第1話 新しい人生スタート

俺は獣人村の村長、名前は竜馬だ。この村の中では一番強いし信頼もされていると思う。だから、村の子供がさらわれたと聞いてすぐに助けようと調査をした。村の警備員と一緒に痕跡探しをしたり、情報収集の為に人里に行ったり、毎日村の警戒に全力で当たっていた。


〈村の子供がさらわれてからおよそ1ヶ月〉

村を出て人里の出ていたときのことだった。人間の会話から情報を得た。


「なぁ、あの新しく来た獣人の子、戦闘力高くないか?俺はあんなちっさい女の子に模擬戦で負けて心が折れそうなんだけど」


「あぁ、あの子には多分だが騎士団長くらいしか勝てないと思うけど?僕だってぼろ負けして心が折れそうだよ」


新しく来た獣人の子?あの子は確かスピード特化の子だったはずだ。人間が正直言ってものすごく弱いから人間からしたら強いかもしれない。あの鎧は…王宮の第一王子の騎士団だ。流石にあの騎士団に単独で叶うはずがない。だから、仲間を呼びに戻った。


実際村に着くと、静まり返っていた。その時俺は全てを悟った。1ヶ月も俺らを襲わなかったのは油断させる為、俺のいない時間を確認する為、自分達の準備を整える為だったのだ。そこに村の子供が一人隠れてないているのに気づいた。その子に事情を聴くと……


いつものように昼食を食べていたらいきなり空から降ってきて声を張り上げた人間がいたという。そいつは男で頭が終わっていた、と7歳の子供に言わせるくらいには終わっていたことを本当に言っていた。


「あ、哀れな獣人達よ。ぼ、僕の命令に従いなんでもするなら…こ、子供だけは助けてやる。だ、だが僕の命令にそ、背くのならこ、こいつの首が跳ねるぞ!」


なんて言ったらその男を返り討ちにしようとするのは無理もないことだ。別にこの村で不自由していたわけではないだろうし、居心地が悪かったわけでもないと思う。獣人にそんなこと言えば返り討ちにあう事は目に見えている。


いつもなら命知らずな奴め、と思っていただろう。だが今は違う。流石にこの状況を見ればそんな事思わない。


こうなったのは俺のせいだ。俺が村を離れすぎたからだ。いくらなんでも村を無防備にしすぎた。


これが俺の村での最後だ。


いきなり気絶させられたのだ。何が起こったのかわからないまま……




〈5時間後〉

俺は目を冷ますとコンクリートと柵で出来た檻にいた。いわゆる牢というやつだ。罪人ではないがな。牢の中には他の村の人もいた。混乱しながら考えたことは、人間の国で流行っているヒロイン物語みたいな絶対にありえない展開を想像していた。


村で平凡な日常を送っていた。でも人間に襲われて捕まり、奴隷にされた。そこに女神が現れて……


(よくわからん!)

それから数日が経ち、牢生活が厳しくなってきた頃よく考えていることは…


村で平凡な日常を送っていた。でも人間に襲われて捕まり、奴隷にされた。奴隷生活は厳しかった。食事も睡眠もろくに与えられず過労死しそうな毎日だった。だがそんな日常には終わりがやってくる。女神が現れて救いの手が……


ヒロインっぽいが増えてだけで変わっていない。というか、より一層増している。ヒロイン物語さが…もう自分が物語の主人公になった気分だ。それも残酷な物語?


残酷過ぎて俺の心はポッキリと折れている。


実際の心が折れているかはおいておいて、先に来ていた村の人達よりも重症だ。顔色は悪く、窶れて、とても元村長と言える格好ではない。側から見たらただのおっさんにしか見えないと思う。


数ヶ月すれば怪我や病気で死んでいく奴らが沢山いた。こんなところで4ヶ月も生きた俺はすごいって思う。こんな残酷な奴隷生活をしていれば、過労と飢えで死ぬことだってあるよ!


村で生活していたときは、自分が奴隷にされて過労と飢えで死ぬなんて思ってもみなかった。ましてやこんなに命が短いとも思わなかった。そんなこんなで俺の獣人生活は終わった。


そして今、結構狭い部屋にいる。その部屋には丸型テーブルと椅子、茶器が置いてあって壁、床、天井は純白。そして、奥に扉?があるシンプルな部屋だ。しばらくすると5、6歳と思われる少女が現れた。少女は俺に席を進め、紅茶を入れてくれた。その紅茶は美味しかった。


「わたくしは女神。わたくしを女神と信じるか信じないかはあなたの自由です。あなたの死因があんまりだったので魂のみここに呼び出しています。貴方には異世界に転生して新たな人生を歩んでいただきます」


女神って本当に居たんだ。俺は信じよう、正直あんまり信じていなかったけど。呼び出したって言ったよね?他のみんなはどこに行ったんだろう?みんなも転生したのかな?


あれ?魂のみって言ったよね?魂召喚って有名な神話に出てくるような神様にしか出来ないんじゃなかったっけ?まあ、この人がすごい人だということはわかったからよしとしよう。


「貴方には魔法の適性があります。なのでグラート領の長男として領地を栄えさせてください。いまのグラート領のままだと民が食糧不足で飢えます。グラート領は領主の家で、爵位は男爵だったと思います」


 そんな領地に行って何をしろって言うんだ。でも、領民をそのままにしておくことはできない。


「協力してくれますか?協力してくれるならステータスは最強にしますけど?ここで話したことは記憶に残りません。協力するか否か決まったら教えてくださいね」


(転生すればそう簡単にわたくしと話す事は出来なくなります。そして、わたくしが後から能力を付け足す事はできません。これは神として定められた制限なのです。一部例外はありますが)


この女神に協力したらスキルを強力にして貰える。だけど領地を発展させなければならない。このまま死ぬっていうのもアリかもしれないが、獣人としての人生を振り返ると後悔まみれだ。だからこの選択肢は消えたも同然。もし、俺の知識や技術を使って少しでも人が助かるのならこの依頼受けてもいいだろう。できる限りの事をしていくつもりだ。


「女神様の依頼、俺受けるよ」


(依頼と言ってはいないのですが、まあいいでしょう)


「ご協力に感謝いたします。ではそのように手配いたしましょう。1つ付け足しがございます。基本的にここでの記憶は無くなりますが、貴方は面白そうなので特別に記憶を残しておきますね。この手紙を持って転生してください。この手紙は後ほど見られますので、では新しい人生も楽しんでくださいね」


そう言って女神は扉だったらしいに案内してくれた。


「ではまたいつかお会いできる事を心待ちにしております」


よし、新しい人生は全力で生きよう。そう思いながら扉を潜ろうとしたその時、俺は引き止められた。


「1つ言い忘れた事があります。貴方の魔力量は多いのでなるべく早く魔力制御を習得したほうがいいですよ。魔力が強すぎて、12〜16歳くらいの間で起こる魔力増幅期間に差し掛かれば魔道具が触った瞬間粉になりますよ。魔力制御のアクセサリーを作ったほうがいいですよなるべく早く」


転生しても娯楽ばかりではないか、大変そ〜だな〜


「他人事のような態度ですが、自分のことですからね。全て貴方がやるんですよ、魔力回路もですよ」


回路もですか。俺、この世界で生きていけるのかな?生きていけなそうだな。


「あ、それと貴方の村人ですが、貴方の他に2人転生していますよ。どこに生まれ変わったかは知りませんけど……同い年でしたね。その手紙の中に詳細は書かれていますが、情報収集お願いしますね〜それでは今度こそ行ってらっしゃいませ」


そして、今度こそ俺は扉を潜った。

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