平和に潜む闇2
暫くスマホと向き合い、写真にうっとりしていると妙な視線。無言でスマホをパーカーのポケットにしまい、何もなかったように歩き出す。曲のボリュームを下げ、確認するようにチラッと振り向くと不自然に立ち止まるスーツ姿の男。「あぁ……」と心の声が漏れ、ヘッドフォンを外し周囲の音や話し声に耳を傾けた。クラクションや走行音、店のBGMや電気のごく僅かな点滅……と普通は気づかない音も聞こえる。あの男の独り言でも聴こえるか――と期待していたが上手くはいかず舌打ち。
「俺じゃない。一時間ぐらい着いてきてるのに。知らないし、誰あの人」
ガムをクチャクチャと音を発て下品に噛んでいると、前を歩く同じ電車から下車したモデル体型の美しい女性に視線が行く。大学生の彼。学科は違うが美術系の学科で有名になっている美人女子大学生。全く興味がなく話しかけたことすらないが、背後の男性から発せられる妙な気配は“とても嫌なもの”で――犯罪者としての勘が働く。
わざと間を抜けようと足を止め、男を先に行かせる。睨まれる鋭い視線で見つめられ、彼はそれが『警戒』しているモノだとすぐに分かった。多分、尾行している邪魔をして怒っていたのだろう。
「睨まれても困る」
ストーカーが居ることを知りながら知らぬふり。助けたとしても警察に話し掛けられることが何よりも嫌だった。
二人の姿が見えなくなったとき、彼はクルッと背を向ける。ヘッドフォンを耳に当て爆音で『kill you』と殺意満ちた曲を流す。
*
あれから、彼女の姿は見ていない。学校は“誘拐”だと騒ぐが『流石に違う」とは口に出来なかった。彼女のバラバラに切り刻まれた写真が投稿されたのは
講義中、知り合いの情報屋である『キラーグラマー』からの連絡で発覚。包丁と鋸でギザギザの切り口。評価に繋がる生々しい流血や血溜まりが変にモノクロ加工され綺麗とは言えず。いつもなら『ゾワッとする』『鉄の臭いがしそうですね』なんて、無名でも書かれるのだが『最悪な殺し方をした』と批判の声ばかり。
名無し@444
『evilさん、手本見せてよ』
彼の元に見知らぬ無名のキラーからの挑発のようなコメントが届く。それが“殺した本人”なのか。観覧して『刺激が足りないから殺ってくれ』なのかは分からない。社交的ではない彼は『その人のセンスなんじゃない』と冷たく返すが『いいね!』は押さず。動くことのない涙で潤んだ光のない女性の目を見つめた。
*
講義を終え、心理学の分厚い教科書をバタンッと乱暴に閉じる。
実は彼。人よりも感度が物凄く高く、人の思考や感情を読み取るのが癖であり、軽く見ただけで『どう思っている』のかすぐに分かるほど人の思考を読み取れる。そのせいか、心理学教授に気に入られ、講義では指名されることが多く目をかけられている。とはいえ社交的ではないため自分から話す機会は全くない。
「疲れた」
講堂を後にしようと立ち上がると「イーブル」と
「
ポソボソッと元気のない声で返すと「ネームで」と上から指示してくる。イーブルは「はぁ……」とため息をつき嫌々ながら口を開く。
「
「はい、良くできました。頭撫でてやろうか」
『
元々、風間は『evil≒live』という独特な名前でやっており、イーブルを誘ったことにより『二人で一人』という意味で名前の半分をイーブルに渡した。そのせいか、視界に入る場所には必ずリブがいる。もちろん、住む場所も二人で一つのマンションで――。
「イーブルは嫌か? なら、本名で読んでやる。
裏ではなく表の名前を聞いた途端、鳥肌と胸のムカつきに襲われた。
「気持ち悪い……」
リュックサックに教科書を詰め、ジィ……とチャックを閉める。軽く背負い、逃げるように体を廊下へ向けるが「なんだよ。嫌がったのはお前だろ?」と、逃がさんと腕を掴まれる。
「
シキはリブが嫌がることを知りながら、わざと本名を口にすると「ははっ、気持ち悪いな。やっぱりネームじゃないと……」とリブは苦笑い。グイッと腕を強く引っ張られ、抱き締められるよう密着したとき「さて、いつ殺すんだ? そろそろ計画練らないと待ってられないんだけど」と低い声で囁く。
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