part2〜私の仕事〜
moon nightタレント寮 105号室
"紅月緋色"(あかつきひいろ)と書かれた表札のある扉の奥。
朝光の差し込むカーテンに晒され、今、むくりと起き上がった。
「んぅ......今.....何時?」
私はスマホを開き時刻を確認する。
「え?」
その時間を見て、私は放心した。
「12時45分?ヤバい!?ディレクターさん来ちゃう!?」
私は飛び起きて洗面所に向かい顔を洗い歯を磨きシャワーを浴びる。
そして元栓を開け、コンロを着火すると、ベーコン、卵を焼いてパンを用意、ティーポットでコーヒー作れば簡易朝食の完成だ。
洗顔やらスキンケアやら目周りのケアをしていると、インターホンが鳴った。
私は朝食を置き、恐る恐るインターホンに近づく。
「失礼します!今日からmoon night3期生のマネジメントをさせていただくことになりました、"刹那"です。今回はあいさつ兼顔合わせをと思い、訪れました」
「すいません......改めまして、紅月緋色(あかつきひいろ)です。よろしくお願いします。」
マネジメント兼ディレクターが来ると聞いていた私は鍵を開け、玄関に出る。
「すいません、お待たせして......」
「いえ、いきなりの訪問すいませんでした、改めまして、刹那です。これからよろしくお願いします。」
その場で見た感じ、イケメンだ......と見惚れてしまうほどの美男子だった。
青く澄んだ目を持ち、反射で輝く銀髪。さらにガタイのいい体格。身につけているジャンバーや服は黒が基調だ。
「ん?どうかされました?」
「い、いえ.......それより、私以外への挨拶は?」
「これから行くところです。それでは、また仕事場で」
「はい、あの......お節介かもしれないんですけど、103に住んでらっしゃるのが宮坂姫花さん、moon night3期生 桜坂姫さんの魂の方です。202が岩崎祈里さん、moon night3期生の祈里希の担当の方ですよ」
「っ......!?ちょうど知りたかったんですよ!ありがとうございます!」
「いえいえ、それでは」
そう言って私は扉を閉めた。
あれが新しいディレクターさん......なんか、こう、いい人そうだな......
と言うか、私のオッドアイ何も言わなかったな......そんな人は初めてだ
そんなことを思いながら、私はmoon night本社へと向かう準備を進めるのであった。
moon night本社 タレントオフィス
「お疲れ様で〜す」
「お疲れ〜緋色ちゃん!新しくディレクターさん来たよね!?超絶イケメンって聞いたんだけど!?」
「は、はぁ......」
この方は鹿島七海(かしまななみ)先輩。moon night2期生の七海海色(ななみみいろ)の中の人だ。見ての通り活発な性格であり、私達の頼れる姉貴分でもある。1〜3期生から、ナナミンやナナミ姉さんと言われ、慕われている人だ。
「緋色ちゃん?どうしたの、お姉さんの顔、何かついてる?」
「い、いえ......えーと、"刹那"さんでしたよね確か」
「そうそう、不思議な名前だよねー」
すると、オフィスのドアが開き、マネージャー組が入ってくる。噂をすればなんとやら、その中には昨日挨拶に来た刹那さんの姿もあった。
「みんなー、少し聞いて頂戴!」
オフィスに合わない大きめの声を上げつつ、手を叩いたのはこのmoon nightの社長兼代表取締役会長の百合香さんだ。
「今日から、新しくマネジメント兼ディレクターとして新たに仲間に加わってくれる、新メンバーを紹介するわ、彼の名前は宵月刹那(長月蒼)、これから裏方部門に加わってもらうわ!」
「改めまして、宵月刹那です。今日からmoon night3期生の裏方を担当します。どうぞよろしく」
「よろしくお願いします」
オフィス内でそんな軽い挨拶が終わった後、百合香さんから「3期生、ちょっと来て」と言われ、第2会議室に集められた。
「改めて、宵月刹那君だ」
「よろしくねー、う〜ん、刹那だから、セツくん!今日から君の呼び名はセツくんだ!」
「はぁ、よろしくお願いします」
会議室の会話は賑わい、3期生メンバーの会話が入り乱れる。
「改めて、よろしくセツくん、私の名前は岩崎祈里!祈里希の中の人だよ!」
今刹那さんに呼び名をつけたのは祈里さん。この中では最年長であり、年は20歳。活発な性格で、運動とPC作業、両方が可能なオールラウンダーだ。
すると、百合香さんが声を上げた。
「はいはい、祈里、そこまでだ。宵月が困惑してるぞ」
微笑みながらそう言った百合香さんは、あるプリントをその場で配った。
それを見た長月さんが「これは?」と、質問すると、「まあ読んでみろ」と言わんばかしに百合香さんは顎クイを決めた。
私もそのやりとりを見てそのプリントに目を通す。
moon night3期生企業案件提案書
旅行会社 クレバートラベル様より
今回の企画は、Vtuberとして雑談をしながらホテルの様子やサービスについて詳しく説明、レビューする企画になっている。
3期生は二人ずつに分かれてそれぞれ温泉パート、旅館パートに分かれて撮影、レビューを行う。
撮影時間2〜4時間
作業及びディレクション予定時間10〜12時間
公開日3日後
私が読み終え顔を上げると、既にみなさんは資料を机に置いて、思考を巡らせているようだ。
「なるほど、つまり"企業案件"ですか......」
思考を巡らせている間。その静寂を切り捨てたのは、宵月さんだった。
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