第22話 国王との謁見


王都ボルディアへ到着した全と武仁は隅々観光したい気持ちを抑えクリスティナとケインに連れられて王城へ歩みを進める。

ボルディアの正門をくぐり賑わう大通りを真っ直ぐ進み噴水のある広場に出たところで永遠の安寧エターナルピースのコウヨウとシーテンは「俺たちはここで」切り出した。

クリスティナは「あぁ、助かった。ありがとう」と返す、そこはボルディアの冒険者ギルドの前だ。

シーテンが水上の街フォルダンで使用した魔法の事などを全と話したい様子で、後ろ髪引かれる表情を浮かべている。

それを知ってか知らずか「国王への謁見が終わり次第、フォルダンでの厄災の芽の報告もあるしギルドに寄るよ」と全が言うとシーテンは目を輝かせながら「はい! 待ってます!」と答えた。


コウヨウとシーテンと別れ、4人は広場から更に真っ直ぐ北へ進むと大通りは次第に上り坂となり、坂を登るにつれて辺りの建物が華美になっていく。


そこから少し歩を進めてようやく王城の門が見える、王城に続く道は綺麗な花々で彩られ、カルカーンのクリスティナの領主邸の城とは規模も違えば雰囲気もまるで異なる。

クリスティナの城は装飾は簡素ながらに隅々まで手入れが行き届いており、まるで骨董品を大切に大切に磨き保っているようだが、王城はさながら現代アートのように色鮮やかで見る者を魅了する。

主人の品格はもちろんながら性質や趣向が出るのだなぁ、と全は1人思った。


クリスティナが王城の門兵に謁見許可証を見せると、門兵はクリスティナを丁重に城の入り口まで案内し、城の入り口で執事のような格好をした人に引き継いだ。


「クリスティナ様、お待ちしておりました。国王の元までご案内致します」


そう言われ広い城内を黙々と進み、通されたのはそれこそライトノベルの世界でよく思い描いた、一室。

赤い絨毯が続く先に数段階段があり、両端には重役であろう貴族が並び、そして真ん中には立派な白髭を蓄えた人物が鎮座する。


クリスティナとケインは赤い絨毯の上を進むと国王の前で跪いた。

それに合わせ全と武仁も跪く。


「ご機嫌麗しゅうございます、国王陛下。カルカーン領主、クリスティナ・フォン・カルカンド、この度は書状をお送りした通り厄災の芽の討伐者と証人アールベルト男爵を率いて参りました」


クリスティナはかしこまり国王へ挨拶をする。


「カルカンド伯爵、アールベルト男爵、それに討伐者の2人も楽にしなさい。して、早速ではあるが状況を詳しく聞きたい」


国王の言葉を受け顔をあげると説明をはじめたクリスティナは、証人としてケインに時折確認をしながら話を進めた。


「......以上が書状に記載した経緯です。それに加えて書状に記載のない事実も判明致しました、この場で申し上げてもよろしいでしょうか?」


国王が「続けなさい」と言うとクリスティナは全と武仁が既に厄災の種を浄化した事、2人には神の使いと言う伝承にはない存在がついており六神の加護が与えられている事、しかし聖人の器ではなく勇者と賢者である事、そして王都への道中フォルダンで2つ目の厄災の芽を討伐した事を話した。


「......にわかには信じられん。この国に代々伝わる伝承にもない事例......早々に王都も動かねばなるまい。カルランド伯爵、アールベルト男爵、この度はご苦労であった。そして勇者様、賢者様......聖人の器をも凌ぐ可能性のあるお二方へは国が総力を上げて援助させて頂きます。この世界に......どうか我々に......厄災に立ち向かうべくそのお力をお借りしたい」


国王は立ち上がると全と武仁に頭を下げた。


「もちろんです。この国の国王陛下の平和的な国政、僕は異世界人ですが人々の声を聞き感銘致しました。僕達で力になれる事であれば協力は惜しみません。僕と武仁はこの国を見て回りながら厄災の芽の討伐、そして神々の大樹を巡り厄災の種の浄化をし神の宝珠を得て創生の記憶を頼りに厄災へ立ち向かう準備を整えていこうと考えています。僕と武仁はスキルで繋ぐ者リンカーへ力を与えることも出来ます。まだこの世界や地理についても把握しきれていない部分がありますし、厄災に備えそれらを把握した上で信頼できる協力者を繋ぐ者リンカーとして同行、または各地に配置し戦力と守備の増強をしたいとも考えています。その事への許可を頂ければと思います」


