君色

無名乃(活動停止)

  



「笑う君。悲しむ君。驚く君に怖がる君。どんな君も好きだから、それを誰かに奪われるなら奪われる前に君を殺して君色に染まりたい」



 真っ暗な部屋。

 此処はボクのアトリエ。


 数え切れない。

 お気に入りのを飾る場所。


 ある時は画家。

 ある時は球体関節人形の作成。

 またある時は――。


 ボクは飽き性なのか多趣味だった。

 いや、愛情深くて依存体質かもしれない。


 薄汚れた床に転がるヒトガタ。

 温もりが微かに残る好きな子恋人の死体。

 それと、血に染まったデザインナイフ。


「君が悪い。しっかり君のこと見てるのに……他の人と付き合うなんて言うから。あっ……ボクとしたことが……我慢できなくて


 ボクは軽く驚くも至って冷静。

 殺しすぎてが正解だろうか。


 君の恐怖と痛みに歪む表情。


 生の時にはない。

 死を与えて見える君の新たな魅力。


 だめだ。

 ニヤけ、惚れてしまう。


「まぁ、殺しても君はボクの好きな君だし。あ、でも……此方のほうが好みかな。痛がる姿も嫌がる姿も……可愛かったし。これで君は誰にも奪われない。ボクのモノ」


 亡き君を抱き締め、腹部にある傷口に指先を入れる。血で滑り、臓器や肉に包まれ気持ちいい感触に「ハァ」と色気ある吐息を漏らす。血を掬い取るよう拳を握り、手を取り出すと自分の頬と唇に塗りたくる。


 ――暖かい。

 ――【血】という君の香りがする。


「あぁ、最高。君の血でリップ&チーク。ブラシ使えばアイライン。僕は惹かれやすいのかな? 君同様、好きすぎて何人も殺してきたけど血は実に優秀だよ。殺せば殺すほど刺激されて【どんな形で残そうか】【染まろうか】インスピレーションが湧くんだよねぇ」


 ボクは真っ赤な手をコートのポケットに突っ込み、空のリップグロスボトルを取り出す。ボトルを傷口に押し当て滴る血を容器の中へと流し込む。八分目まで入った時、蓋を閉め――窓から差し込む月明かりで【ソレ】を照らす。

 暗闇で黒にしか見えない血。しかし、月明かりは【それ】をルビーの宝石の様に美しく輝かせる。


「これでボクはいつまでもに染まれる」


 君に伝わらなかったボクの愛――。

 この【想い】は君に伝わっただろうか。


 彼女の血でおめかしをしながら、ボクは血に汚れた君に手を伸ばす。


「折角が手に入ったんだ。綺麗にお化粧して服を着させて。それから、遊んで。丁寧に飾らないと――君はボクのコレクションだから」


 燃やす、埋めるなんて勿体ない。


 この日のために君が好むモノを集めた。

 メイクに服にアクセサリーに小物まで……。

 

「どんな服が好きだったっけ。あ、これとかどうかな? んー君ってどんなメイクしてたっけ……ナチュナルでピンク系の甘めかな? アハハッ男だから詳しくないし、鈍感なのは許して。でも、君のメイクから可愛くする自信あるよ。だから、ボクに委ねてくれるかな?」


 だって、ボクは狂いたくなるほど――。

 いや、君を殺すほど好きだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君色 無名乃(活動停止) @yagen-h

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