第4章

第40話 希望を胸に


ーー聖ライガ協会


不屈の洞穴から戻った聖人、虎次郎、龍己。

オダーに出迎えられると龍己は「厄災の種は粉砕した」と伝え自室に戻る。


「龍っちゃん......一人で背負わせてたんだね......ごめんね......」


部屋に入るや虎次郎は龍己に声をかけた。

龍己は「......俺が好きでやっていたんだ。気にするな」と答ると湯浴みをしに部屋を出た。

まだ話し足りなかったのか虎次郎も後を追い部屋を出ると、自室に一人残された聖人は舌打ちをすると「おい! 誰かいねぇか! 俺の相手をしろ!」と怒鳴った。


部屋でも湯浴みはできるが、教会内にある大浴場は天井がガラス張りで空が見えるようになっている為、解放感を求めて龍己は大浴場を利用するようになっていた。


龍己は身体を洗い流すと湯に浸かり天を仰ぐと空に輝く無数の星を眺めながら考えを巡らせる。


オダーと言う男の嘘、魔物と対峙する危険、聖人と虎次郎とともに元の世界に帰る方法......最善の選択をする為にはやはり2人に話した上で協力し合い全と武仁と合流するべきか、タイミングはどうする......龍己が1人考えていると大浴場へ虎次郎が入ってきた。

虎次郎はかけ湯をすると湯に浸かり龍己の顔色を伺いながら声をかける。


「龍っちゃん、お疲れ様! 黙って着いていってごめんね。それに......龍っちゃんが僕らを思ってしんどい思いをしていた時、僕は自分の欲ばかりで......それにいつも聖ちゃんについて回るばかりでさ、怒ってるよね......」


「......虎、気にするな。怒る理由もない......俺の方こそすまなかった。2人の考えも聞かず独りよがりな行動をした......俺は2人を危険な目に合わせたくなかったが、俺の力だけでは難しそうだ......」


虎次郎に問われた龍己はそう言うと自身の脳内を巡る問題を整理しながら不屈の洞穴での出来事を話した。

しかし龍己は不安だった。

これを共有すれば虎次郎は混乱し恐怖に震えないか、自分の事を最悪の場合裏切り者だと言われないか、果たして信じてくれるのだろうか。

だがそんな想いは話を聞き終えた虎次郎が発した言葉で打ち消される。


「あの日のサラリーマンさんが......あのヤンキーの人までこっちに来ていたんだね......あの日は聖ちゃん機嫌が悪くって......そっか、僕もきちんと謝らないとだ......。それにしても......確かにはじめはこの協会の雰囲気に圧倒されたしオダーさんが見ず知らずの僕らに優しいことに気味が悪くも感じたけど、まさかそう言う話だったなんて......」


虎次郎は龍己を疑うどころか、当初抱いた印象や自分達に注がれる妙な優しさと施しに合点がいくと言うような口ぶりだ。

それに全と武仁に対しては聖人を止められなかった事を思い出しながら、迷惑をかけた事実をきちんと受け止めている様子である。


「この世界のことや戦い方だって龍っちゃんの方がわかってるし、力だってあるし......僕は足を引っ張っちゃうかもしれないけど、一緒に元の世界に帰る方法を考えよう! 僕も一度彼らに会いたい......と言うか会わなければいけない。ただ、今はまだ聖ちゃんには言わない方がいいかもしれない......ほら、聖ちゃん仲間はずれにされたりするの凄く嫌がるでしょ? 機嫌を見ながら!」


虎次郎は龍己のいない間の聖人の言動に不安を抱えていた為タイミングをみた方が良いと判断し龍己が気に止めないように上手く誤魔化す。


「......それから、厄災の芽の討伐でなくても協会からはいくらでも出れると思うんだ! 勝手気ままに振る舞った事が唯一いきるとこだよ、そこは僕に任せて」


と言うと、体の小さな虎次郎は長湯でのぼせてきたのだろう。

龍己に改めて謝り、そして感謝の意を伝えた上で風呂を出ていった。


龍己はこれまで1人で抱えていた想いが虎次郎と共有できた事で胸の支えや肩にのる重圧が軽くなっていくのを感じながら、これで良かったのだろうか、と自身の行動に正解を見出すのを辞めた。

むしろはじめからこうしておけば良かったな、と思いながら満点の星空を見上げながら口元が緩むと、この世界にきてはじめて薄っすらと笑みを浮かべる。


「......三人寄れば文殊の知恵」


この世界に来た当初、自身がつぶやいたあのことわざ。

龍己は幼馴染の虎次郎が理解を示してくれた事できっと聖人も理解をしてくれる、そうすれば3人で力を合わせ知恵を絞り元の世界にだって帰れると言う希望を胸に再び1人そう呟くのだった。

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