ、そこは遊戯という名の戦場だ。余計な言語は必要ない。

 カナも宣戦布告するだけあって、もちろん、ゲーセンのカードを所持していて、画面のキャラの装飾を見れば鬼畜レベルで遊んでいる猛者ということが解る。


 選曲の『ナイツ・オブ・ザ・ガンツ』は早打ちの定番曲で、元が弾幕ゲームのボスポジションの音楽であり、譜面も変わる場合もあるから、上位ランクの登龍門として愛され続けている一曲だ。


 中学の時やりまくっていたから見れば全良はほぼ、見なくともフルコンボは可能だ。だから、クリア、もしくは可が出てもフルコンボなら、ヨシヨシするつもりだった。とはいえ、散々期待をぶっ壊してきた。何してくるか解からん。


 ゲームが始まった。この曲は最初にデカいドンが入ってくるからゾーンに入りやすい、かつ実力が出る。

 ドン!と打つ。一人でやっていたっけと思考は虚を突いた。無意識に譜面を打ち可も出さずに進行しできているものの、良の中でズレ、もしくは力も同じで叩いたのかそのくらい音がおかしかった。


 そのくらいはと意識を譜面に戻し、連打が出て来た。連続は人の個性がある。自分が叩けるだけでも七種類はある。ちなみにダブル、界隈では旧式ダブルとか言われているが、自分は最初にマスターした打ち方なのでそれを採用している。マニアックなことを解説すると無駄に書いてしまうのであとは各々が調べてくれ。


 かくして、カナは名称は知らないが、バチで巻くように連打している。流石に連打で律が揃う訳もなく、譜面は流れてゆく。


 音楽もサビに入り盛り上がってきたところで、彼女が遊び始めて可打ち妨害してきて笑いそうになったが、良を継続。彼女もこれで乱せないと思ったようで、素人の失敗不可を織り交ぜ始めた。それでも、良を出し続け自分は最高のドンダブコンを出して、カナはクリアと画面に映し出された。

「ああ~負けちゃった。強いね」と、あざとさ、わざとさを出して称賛する。

「まったく、比較対象にならないねえよ。遊びと真剣じゃ」

「ふふ、さすがにバレるか」

「カナのわがままを聞いたんだあと二曲は、選択させろ」

「了解」とふざけにも敬礼をした。


 フルで語ると面倒なので簡易的なものになるが、譜面を見ずに難易度をムズカシイにして『メカロのヒバシラ』選び、結果は引き下げたことによりリズムにずれが生じ、お互いクリアで収まり、三曲目は連打対決で『童謡、森の熊太郎』を叩いて試合終了。


 勝敗はと聞かれても、勝ち越したが、勝負になっていなかったと思う。


 その後、クレーンゲームなどお互い目もくれず、二人でやれるガンゲーやシュートゲーム、エアーホッケ、レースゲームをやって、渡された硬貨を使い果たした。

 

 どうやら、お金が全てだと言っていた女性たちに毒され、物事の価値を見誤っていたようだ。久しぶりに硬貨を使ってゲームをした影響もあるだろうが、何よりもほぼ同じレベルのカナと遊んだからか、硬貨以上の価値を感じ満足している自分がいる。


 お手洗いを済ませ、ベンチに座り休息を与えた。その一歩あとにカナも同様の事を済ませ、彼女も気分が良かったからか、休んでいる自分を見てイタズラを思いつき、自動販売機で炭酸飲料を買っていた。


 そんなことも露知らず、自分はまだ熱い脳を冷やすために瞑想モードに移行し、反仮眠状態になっていた。そこにイタズラの道具と化したペットボトルを刃物のように首筋を撫でて、何種類もの冷気を感じた。


「冷った!」

「アハハ、驚いた!」

 完全に自分の事を信用しきっていている様子で、ベンチを回って蹴りが飛んできても文句が言えない距離に着き、買ってきた炭酸飲料は見せ示す形で一口飲み、あざといまでに目線を流してきた。


「ん?そんなにこれ欲しいの?なら一口上げる」と、飲料のボトルを突き出して来た。通常の男性なら、間接キスだ、なんだ、かんだと心で騒めきつつも受け取って飲んでしまうことだろう。

 

 けど、残念ながら。

「あれ?ユガには刺激が強すぎた?」

「ああ、確かに刺激は強いな。初見だから仕方ないが自分、炭酸飲めないんだわ。なんなら、カフェイン系統も無理だ」

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