俺が幽霊を見せてもらった話

丁山 因

俺が幽霊を見せてもらった話

 中学の時、クラスにちょっと変わった姉弟がいた。

 姉のA子が4月、弟のB男が3月生まれのいわゆる年子で、2人ともクラスでは少し浮いた存在だった。

 痩せぎすで突き出た頬が特徴的な姉とは対照的に、柔道部にでもいそうながっちり体型の弟。

 2人とも大人しい性格で口数は多くない。


 そんなA子から話しかけられたのは中2の秋だった。

「ねえ、幽霊見たくない?」

 突然の声かけに驚いたが、話には興味がそそられた。

 俺は昔からオカルト好きで、夏にはクラスの連中とよく怪談話で盛り上がっていた。

 猿夢とか八尺様とか、オカ板で見つけた話をよく披露してたから、クラスではちょっとした怪談通ってポジションだった。

 A子が俺に声をかけたのはそれが理由だったらしい。

 幽霊を見つけて誰かに話したいけど、まともに聞いてくれそうなのは俺ぐらいしかいなさそうだったと。


「幽霊ってどこにいんだよ?」

「学校終わったらB男と案内するからついてきて」


 放課後、俺は親友のNを誘って姉弟と一緒に幽霊ツアーに出かけた。

 着いたのは峠道の入口近くに建つボウリング場の廃墟。

 もう10年以上も前に廃業したボウリング場で、1階が駐車場、2階がボウリング場といった造りだ。

 建物の老朽化はかなり進んでいて、相当寂れている。

 窓ガラスはほとんど破られ、壁面はスプレーの落書きで埋め尽くされている。

 地元の暴走族がたまり場に使っているようなところだから、学校でも近づかないよう厳重に注意されている場所だ。

「こんなとこ、勝手に入って大丈夫なのかよ?」

 俺は少しだけ不安になって、A子に聞いた。

「大丈夫、この時間は誰もいない。B男と何度も来てるけど、誰かに会ったことは一度もないから」

 そう言うとA子はどんどんと敷地の中に入っていく。

 俺たちも黙って後を付いていった。


「ここだよ」

 1階駐車場の奥にある内壁の前に立ってA子は言った。

 経年劣化のせいでだいぶ朽ちてはいるが、どう見ても普通のコンクリート壁だ。

「じゃあB男、そこに立って」

 と、A子は弟に立ち位置を指示すると、鞄から懐中電灯を取り出した。

 駐車場は開放式で、周囲から外光が入ってくるけど当然ながら照明はない。

 薄暗くはあるが、移動は特に差し支えない程度の明るさだ。

 それでも傾きかけた夕日のせいで、徐々に暗さが増している。


「じゃあいい? 幽霊出すよ」

 A子はそう言うと懐中電灯をつけ、B男に向けた。

「あっっ!!」

 俺とNは思わず声を上げた。

 コンクリート壁に映ったB男の影、ちょうど頭の位置に女の顔が映っている。

 色は白黒だが、うつろな目つきのやつれた表情がはっきりとわかる。

「スゴいでしょ。B男、ちょっと頭振ってみて」

 A子に指示されたB男は首を左右に振る。

 すると驚いたことに、壁に映った女の顔もB男の動きに合わせて首を振っている。

 当時は知らなかったが、今思うとモニターに映ったアバターのような動きだった。


 俺は完全にパニック状態だが、Nが耳元でささやいた。

「おい、これ、ヤベぇんじゃねえか…」

 Nの声に少し正気を取り戻した俺は、改めて姉弟と壁に映る女を見た。

「ス、スゲェな、幽霊初めて見たわ」

 だいぶうわずった声だったろうけど、俺は冷静な風を装って言葉を続けた。

「ま、でも俺らそろそろ帰んないと、他に行くとこあるし」

「なに、ビビってんの? コイツここから動かないから怖くないよ」

 そんなA子の言葉を尻目に、俺とNはそそくさとその場を離れた。


 その後は特に何もない。

 俺もNも姉弟とは距離を取ってそのまま卒業した。

 姉弟の消息は知らないし調べる気もない。

 ボウリング場は数年前に解体され、今ではただの空き地になっている。

 あの女は今でもそこにいるのだろうか?


 壁に映った顔はたしかに衝撃だったが、俺がいちばん恐ろしかったのはA子だ。

 あの時、嗤いながら弟を懐中電灯で照らすA子の顔は口が耳まで裂け、目が3倍ぐらいの大きさに見えた。

 何かに取り憑かれてたのか、俺の心理状態がそんな幻覚を見せたのかはわからないが、今でもあの顔を夢に見る。


 幽霊を見せてもらった話はこれで終わり。

 正直言うと俺とNの見たモノが幽霊だったのか、本当のところはわからない。

 が、人智を越えたナニカであったことは間違いない。

 それだけは確信している。

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俺が幽霊を見せてもらった話 丁山 因 @hiyamachinamu

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