放課後バレンタイン ~東高の愉快な日常

Tempp @ぷかぷか

第1話 バレンタインの2週間くらい前

 2月になると俺氏はちょっと憂鬱なのだ。

 鏡の前で立つ。そんなに悪くはないような。うむうむ。ちょっと変なポーズをしていると突然背後の扉が開いた。

 うおっ。

「兄ちゃん何やってんの?」

「わっちょっ、勝手に入ってくんな!」

「んなことより飯だっつの」

 妹氏は俺氏のたいして引き締まってないけど、だらしなくもないような気もする上半身には全然興味を持たずにパタンと扉を閉めて出ていった。

 とりあえず下は履いてて良かったと思う。

 さてと、馬鹿なことやってないでとりあえず学校行くか。


「おっす時康ときやすおはよー」

 俺氏は先を歩く栄光に彩られた時康を見つけて、駆け寄って声をかけたのだ。今日の朝日はやけに眩しい気がするけれど、それは近づく日に恐れおののく精神が見せた眩しさ的厳格ってやつで、多分いつもとかわりはない。

「悠平、おっすとおはよーが被ってる」

「まあ細かいのはいいじゃんか」

 時康は俺の幼馴染だ。保育園のときから一緒。もうひとりさかやんっていうのもいて、そっちは小学校から同じ。なんだかんだ、いつもつるんでいる。

 それにしても最近寒い。昨日の夜は雪降ったって言うし。

 ちらっと時康の首周りを見るとチェックのマフラー。クリスマスプレゼントに彼女にもらったらしい。なんかずーるーいー。俺も彼女ほーしーいー。ちぇっ。


 そんな俺にとって大事なイベントが迫っていた。

 時康は当選確実、坂やんはギリギリ判定、俺氏圏外な感じのイベント。

 バレンタインデー、まであと14日。

 目の前を木枯らしがぴゅーと吹く。それに合わせて時康のマフラーがパタパタ浮く。畜生、羨ましい。

 あーあ、彼女できないかな。そう思うのは毎年のことだけど。

 そんなわけで学校にたどり着き、1限の前のスキマ時間に俺氏の駆け込み彼女作成計画を時康と相談することにした。時康にそんな欲しいならチョコ買ってやるよとか言われたけど、いや、そういう問題じゃないし、彼女アリは彼女ナシの心境全然わかってないよね、チョコに透ける愛がほしいんだっつーのってことで丁重に断っていると、坂やんがやってきた。

「バレンタインの話? 俺、中根なかねさんからチョコもらえるかな?」

「もらえる可能性があるだけまだマシだっつーの」

 この間、坂やんは同じクラスの中根さんに告ったばっかり。結局うまくいったのかどうかはよくわからない。坂やん的に。

 なんでかっていうと。


「付き合ってください!」

「付き合いましょう!」

 という雄々しいやりとりがなかったからだとさ。いや、前半は実行したみたいなんだけどさ。

 俺と時康は頭を抱えた。

「いや、お前何言ってんの? 女子がそんな友★情★対★決みたいに血潮ほとばしらせたりするわけないじゃんか」

「え、そうなの?」

 彼女いたことのない俺氏にもわかるわそれは。

 そもそも坂やんが中根さんに告る場所は俺と時康がプロデュースしたんだよ。なんか色々聞いててこいつダメだと思ったからさ。そんで結果は結局、『よくわからない』だ。


 信じがたいことだが、坂やんの主観としてはまじでわからないらしい。

 時康の意見では、女子は告られたときにはっきりYESと返事するパターンはそもそも少なくて、ポッと赤くなったりちょっと頷いたりして、なんとなく付き合うことになることが多いんだとか。

 へー、そんなの俺知らないよ。彼女いたことも告ってうまくいったこともないからさ、畜生。

 時康はなんだかんだモテる。去年に運命の相手に巡り合って激烈プッシュの末に付き合いだしてからは彼女一筋らしいけど。

 でもまあ時康の言ってることはわかる。けど、坂やんはわからんらしい、結局その、ポッてなったかどうかが。

「『考えさせて』も『まずは友達から』もないなら成功したんじゃないか?」

「そういうもの、なのかな?」

 時康の考えはわからなくもないんだけど、まあ坂やんのいうことだからなぁ。正直本当に闇の中。

 そういうわけで、坂やんと中根さんの仲がどうなってるのかは中根さんしかわからない。俺ら外野が『付き合ってんの?』って聞きに行くわけにもいかんし。

「じゃあ僕、聞いてくる」

「待て」

「待てよ、馬鹿じゃないの? 告った直後に俺ら付き合ってんの? って聞くの?」

 どっちの結果にしても酷い未来予測しか浮かばない。


 そんなわけでバレンタイン。

 そこで坂やんの命運が分かれる、気がする。豪華なチョコが貰えればきっと付き合ってると言えるはず。

 でもこれ俺もさっき時康と話してたけどさ、こっちから出来ることって何もないよね。待ちの一手。ホワイトデーの方が早いなら先行投資できるかもだけどさ。女子ちょっとずるい気がする。

 そんなわけで少しばかりの緊張感とともに毎日は過ぎて行くのであった。

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