姫を守るKnight Ⅰ

 ルチェルトラを無力化したまま、僕は加速する。さっきの攻防の前に、ルチェルトラが何処から降ってきたのかは大体把握している。その方向にエレオノーラはいないかもしれないし、いるかもしれない。ただ、今の僕に合理的判断なんてものは存在しない。あるのは、エレオノーラを助けると言う目的だけだ。


 窓を叩き割って中に侵入すると、エレオノーラに手を伸ばす男の下衆な顔が見えた。加速を五十倍まで引き上げた僕は、エレオノーラを守るように抱き締めて、男の腕を刀で切断する。


「エレオノーラに触れるな」

「ぎぃやっ!?」


 エレオノーラの無事を確かめるために加速を解除して、腕の中にいる彼女の瞳を覗き込む。


「大丈夫かい?」

「れ、ん?」

「あぁ……神代蓮だよ。なんとか助けに来た」


 助けに来るためだけに青の騎士団まで抜ける羽目になってしまったが、相方であるエレオノーラを助ける為なら仕方ないと割り切っている。椿には悪いことをしてしまったが、それでも僕はエレオノーラを見捨てられなかっただけということだ。


「こ、こいつ!?」

「青の騎士団は手を引いたはずじゃ!?」

「ちょっと待ってて。数秒で片付けるから」


 加速すれば、この程度の雑魚に時間をかける必要もない。男たちは一斉に武器を構えるが、誰一人として加速した僕を視認できるような奴はいなかった。

 恐らく、体感的には全員がほぼ同時に攻撃されたように思っているだろう相手を無視して、僕はエレオノーラを抱きかかえる。


「な、なに?」

「ここは敵にど真ん中だからね。なんとか逃げ切るよ!」


 僕はホルダーの中で最速だ。そこには自信がある。だからと言って、僕は自分のことを無敵の存在だと過信している訳ではない。銃弾が急所に当たれば死ぬし、刃を刺されれば血は流れる。走れば息切れもするし、一人で百人を真正面から倒せるとは思っていない。だから、エレオノーラを助け出せたらまずは逃走する。最初から決めていたことだ。


「きゃあっ!?」

「少し我慢しててくれ!」


 エレオノーラを腕に抱いたまま、三十倍まで加速する。いくつもの倉庫を荒らしたことで、倉庫を警備していたビアンコとレボリューショニストの下っ端たちは大騒ぎになっている。

 外で飛び回っていた蜂も、倉庫を破壊している最中に襲い掛かって来てしつこかったので半数ぐらいは殺した。だから、今から僕はエレオノーラをしっかりと抱きしめて逃げるだけだ。


「か、加速してるの!?」

「え? な、なんでエレオノーラが……後!」


 時間を加速していると言っても、自分の時間を加速しているだけなので、他の人間からは僕が早くなっていることすら認識できないはずなのに、僕の腕の中にいるエレオノーラは、僕の加速を認識ていた。

 何故、僕の加速を認識しているのかに疑問はあるが、考えるのは後にしよう。兎に角、この危険地帯から脱出しなくては。

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