第26話(上司サイド)権力を手にしたオレ様、武術大会を開く

「魔王ログラースが世界を脅かす今、我がオージ王国が中心となって……!」


 義理の父親になったオージ王が、各国の要人を前に演説をぶっている。


(まったく、ジジイの話はどうしてこう長いんだ)


 王の隣、一番の上座に座るテンガは表情だけは殊勝にしているが、内心うんざりとしていた。


(それに、「我がオージ王国が中心となって」だと?)

(早くも”戦後”を考えていやがるな)


 まったく欲深いジジイである。

 まだ魔王が倒せると決まったわけではないのに。

 オレ様が提案したとはいえ義理の娘をモンスターのエサにするような人間である。


(まあオレ様には関係ないがな)


 さっさと魔王と倒し、元の世界に戻る。

 その前に、カミラ嬢だけは抱いておく。


 権力を手に入れたテンガは、以前のようにRTAに拘らなくなっていた。


(勇者さえ生ませてしまえば)


 ノルド山脈の最奥、魔王城に続く道が開ける。

 種ドーピングをしたオレ様と、エビルトード。

 もうすぐ手に入れる予定のトードナイト。

 それに10体揃えたイヤシブロブを使えばごり押しでクリアする事は可能だ。


 城を守護する四天王も倒す必要があるが、他国の戦力を使えば何とかなるだろう。


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 ブジン テンガ

 LV16 ヒューマン

 HP :190/190

 MP :73/73


 攻撃力 :161

 防御力 :73

 素早さ :22

 魔力  :51

 運の良さ:145

 E:マジックレイピア(攻撃力+20、魔力+5)

 E:チェインメイル(防御力+15)

 魔法:ヒール、ミナヒール、ホノオ、イカヅチ、イナヅマ、コオリ、ライトフォグ

 EX:5,238

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 ステータスを開いてご満悦のテンガ。


『王族になって、強化アイテムを大量に使うとは考えたわね』


「ふん、オレ様は他の奴とは頭の出来が違うのだ」


 どうも俺を見くびっていたらしいエリスもこの成果に脱帽だ。

 種ドーピングはHPと攻撃力、運の良さを中心に行った。

 しばらく後に、種の第2弾が到着する予定だ。


 これで魔王城までの必須イベントは

 ・結婚イベント

 ・裏四天王を倒し最強武器入手

 のたったふたつ。


 モンスター共の性処理人形になったであろうフェリシアがRTAチャートの邪魔をしなければ後者のイベントは不要だったのだが、もはや気にすることは無い。


 元の世界への帰還がしばらく遅れてしまうが、その分権力を使って楽しませてもらおう。


「…………それでは最後に、この素晴らしき武術大会を企画した、

 我が最愛の第一王子、テンガから一言皆様に申し上げます」


 ハゲタヌキオヤジに最愛の息子などと言われては虫唾が走る。

 まあいい、今回の武術大会はカミラ嬢との出会いの場であり、結婚イベントに繋がる布石なのだ。


 テンガは貴賓席に座るカミラに微笑みかけると、歯が浮きそうな美辞麗句を適当にまくしたてるのだった。



 ***  ***


「”武術大会の開催について”

 ”この大会の目的は魔王に対抗するための人材を探し出すことで”

 ”各村は最低限1組以上エントリーさせること”」


「”パーティは4名以内、広域攻撃魔法の使用を制限するほかにスキルの制限なし”

 ”ただし、武具には保護具装着の事、相手を殺してしまうと失格とする”」


「な~に、これ?」


 羊皮紙に書かれた【オージ王国主催 大武術大会応募要項】を読んで、マリ姉が眉をひそめている。


「……緊急村長会議とやらでの通達事項だよ」


 疲れた表情で外套を脱ぐヒューバートさん。


「ヒュー、お疲れ」


「ありがとう、アル」


 ヒューバートさんにコーヒーを出すアル。


「……ヒロインポイント1ゲット!」


 なんの遊びだろうか?

 とても微笑ましい。


「武術大会ですか」


 先を越された……なぜか悔しそうなフェリシアがお盆を抱きながら首をかしげる。


 可及的速やかに、王都に集合せよ。

 数日前、早馬により各村長あてに通達が届いた。


 もしかして、フェリシアをかくまったのがバレたのか?

 一瞬そう思いかけたものの、後始末はしたとはいえ、デモンズホールにフェリシアの姿はなく、地面には焼け焦げた跡。


 フェリシアが村に来てから1か月余り……本気で王国側が探すつもりならとっくにお触れが出ていたはずだ。


 ヒューバートさんを転移魔法で王都に送り届けた後、テンガさんに見つからないように村に戻っていたが……。


「むしろ救世主改めテンガ王子はジュンヤ、君を参加させるつもりだぞ?」


 ヒューバートさんから一枚の羊皮紙を手渡される。


「これは?」


「ウチの村だけの”特別通達”だそうだ」


「うっ」


 そこにはこう書かれていた。


『黒髪の救世主とやらの参加を求む。 魔王に対する戦力は一人でも多い方がよいと王もおっしゃっている 第一王子テンガ』


『勝手に砦を建築し、某元姫君の手配があったとはいえ協定を結んでいるエルフの村への無断侵入。優勝すれば、上記の独断専行を認めてやる。

 まあ、ありえないがな! 直接ボコボコにしてやるぞ、モブ』


 前半はこの世界の文字で、後半は日本語で書かれている。


「……はぁ」


 こうなったか。

 変わらない上司の姿にため息が出る。

 恐らくテンガさんは主人公である自分以外に救世主と呼ばれる人間がいることに我慢できないのだろう。

 それがモブと蔑んでいた俺ならなおさらだ。


「うげぇ……これがジュンちゃんの言ってたクソ上司?

 粘着質よねぇ……モテないわよ?」


 同じく日本語の読めるマリ姉が顔をしかめている。


「……それで、出場するのか?」


「しかたありません。

 勝手に砦を建設したのは事実ですし、何よりここで対応しとかないと絶対エスカレートするので」


 一度断るとさらに粘着質になるのだ。

 長年の付き合いでこの人のことはよく分かっていた。


 ただ、テンガさんも転生者だ。

 アルのような特殊なケースを除き、他人のステータスは勝手に見れないらしいが俺が他ゲームのステータスとスキルを持っていることは隠した方がいいだろう。


 適度に手を抜きながら、決勝まで行く必要がある。


「うぃ!

 ここはメインヒロイン、アルの出番!!」


「……なるべくなら連れて行きたくないんだが」


「まかせて」


「う~ん」


 この短期間でアルと同レベルの冒険者を探すのは現実的ではない。


「どんな罠があるか分からないから、マジで気を付けるんだぞ」


「らじゃー!」


「開会は10日後か……それまでに」


 なるべくアルを鍛えておくか、そう考えていたのだが。


「ジュンヤさん、わたくしも参加してよいでしょうか?」


「……え?」


 まさかの立候補。

 決意を込めた表情で手を上げたのは、王国から捨てられた元第三王女のフェリシアだった。

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