第31話 1回戦
「くくっ……女連れと優男とか、ちょろい相手だな」
「降参するうちなら、今のうちだぜ?」
わあああああああっ!
武術大会初日、俺たちはコロッセオに設けられた闘技場で1回戦の対戦相手と対峙していた。
「しかも獣人とエルフを前衛たぁ……スカートの影で守ってもらうつもりかボウヤ?」
「ガキはともかく、あっちのエルフは悪くねェ……オレっちもスカートの中に入りたぁい!」
「「「「ギャハハハハ」」」」
爆笑する4人組。
世界初のAランクパーティと聞いていたが、ただのチンピラにしか見えない。
彼らが身に着けている棘のついた鎧が、さらに世紀末感を増していた。
「おかしいですね。
確かにブレイカーズの皆様は最近精彩を欠いていたようですが……。
弱きを助け、悪には暴力を……少々暴走気味のところはあったようですが、あのように下品な方たちでなかったはずです」
「くんくん……なんか臭う」
獣人族特有の鼻の良さを持つアルが、連中から漂ってくる匂いに顔をしかめている。
「ん?」
シュウウウ……
爆笑しているリーダーらしき戦士の口から垂れたヨダレが、地面に落ちて僅かな煙を上げる。
「能力強化系のクスリ、か?」
しかも相当強いヤツらしい。
装備するとステータスは大きく上昇するが、呪われたり防御力が0になったりする訳あり系のアレだ。
連中の肌はカサカサで、目は金魚のようにぎょろついている。
どう見ても後遺症が出そうな強化薬だ。
「ここまでするか……」
戦術リンク:ハイパースキャンでクスリの効果を確認した俺は、うんざりとため息をつく。
効果は攻撃力+50、賢さと魔力が-20。
モンクエ基準では絶大な効果だが、大きくレベルアップしたアルとフェリシアにとって、たいした問題ではないだろう。
それより、テンガさんが何か仕掛けてくるかもしれない。
俺は客席に視線を移す。
「エルフの女は綺麗だが、胸がねえなぁ! あれじゃ挟めねぇぜ!」
「なんかあの女エルフ、妙に清楚じゃね? ああ、ヤリてぇ!!」
「ブレイカーズに3,000センド! 負けたパーティの女を好きにしていいって噂は本当かね?」
「ゲハハハハ! さすがにねェだろ! お前の頭ン中はサキュバスかよ!」
……妙に客席のガラが悪い。
午前中に行われた開会式。
うんざりするほど長いテンガさんの自慢話を聞かされたのだが、その時の客席は一般市民ばかりだった。
恐らくだが、客層を入れ替えることで妨害工作をしやすくしたのだろう。
「な、なんて下品な……」
容赦なく浴びせかけられるゲスな言葉に、青ざめるフェリシア。
モンスターに捕まっていた時の事を想いだしたのかもしれない。
すっ
俺はマリ姉から貰っていた特製の耳当てをフェリシアに付けてやる。
「……あら? 客席の声が?」
「指向性のノイズキャンセラーだ。
対戦相手と仲間の声しか聞こえなくなる」
リモート会議用のスピーカーなどについている機能である。
それを再現するとか、マリ姉恐るべし。
「ありがとうございますっ!」
ようやくフェリシアに笑顔が戻る。
だが、観客のターゲットはもう一人の少女へと移る。
「ぐへへ……ワイはあの犬耳女の方がいいな」
「げえっ!? お前ロリコンかよ! 確かにかわいい顔してるけどよ」
「ごぶっ……ああいう少女の膜をぶち抜くのがいいごぶっ」
「ああ、ワイのミルクで……」
「うえぇ」
「…………」
うんざりとして顔をしかめるアルの犬耳にも、ノイズキャンセラー付きイヤホンをかぶせてやる。
「心を読むなよ? 病気になるぞ」
(こくこく)
「いまのクソ野郎の顔は覚えた。
絶対ぶちのめしてやる……!」
妄想とはいえ俺のアルを汚すなんて……万死に値する。
「にひっ♪
ねえジュンヤ、やっちゃっていい?」
「ああ、存分にやれ!」
この程度の連中に凹まされるほどヤワな教育はしていない。
俺はアルにサムズアップを送る。
にやり、と笑みを浮かべたアルは客席を見上げ、ぺっと地面に唾を吐く。
「百年はやいんだよ、ちょん切るぞこのクソXXXX(ピー)」
FxxKサインと共に、かっこよく決めるのだった。
ウオオオオオオオオッ!?
