第43話 揺れる心


フォルダンに到着すると真っ直ぐ宿屋へ向かい2部屋を取ると全が宿屋の主人の気を引いている間に武仁はレディオーガを部屋の中へ押し入れる。

アルテミスとルナはフォルダンに家がある為各々自宅で休むと言ったが、全は遅れて部屋に入ると会話に割って入る。


「アルテミス、ルナ。今日1日で君達はかなり力をつけたよ。既にSランクの討伐クエストも問題なくこなせるだろう......明日以降の竜の渓谷へは連れて行くことは出来ない。決して足手まといだとかではないんだ......しかし魔素濃度、あれは君達にとっては厄介だろう」


そう話すとルナは「それが賢明ね」と言ったがアルテミスの表情は明るくはなかった。


「大丈夫! もちろんお兄さんについての情報が入り次第伝えるし、救出の際にはもちろん手伝わせてほしいとも思っているよ。それにここまでの討伐証明も折半するよ」


そう言うとベットカバーを手に取り複製しそれを錬成してエコバッグの様な形態の鞄を造ると、収納から竜の渓谷への道中で倒した魔物たちの討伐証明をその中に入れ渡した。


アルテミスも何となくそう言われる事を予測していたのだろう、切なげに笑うと「お帰りを待っていますね!」と気持ちを押し込め引き下がる。

アルテミスとルナは頭を深々と下げると部屋を後にし、全と武仁とズチは2人を見送った。


「おい全。お前魔素濃度って、どうにかできるんじゃねえの?」


2人が去った後に武仁が全に尋ねた。


「......そうだね。例えば防御結界(シールプロテクト)を常時発動したり、あとは強化(ブースト)でバフをかけたり、他にも光属性魔法の常時回復(リジェネ)や......」


そう言う全に武仁は「じゃあなんでだ?」と聞く。


「焦りの余り危なっかしいと感じたんだ。このまま同行させれば心に忠実になるあまり体を蔑ろにするんじゃないかってね。それにいくら僕らがフォローしたところでそれはかなりゴリ押しな戦法になるし、彼女達は僕らと動くよりもある程度力をつけたしあとは自力で訓練した方が自信にも繋がるんじゃないかなって」


武仁も納得した様で「明日からの竜の渓谷の攻略は俺たち4人だ、よろしくな」とズチやレディオーガに言う。

全はテーブルに非常食と水を出すと「今日はこれですまないが」と断りを入れると4人は部屋で食事を摂りズチとレディオーガは隣の部屋へ移るとそれぞれ床に着いた。


翌朝、身支度を整えるとズチとレディオーガの部屋を訪れる。

2人も準備はできている様だ、挨拶を交わすと全がレディオーガに声をかける。


「人里に無理矢理連れて来てごめんね、慣れて行く必要もあるかなと思ったけど強引過ぎたね。ベッドはよく眠れたかな?」


強制的にレディオーガを連れて来た事に彼女は立腹している様子だが「まぁまぁ」とズチがなだめると気に食わないながらにも不満を飲み込んだ。

魔物と分類されるズチだからなのか、レディオーガは全と武仁に比べればズチの声は少しだけ彼女に届きやすい様に見えた。


それから4人は竜の渓谷へ転移(ワープ)を使用し移動すると昨日の地点から再び進行をはじめる。

相変わらず魔素の霧が立ち込めているが、朝出発してから陽が傾くまでに昨日の様な竜と1度交戦しただけで渓谷内は基本的には静かなものだった。


完全に陽が沈みきる前、少しずつ狭くなったいく渓谷の道でここまで口を開くこともなかったレディオーガがぽつりと問いかけた。


「お主ら古竜に会うのか?」


「あぁ、3強の魔物は仲間にしてぇからな」


武仁がそう答えるとレディオーガは「笑わせるな。仲間を使役するのか?」と鋭い目をする。


「厄災まで時間がねぇんだ。何とでも言えよ」


主従関係となる使役(テイム)を使い無理矢理レディオーガを連れてきている事に仲間と言うのは矛盾している。

武仁もわかってはいるが一気に空気が重たくなった。


「今日はここで野営だね」


全はそこに触れる事なく野営の準備をしはじめた。

テントを複製するとテキパキと設営し食事を摂ると武仁の希望で武仁はズチと、全はレディオーガと一夜を過ごす事になった。


「......あいつの言うことは間違ってねぇ......俺はあいつを傷つけてんだよな......正義を通すっつーのは難しいんだな。俺間違ってねぇかな?」


テントの中で寝転がると天を仰ぎながら武仁はズチに問いかけた。


「武仁殿......我は武仁殿の成し遂げようとする大義を間違いなどとは思いませぬ。武仁殿はお優しい。世界平和に魔物と人の住み良い世界......レディオーガ殿の信頼を得るのはなかなかに難しいでしょうが、その世界が現実となればきっとレディオーガ殿も我々と目線の高さを合わせて下さると信じましょうぞ」


武仁は内心苦しくて仕方がなかったのだろう。

少しの弱音を吐くと、誰かにこの信じる正義が折れない様に後押しして欲しかったのだ。

盗賊に堕ちた人に対しては手を貸す事が全てではないと主張したが、魔物であればまた話が違う。

言わば敵対している勢力、これを協力関係にしようとすれば反発が起きるのは不可避である。


ズチに漏らして少し胸のつかえも取れたのか武仁は眠りにつき、それを見届けるとズチも床についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る