第3章

第26話 それぞれの想い


全と武仁が王都で繋ぐ者リンカーと出会いそれぞれに絆を深めていた時、聖人の器である聖人と虎次郎は聖ライガ教会でもてなしの限りを尽くされ優雅に過ごす一方で、厄災の種を粉砕してからと言うもの龍己は1人抱える想いを日々鍛錬と周辺の魔物討伐で紛らわせていた。


その様子にオダーは、伝承に伝わる聖人の器は本来1人であることから本物の聖人の器は龍己であると考えるようになったが、龍己とは聖人と虎次郎があってこそ奮い立つ人であり、聖人と虎次郎もあれで雷神の加護を受けた聖人の器である事実は変わりがない為、本物の聖人の器と考える龍己が更なる高みへ登る為の補助的な役割にあるのが聖人と虎次郎だと結論付け教会員に周知した。


「あいつ、最近前にも増して暗くなってね?」

聖人は女をはべらせ酒を片手に虎次郎に言うと、虎次郎は「なんだか毎日ふといなくなるよね、何してるんだろう?」と男に腕枕をさせながら話す。


2人は欲を曝け出し怠惰な異世界生活にご満悦だったが、7日目にしてようやく龍己の変化に気付くと「バレないようについて行ってみるか!」と聖人が提案しそれに虎次郎も乗ると「明日は龍をスパイするから構ってやれねぇし......今日は1日可愛がってやるからな!」と聖人は女達とベットに潜り込むのだった。


異世界に来て8日目の朝、朝から龍己が部屋を出て行くのに気付いた虎次郎は聖人を起こすと急いで着替え2人はその後を静かに追う。

廊下に龍己の姿は既になかったが2人は声のする方へ進む。

その声は教会の入り口の方から聞こえており、そこで龍己の姿を確認した2人は物陰に隠れながら聞き耳を立てていた。


「龍己様、感知した厄災の芽は王都ボルディア周辺です。国王は独裁主義で聖人の器の力を良いように使おうとするかもしれません。我々教会の存在も聖人の器の皆様を手中におさめる為に反乱分子とみなされ断罪されかねません......くれぐれも知られない様にお気をつけていってらっしゃいませ」


オダーが龍己にそう話すと「わかった、行ってくる」と言い龍己は教会を出発した。

それを見ていた聖人と虎次郎は「どう言う事だ、龍はどこに行った?」とオダーに詰め寄り、オダーは「見ていたのですね......もう隠すのも難しいでしょう」と言うとこれまでの事を語りはじめた。


「あれは皆様が召喚された翌日です。お2人を危険な目に遭わせたくないと龍己様は私の元を訪れ、厄災が終われば元の世界に帰れると知ると、厄災の前兆である厄災の芽と言う魔物の討伐に向かわれました。その際同行した教会員が1人亡くなってしまった事で自責の念に駆られた龍己様は力を付けなければ聖人様と虎次郎様を守れないと危惧し、来たる厄災に備え日々鍛錬を重ねておりましたが、次なる厄災の芽の発現により本日はそれを討伐するべく王都ボルディアへ方面へ向かわれたのです」


2人はオダーの話を聞き終わり、虎次郎はうすら涙を浮かべ肩を小刻みに振るわせ、聖人は拳を握りしめ「あの野郎......」と呟くとオダーに「俺らも後を追う! 準備しろ!」と言い放った。

オダーは「仰せのままに」と言うと武器庫へ2人を連れて行き好きな武器を手に取るよう促すと聖人は剣を、虎は槍を選んだ。

龍と同じく案内役2人と戦術指南役2人を呼びつけると外に馬を用意させ「地理や戦い方についてはこの者達にお聞きください」と言い、続けて「先ほどのお話を聞いていたかと思いますが、国王は独裁的な方です。道中はもちろんですが目的地は王都近郊です。くれぐれも聖人の器だと言う事は誰にも悟られない様にお気をつけ下さい」と念を押すと聖人は「わかったよ」と返事をし虎次郎も頷くと2人は教会の同行者を連れ龍己を追った。


自分達に隠れてこそこそと手柄を立てより良い地位につこうとしていると感じた聖人は龍己に腹を立てていたが、虎次郎は率直に龍己の想いを想像し申し訳なく思う。

異世界に来てからも常に行動を共にした2人だったが、各々の龍己への想いに相違があると気がつくのは少し後の事となる。


聖人と虎次郎が自分を追ってきているとは梅雨知らず、龍己は案内役を1人だけ連れて王都ボルディアより先にある不屈の洞穴を一目散に目指した。


聖ライガ教会から王都ボルディアへは教会を取り囲む森を抜ければひたすら平地を西へ進み馬でおよそ2時間ほどで到着する、そこから更に北西に少し進むと不屈の洞穴があるのだと案内役は教えてくれた。


龍己に遅れる事30分程度、聖人と虎次郎は森で魔物に遭遇すると虎次郎はすくみ上がったが、聖人は躊躇いなく戦術指南役を前に行かせて道を開けさせた。


「お前らは常に俺らの前を行け!」


聖人はそう叫び真っ直ぐ進んだが、虎次郎は戦術指南役が気にかかり後ろを振り向いた。

聖人の命令により魔物と交戦する戦術指南役の1人はたちまち魔物の群に囲まれていき次第に見えなくなる。

虎次郎はバッと前を向くとただただ恐怖で動けず馬の手綱を握りしめる事に専念するほか出来ない自分を悔やんだ。


森を抜け平地を抜ける頃には案内役1人と戦術指南役2人が魔物との交戦により離脱、聖人と虎次郎は案内役に目的地まで道案内をさせると息を切らす馬を休める事もなくひたすらに龍己を追うのだった。

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