愛らしく、可憐な少女のまさかの行動に湧き上がる観客席。
「ギャハハハッ、お前フラれてやんの!!」
「ごぶごぶっ!?」
「よくやったぞ、アル」
「えへへ」
やり切ったドヤ顔のアルを優しく撫でてやる。
「……さて、やるか!」
「らじゃー」
「はいっ」
カーン!
そうして、1回戦の開始を告げるゴングが鳴った。
*** ***
「遅いね」
敵戦士の大ぶりな剣を躱し、相手の懐に飛び込んだアル。
「はい、これで終わり」
ぶんっ
すらりとしたアルの右脚が振り上げられ、ローファーの足裏が戦士の顎を捕らえる。
メキッ
「ぐはあああああああっ!?」
鼻血をまき散らしながら吹き飛ぶ戦士。
ヤツのかぶっていた兜が吹き飛び、こちらに飛んできた。
(ナイスだ、アル!)
アルとのアイコンタクトはバッチリだ。
俺はロングソードの柄で兜を観客席の方に弾き飛ばす。
兜は放物線を描き、ロリコン豚野郎の顔面に直撃する。
ガンッ!
「ぐべえっ!?」
もんどりうって吹き飛ぶ豚野郎。
「ジュンヤ、ないす!」
笑顔で手を振るアルにサムズアップを返す。
「しょ、勝者……ハジ・マリーノ村ジュンヤ!!」
オオオオオオオッ!?
客席がどよめきに包まれる。
それはそうだろう、戦っていたのはアルだけなのだ。
「あのガキんちょ、強えぇぞ!?」
「お、俺の3,000センドがぁぁああ!」
「ふざけんな優男!」
観客席から罵声が浴びせかけられるがどうでもいい。
「よく頑張ったな、アル」
「かっこよかったですよ」
「えへへ」
アルは魔法もトンファーも使わず、格闘戦だけで勝った。
さすがに汗だくなので、マリ姉謹製のファイバータオルで汗を拭いてやる。
「ふにゅっ、くすぐったい」
嬉しそうに顔を擦り付けてくるアル。
「イチャついてんじゃねぇぞ! はやく引っ込め!!」
観客席の嫉妬が心地よい。
こうして俺たちは無難に1回戦を突破したのであった。
*** ***
「ふん、妨害してやろうと思ったが……まさか何もしないとはなぁ! モブよ」
コロッセオの貴賓室で高級ワインを傾けながら試合を観戦していたテンガは、面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「無様に這いつくばる姿を観客に見せたかったな」
観客席にチンピラの中にスリングショットを持った刺客を紛れ込ませていたのだが。
まさかあの犬ガキだけに戦わせ、自分で何もしないとは思わなかった。
「フェリシアまで拾って……オレ様から寝取ったつもりか?」
コブリン共に散々犯されたであろう中古女を拾うとは、負け犬にふさわしい趣味である。
「しかしあの犬ガキ、なかなかの使い手だったな」
全盛期を過ぎていたとはいえドーピングしたブレイカーズをひとりで倒したのだ。
「アイツが”救世主”と呼ばれているのも、あの犬ガキのお陰だろう」
ガキのスカートの影でこそこそと……相変わらず情けない奴だ。
「だがどうするか」
今後もあの犬ガキに戦わせるんだとしたら、面白くない。
かといって、いたいけな少女を直接妨害しては世間の印象も悪かろう。
「くくっ、そうだな……」
いい事を思いついたとばかりに、テンガの顔が醜くゆがむ。
あいつは獣人族……アレが使えるかもしれない。
種ドーピング時に紹介された闇商人。
あいつが持ってきたカタログに、面白いものがあったはずだ。
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