カルミル村編 第5話 宗教

「ウィーンさーん。あれ、君は……さっき来たっていう旅人さん?」


 あ、客。


「うっす。ウィーンは今散歩してて。はい」


「そっかそっかぁ。何歳?」


「十七っす」


「若いねー。料理はできる?注文したいんだけど」


「まぁ、上手くはないっすけど普通ぐらいすね」


「じゃあお願いしっちゃおっかな。これ頼める?」


 と言ってどこからか持ってきたメニュー表にはいろいろ知らない料理が書いてあり指された料理も例に漏れず見たことない「ウィクのメルン」という料理だった。


「これ……見たことないっすねぇ。どんなやつっすか?」


「え、これ見たことない?割とどこでも見れると思うけど……まぁそういう人もいるか。なんかね、ウィクを焦がした後にメリアにつけたやつ。なんとなくわかった?」


「うーん、ウィクもメリアもメルンも知らないっすね。申し訳ないっすけど明日でいいっすか?ウィーンさん明日はいると思うんで。あ、帰ってきた時に伝えとくんで名前教えてもらえます?」


「そっかぁ、なんかごめんねー?私はセシア・カルミルよ」


「セシアさんっすね。了解っす」


「あなたはなんて言うの?」


「俺っすか。山上荒神って言います。あ、ここに合わせるとコウシ・ヤマガミっすね」


「コウシ君ね。コウシ君は弟とか妹っている?」


 兄弟か。


「三個下に妹がいたんすけど生まれる前に死んじゃって。それだけっすね」


「そっかそっか。私にも妹がいてね、その子の話聞いてもらってもいい?」


「へーそうなんすね。いいっすよ」


「私の妹はミシア・カルミルって言うんだけどね、ミシアが昨日家出したの」


 家出か。その言葉を引き金にさっきの女の人のことを思いだす。


「ミシア、さんは、まだ帰ってきてないんすか?」


「……うん」


「気に触ったら申し訳っすけど心配してそうな割にはなんかゆったりしてますね」


「あぁそう見える?心配はしてるんだけどね。私っていうかミシアもこの村のみんな同じなんだけど宗教的な理由でね」


「宗教っすか」


 宗教か。あんま触れづらいな。変なこと言ったらすぐ怒りそうなイメージがある。


「うん。クシャエラ教って言って、ここの昔の人が起こしたものなんだけどその教えを要約すると『主観でものを見てはいけない。』って言うのがあってね。私たちは言葉通り主観では行動しないの。『他人を考え、気遣うことで神に至る。』あなたもそう思わない?」


「まぁ、いいんじゃないすか?よくわかんねぇすけど。宗教の人が簡単に神になるとか言っていいのか?神を尊敬してるんじゃねぇの?」


「んー、そこはちょっと難しいんだけどさっき話に出た昔の開祖様は元々わたしたちと同じ人間でそのお方が神に至ったことを尊敬してるからこそ後を追ってるってわけ。ま、そういう考え方の人たちもいるだろうね!」

 

「そっすか……」


「何よその反応。そういえばコウシ君ってどこの信徒なの?」


 無宗教でいいんだよな?日本人の宗教観は客観的にみると歪だろうしどう思われるんだ。


「っと無宗教っすね。国としては仏教……」


 仏教って言っても伝わらないしこれで異世界から来てるとバレたらどうなってしまうかわからない。


「じゃなくて!えっと、」

 全然浮かばない。代わりの言葉。誤魔化せる言葉。

 ブッ……ブッ……ブッダ?違う違う。ある言葉じゃなくてもいいのか?


「ブッキョタ教……みたいな……」


 なんだブッキョタ教って。咄嗟に出てきた言葉をただ話したせいで自分でもかなり変になってしまった。考えてみればだいぶブッダによった。ブッダってなんだっけか。これも宗教のやつだよな。


「ブッキョタ教?聞いたことないわね……。さっき国って言ってたけどどこの国からきたの?」


「あっと、あんまり言いたくないんすけど、言えるのはどっかの島国っすね……」


「シマグニ?島の国?そんな国あったかなぁ」


「え、ないんですか?」


「ないの?」


「「え?」」


「いやいやいやいや、コウシ君が一番わかってるんじゃないの?」


「あ、いや、国じゃなかったかなぁなんて……村だった気がしてきたっつーか」


「ふーん。私は大人だから聞かないでおいてあげるわ。言いたくないこともあるわよね」


 そう言った後、適当にパンを購入した女性は再び同じ席に座り、俺に話しかけることなく不安そうな顔をしている。

 妹のことだろうか。


「やっぱり、妹さんっすか」


 さっきとは少しテンションを下げて話しかける。


「うん。彼女の性格とかも考えてあまり干渉はしないようにしてるんだけどやっぱり無事でいてほしくて」

 