全が話し終えると武仁が言う。


「カルカーンではクリスティナはもちろん、ケイン、それにギルマスのワンドとSランク冒険者のカッセルだな。あとは王都にはSランクパーティがいるって事だし、俺はスキルで特に悪意や敵意はばっちり感知できる、全は鑑定を使えるしそれで気に入ったやつを何人か見繕うぜ。当然各領地にも足を運ぶ事になるだろ? 都度良さそうなやつはヘッドハントだな! 厄災の程度もこっちはわからねぇ、戦略も協力者の繋ぐ者リンカーもあちこちに均等に揃ってた方がいいだろ?」


武仁もいつになくまともに話を進めると、国王は「もちろんだ、君達が要だ。どうかよろしく頼む」と返した。


「それから、盗賊捕縛の件も報告を受けてる。今後も何かと資金は必要になるだろう。その恩賞と、更に勇者様と賢者様への支度金として......いかほどあれば良いか......」


国王は少し考えてから横についていた重役の1人に合図をすると、重役が国王の元へ近寄り国王が耳打ちをする。


「うむ、では恩賞と支度金については応接室にて用意させる。それから此度は素早い対応で厄災の前兆を知る事ができた。カルランド伯爵に白金貨10枚を、アールベルト男爵に白金貨3枚を与える。カルカンド伯爵は領地発展のために、アールベルト男爵はカルカーン騎士団の発展のために、それぞれ役立てなさい」


クリスティナとケインの2人は「有り難く頂戴致します」と言うと国王は更に続ける。


「各領地にもこれをもって正式に迫る厄災への警告、そして異常発生時の報告義務と戦力増強をするように書状を出そう。全様、武仁様、重ね重ねとなり申し訳ないが国民の混乱を避けるべくお二方のことは聖人の器として周知させて欲しいのだが、了承して頂けるか?」


そう言うと「はい、わかりました」と全が返し、これにて国王との謁見は終了した。


謁見が終わり通された応接室で待たされている間に「なぁ、アールベルト男爵ってなんだ?」と武仁が呟くとケインは「俺はケイン・ド・アールベルト、一応男爵なんだ」と話した。


「ケインはカルカーン出身で平民の生まれだが騎士団で武功を上げ男爵の爵位を陛下から賜ったんだ。アールベルトの姓はその際に前騎士団長の私の父の名前から陛下が与えて下さったんだよ」


とクリスティナが教えてくれる話に全と武仁が耳を傾けていると部屋をノックし入ってきたのは城を案内してくれた執事だ。


「こちらが国王陛下より用意された恩賞と支度金になります。どうぞお受け取り下さい」


と差し出されのは白金貨25枚ずつだ。

白金貨は1枚で日本円に換算すれば150万円といったところだろう、武仁はピンと来ていないが全は恐縮しながらもこれを受け取り王城を後にした。


「白金貨25枚とは! 一気に大金持ちだな! これで厄災を退ければ更にだから......2人はこの世界で死ぬまで遊んで暮らせるぞ!」


城を出るとケインは笑いながら2人に言ったが、武仁は「何言ってんだ、俺は元の世界に親父と妹がいんだぞ。厄災蹴散らしたら帰るっつーの!......まぁ、ケインとはダチだし......寂しくはなるが家族には変えらんねぇからよ!」と言うと「すまん......そうだよな」とケインは眉をひそめて呟いた。


「しけた顔すんなよ! その時は俺がもらった金はお前らにやるよ! それよりギルドに行こうぜ!」


と武仁が言うとケインは素早く切り替え「二言はないな!?」と言いながら競う様に王都ボルディアの冒険者ギルドに向かい、その後をクリスティナと全はゆっくり歩み追うのだった。

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