ワイドショーとスポーツ紙

はんにんげん

登校中に

「君、神山中学の生徒? 制服と校章がそうだよね? 日読新聞の者だけど、今回の事件、どう思う?」

「何の話ですか?」

 日読新聞という腕章を付けた新聞記者らしき人物に話しかけられた女子生徒には、意味が分からなかった。

「自殺だよ、自殺。2年2組の杉町亮君の自殺。同じクラスの田山広也、大木健司、尾瀬彩佳って子にいじめられて、それを苦に自殺したんだ。遺書まで残してる。ほら」

 そう言って、記者は遺書のコピーを見せた。

「自殺、ですか?……この遺書、どこで手に入れたんですか? 本当に杉町君が自殺したんですか?」

「君、杉町君のこと知ってるの? どんな子だった?」

「いや、あの、普通、でした。あ、絵はうまかったみたいです。そんなに仲良かったわけじゃないから。クラスでもどちらかというと一人で」

「え? 君、杉町君と同じクラス?」

「いや、あの、友人の友人からそんなことを聞い」

 新聞記者は期待外れといわんばかりの顔をすると、話しを最後まで聞かずにどこかへ行ってしまった。


「ねぇ、杉町君が自殺したって本当? さっき新聞記者みたいな人が話しかけてきた」

「あれ見て」

 クラスメイトの指さす方を見ると、中学の校門周辺にカメラやマイクを持った人たちが大勢詰めかけ、アンテナのようなものを付けた見たこともない車が何台も停まっていた。

「杉町、このクラスのやつにいじめられたって名指しで遺書書いて死んだらしいぞ」

「さっき日読新聞だっけ、の新聞記者みたいな人に見せてもらった。あ、あたしの名前が入ってた……あと、田山君と、大木君……」 

 クラスにいた全員が驚きの顔で尾瀬を見た。

「なんで尾瀬が……あ、先生まだ来てないみたいだし、テレビつけよう!」

 気まずい雰囲気をどうにかしようと、クラスにいた一人がそう言ってテレビを付けた。どのテレビも杉町の自殺を報道していた。

「自殺した中学2年の男の子ってどんな子だった?」

「同じクラスだったんですけど、いっつもクラスの中心にいて、クラスを引っ張る感じの人でした。優しくて、頭も良くて、みんなに好かれてる感じ。部活はやってなかったけど、いろいろな部活から入れって誘われてたみたいです」

 顔は映っていなかったが、杉町と同じクラスの生徒と名乗る女子生徒がインタビューに答えていた。

「……誰、あの子?」

「あの制服、この中学のと微妙に違くない?」

「映ってる手の感じとか遠山に似てる気がしたけど、遠山!」

「あたしがあんな見え透いた嘘つくわけないでしょ! 杉町のやつ、あたしの名前覚えずにいっつもデブ子って呼んでたのよ!」

「だよな……」

 8時半になり、先生が取り乱した様子で入ってきた。

「先生、どうなってんですか?」

「私にもよく分からないが、かなりまずいことになってるらしい」

「杉町君、本当に自殺したの?」

「さっきテレビに杉町のお父さんが出てきて、息子の自殺は学校でひどいいじめに遭ったからだ、学校に殺されたみたいもんだって、泣きながら話してた」

「じゃぁ、本当に自殺したんだ……」

「先生、職員室でテレビ見てた? さっきこのクラスだって子がインタビューに答えてたけど、あれ誰?」

「もうこれ以上話すな。マスコミはあの手この手で情報を集めようとする。下手したらこの教室も盗聴されてるかもしれん。とにかく私たちはいつも通りの学校生活を送るしかない。マスコミには何も答えちゃいかん。何書かれるか分からん」

 生徒たちの頭のなかで、「かなりまずいことになった」という担任の言葉が、徐々に大きく鳴り響きはじめた。

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