 彼女は両手で親指以外の指を軽く交差され親指を突き合わせるように手を組む。

 さっき言ってた……クシャエラ教?の祈りだろうか。

 祈りといえばイスラム教が五回聖地に向かって祈りを捧げることしか知らないが彼女は特にどこを向くでもなく、決まった時間でもないような気がする。そこは割と自由な宗教なのか。


 そこで俺はふとさっきの女性がミシアなんじゃないかと思った。

 干渉されたら怒りそうな性格は一致してる。

 家出も多分そう。

 確かめるか。


「ミシアさんの歳って二十一っすか?」


「ミシア?二十二のはずよ。どうしたの?」


 二十二か。あいつがサバ読んだだけか。確定した。


「いや、なんでもないけど。っていうかここ全然客こねぇんだな。大丈夫なん?」


「んーそうね。私いれて三人ぐらいじゃない?」


「じゃあこんな量いらないだろ。経営下手くそか」


 経営のことは一ミリもわからないけど。


「ちょいちょいにぃちゃん!厳しいこと言ってくれるなぁ」


「あ、ウィーンさん」

「お邪魔してまーす」


「おぉ!セシアちゃん。いらっしゃい!このコウシがなんか失礼なことしなかったか?襲われなかったか?」


「もーウィーンさんー。そんなことされませんよ。普通に話してただけです!第一襲われそうになったら一撃で殺しますよ」


 そう言ってセシアは笑う。

 一撃で……?この人そんなに強いの?

 

「そんな一撃っすか?ステゴロっすよね。俺そこそこやれるっすよ?」


「ステゴロ?違うわよ?あなたはそうかもだけど」


「え?な、何使うんすか?」


「これ」


 そう言って立ち上がってポケットから何かの柄を取り出す。スターウォーズ的な?ライトセイバー的な??


 そう思っていると柄から青白い剣が生えてきた。

 スターウォーズだった。

 正確に言うとあっちは丸い剣って感じだが、こっちはちゃんと刀だ。刀の周りにはオーラみたいなのが浮いている。


「あ、それは無理です。俺、素手なんで」


「んふふ。やっぱり?簡単に勝てるとか言わないでよね」


「勝てるとは言ってないすけど……」


「ん?そうだっけ?ま、いいのいいの。ま、ちょっといい気分になったし、お腹もいっぱいだから帰るね。ありがとね、コウシ君。楽しかったわよ」


 そう言って彼女は帰った。セシアから得た情報はかなり大きい。この村のこととこの村の宗教のことをかなり知ることができた。

 

 セシアが帰った後はセシアの言うとおり二人しかこなかった。ニータとライゴ。彼らとはあいさつ程度はしたが接客も調理も会計もウィーンがしてしまったせいで話すことができなかった。

 それからは特に客が来ることはなく四時間の仕事は終わった。

  

「コウシ。仕事は終わりだ。こっからなんか好きなもん持ってけ。いつまでいるのかはわからねぇけどとりあえず三食分好きにしていいからな」


「あざっす!」


 三食か。夕食は……菓子パンがあるんだよなぁ。あの世界のもので機能している唯一のものだが中途半端に取っといても腐って食べられなくなる。それは勿体無い。

 だし、あの女、ミシアも気になる。あいつように夕飯は用意するか。まだ、いるかわかんないけど。

 あいつどんなの好きなんかな。なんとなく甘いの持ってくか。

 そう思って「ミルクパン」と書かれたものを手に取る。常識的に考えて三食って三つとかだよな?

 六つもらっちゃおっと。


 色々見た結果、あいつに渡すミルクパン、豆パン、せつ菜パン、揚げパン、ウィクパン。

 六つもらおうかと思ったがそんなめぼしいものもなく五つで終わることにする。

 せつ菜など翻訳してもしきれていないものもいくつかあった。

 揚げパンって日本にもあったよな?世代的に食べたことはないが。ウィクもセシアが注文したやつということで実はちょっと気になる。


 棚からそれらを腕に抱えて持ちウィーンに「これ持ってきますねー。」と断りを入れて持ち帰る。


 ミシアのとこに行きたいけどとりあえずこれを部屋まで運ぶか。

 宿屋に入るとおばちゃんが「おかえりー。お疲れ様。」と優しく声をかけてくれ、それを軽く返し、部屋に入る。

 ……一緒に食うか。

 俺の世界の菓子パンとさっきもらったミルクパンをもつ。

 これって勝手に出歩いていいのだろうか。まぁいいか。

 

 そんなことを少し気にしながら部屋を出る。

 俺以外にも泊まってる人はいるんだろうか。物音はしないが……「グァァァアアアアア!!!!」

 突然、聞いたこともないものの叫び声が聞こえる。


「総員!!戦闘準備!!成人してない者は家の中に隠れるかかレイドのとこに行け!!」

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