レーフェ編 第15話 依頼

「不可侵への収監」


 カウンターの方から凛々しい声が聞こえると共にミシアと男の間に三畳ほどの鉄製の檻が地面からカウンターの前を塞ぐように生えてくる。

 だが、檻には隙間が言わずもながありそこから剣を通されたら……と思ったがいつの間にか手に持っていた剣がなくなっていた。

 

「大丈夫かい?若い冒険者さん」


「え、あ、はい!えっとあなたは……」


「私はここの冒険者組合の組長、クラークだ。どうにも私は戦えないのでこんな対応になってしまって申し訳ない。じきに解決するだろうから君たちもあんまり気にしない方がいい。かえって変な目で見られるかもしれないからな」


「はい!わかりました!だって、コウシ!」


 クラークはそう言って立ち去ってしまった。眼鏡に長身でローブを着ている。完全に非戦闘員みたいな見た目をしている。

 なのに、このスキルはなんなのだろうか。『じきに解決する』?今解決したんじゃないのか?

 再度檻を見てみると檻の中の空間は段々と霧がかかったような感じになっている。そういやさっきからずっと中の男が叫んでいるがその声は全く聞こえない。

 

「そんで、お前は何、女になってんだ。目が完全に捕食者だぞ」


「捕食者だなんてそんな……」


「まぁいいけどさ。じゃあ今度こそ依頼を見ようぜ」


 それにうなづいたミシアを確認してから掲示板へ向かう。

 掲示板には大量に紙が貼られており、文章だけのものもあれば簡単な絵が描かれているものもある。依頼者も書かれているものもあり多分個人でも依頼を出せるのだろう。

 絵には殺してほしい人の顔だったり依頼者が国になっている犯罪者の顔だったり倒す目標の魔物の全体図が書かれている。


「なんか最初だし簡単そうなのにする?これとか」


 と、言って指差してきたものは対象ランクB以上の夕闇の森付近での塗装工事の護衛だった。夕闇の森が何かわからないが闇とか書いてあるし魔物が出やすいのだろうか。護衛か……なんか、暇そうだな。やるならそこそこ苦戦できて余裕で勝てる魔物がいい。楽しそう。あとほぼ実力主義のような冒険者の界隈で弱いままでいるのは俺の正確に合わない。この世界ではもうちょっと本気でやるって決めたし。


「うーん簡単すぎない?これとかは?」


 そう言いながらざっと探した結果、指差したのは対象ランクD以上で内容は狼の群れの殲滅。場所はルミエ平原……どこ?

 集団戦はしたことないけど、スキルも覚えたしミシアもいるし大丈夫だろう。


「狼か……ま、いいんじゃない?ランクで言うと私よりちょっと上だけどコウシもいるし」


「よし、決定な。で、ルミエ平原ってどこ?近いの?」


「うーん、わかんない。私、ずっとあの村にいて、この国はいつか来たくてずっと地図見てただけだから……」


「ふーんそうなんだ」


 田舎女子の原宿みたいな扱いなのか?


「そこの冒険者よ。少し話をしないかい?」

 

 後ろから突然しわしわの声が聞こえて少しびっくりした。


「話っすか?なんの?」


「今君たちは地図がほしいんじゃないのかい?」


 地図か。まぁほしいけど。こういうのってぼったくりだよな?異世界ではそんなことないのか?


「地図ですかー?どれくらいの範囲ですか?見せてほしいです」


「ほら、これじゃ」


 そう言って見せてきたのは真ん中にレーフェが小さくあり、それらの周りの地名と場所が書かれている。夕闇の森もルミエ平原もある。隣の町などもある。

 地図としての完成度は他のを見たことがないからわからないけどこれでも十分だろう。多分。


「いいんじゃない?何円っすか?」


 問題なのは値段だ。日本での地図の値段はわからないけど旅行雑誌って千円ぐらい?

 だから、七百円ぐらいだったら全然払える。払ってもいい値段。ミシアが。


「特別価格で、」


 あ、ぼったくりの常套句。


「二百五十円だよ」


「ミシア、これ買おう」


「毎度ありー」


 ミシアがお金を払って無事地図を一枚入手できた。縮尺とかはわからないけど見た感じルミエ平原は近そうだ。


「っていうかまだ依頼受けてないよね。番号は私覚えてるから受付しに行こ!」


「あぁ、そうだったな」


 俺たちはカウンターに行き、初めに話しかけたスタッフさんに番号を伝えた。カウンターにはなぜか血の跡があるがなんかあったのだろうか。冒険者は物騒だな。

 番号を伝えるとスムーズに処理をしてくれて依頼受諾処理書というのをもらった。

 安っぽくちっちゃい紙だがこれがないと依頼をクリアした際にお金の受け取りができないんだとか。攻撃とか魔法に対する耐性はあるらしいが紛失に関しては耐性はないらしい。当たり前か。

 ついでに各々、証明書を貰った。さっき貰った処理書よりも小さく、ほんとに現実の免許証みたいなサイズ。中は文字が書かれていて名前と年齢が書かれている。

 

「これどっちが持つ?」

「責任負いたくない」

「私は……意外と失くしものしやすくて……コウシに持ってほしいな」

「えー嫌なんだけど……まぁいっか。このポケットに入れとくから一応覚えといて」


 制服のズボンの右ポケットに手を入れた時ハッとしたが俺、まだ制服なんだよな。所々破けてるし。これまでの二戦は想定外だったから仕方がないけどこれは自分から戦いに行くんだ。準備の時間があるのに制服だとさすがに全力は出せないか。

 

「動きやすい服の方がさすがにいいよな?この服結構動きにくいんだけど」


「そう?ちょっと触ってもいい?……うーん、そうでもないよ?っていうかこの素材何?初めて触るんだけど。防御力はないけど動きやすさで言ったらかなりいい方だよ」


「え、まじ?まじか……。じゃあこれでいいか」


「でも一応防具屋さん見てみる?私もこれただの私服だし、籠手とか胸当てぐらいはなんとなくほしいかも」

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