第15話 便利な魔法
マグマ山を目指してカルカーンを出発した2人。
武仁は道中に咲く草花に一々鑑定を使い採取している全を急かす。
全は「これも異世界を楽しむ要素だぞ」とぶつぶつ言いながらも「これならいいだろ!」と素早く採取し収納すると武仁を走り抜きまた腰を下ろしては採取、武仁が追いつきそうになればまた走り抜き腰を下ろし採取を繰り返した。
ちょこちょこと前を行く全にしらーっとした目線を送りつつも武仁は終始第六感を使用し魔物や敵意を感知しながら進む。
マグマ山へは片道だけでも1日がかりと冒険者ギルドでマムから聞いていた為「魔物を狩ってサバイバル飯を食べよう」と武仁は張り切っていただけに、魔物の気配のしない平和な時間に退屈だと言わんばかりの大きなあくびをする。
途中、相変わらず採取をしていた全が武仁目掛けて走り戻って来た。
何事かと思ったが「出発前にカルカーンで用意していた水に魔力を通すと聖水が錬成できてそれに色々な薬草を混ぜ合わせるとポーションやエーテルが出来たんだ!」と言いに戻ってきただけだった。
「お前呑気だなあ」と武仁が言うと「サバイバル飯だとか言ってたお前には言われたくないな」と全も返した。
そんな穏やかな旅路の最中、武仁の第六感スキルがようやく敵意を感知した。
ちょうどマグマ山へ行く道と水上の街フォルダンに行く道との分岐点にさしかかったところだった。
「おい全! ちょっと道は逸れるが北東3km先、人が襲われてるぞ! どうする!?」
そう武仁が言うと薬草採取の手を止め全は返した。
「決まっている! 助けるぞ!」
2人は3kmの距離を駆けつけるまでに間に合わない可能性を危惧して3日目のログインボーナスで修得した武仁のスキル一網打尽を使用する事にした。
「対象は13......一網打尽!」
スキルを発動すると宙に光る球がフッと現れた。
「なるほど」とつぶやくと武仁は収納から勇者の剣(バット)を取り出すとフルスイングして打ち抜いた。
すると球は打った瞬間13個に別れ目で捉えられない様なスピードで飛んで行った。
急いで感知した場所まで向かう2人、ものの数分で武仁が到着するとそこには感知通り13人が気を失って倒れていた。
そして、荷馬車の中で怯える親子らしき人達の無事を確認する。
遅れて全が息を切らしながら到着、呼吸を整えたのち被害者に話を聞くと、カルカーンに向かう道中で盗賊に襲われたと言う事だった。
どうやらこの親子は行商人らしく積荷を狙われたのだろう。
全がステータスウィンドウを開き「土属性魔法にうってつけの魔法があったんだよなあ」と言う。
「......あった!拘束(バインドブランチ)!」
唱えると木の枝が倒れた13人の盗賊達に絡み付き拘束していく。
「カルカーンに僕の魔法で盗賊ごと転移(ワープ)させますから、到着次第冒険者ギルドに突き出すと良いですよ。ご無事で何よりです」
そう全が行商人の親子へ伝えると、深々と頭を下げながらお礼を言う行商人を笑顔で見送り転移(ワープ)を唱えた。
「それにしても武仁、一網打尽ってスキルは絶命させずに気絶させるんだね。僕たちのステータスを考えると塵一つ残らないんじゃないかと思っていたけど......急を要したとは言え使わせたのはまずかったかなって追いかけながら考えてたよ......」
全は内心ホッとしているようだ。
「あぁ、どんな仕組みかわからねぇが感知したのが魔物なのか人なのか、敵意や悪意があるのかだとかがわかるんだ。人だったんでHP1残しの瀕死! と思って打った」
そう言う武仁に「徹底的にシバくさすがはヤンキーだ......」と呟くと「悪人なんだから当たり前だろ」と普通に返され冷やかしたつもりが肩すかしの全だった。
進路を戻し再びマグマ山を目指し歩みを進め途中休憩を挟み食堂で買った弁当を食べると、あまり時間をかけていられないと2人は更に前進する。
あれから特に何もなく大して変わらない風景にも飽きてきた2人、歩き詰めで疲れも溜まる。
陽が傾いてきたところでようやく遠くに山が見えはじめた。
「やっと見えてきた......ちょっと舐めてたな......次からは乗り物が必要だな......もう足が棒だよ、今日はここらで野宿としよう」
全が言うと武仁は「貧弱だな」と言いながらも野宿の準備をしはじめた。
言われた全は「お前が体力おばけなんだ」と返しながら路肩に座り込んだ。
事前にカルカーンの道具屋で調達しておいた野営用の簡易テントを設置すると「念のため」と寝込みを襲われないよう全は光属性初級魔法、防御結界(シールプロテクト)を唱えた。
2人はテントに篭ると全はすぐに眠りについた。
武仁は横になるもなかなか眠れず陽が完全に落ちるまで第六感スキルを使用していたが気がつくと眠りに落ちていた。
ーー翌朝ーー
早めに眠りについたせいか朝早く目が覚めた全。
武仁を起こさないようにテントから出ると大きく伸びをして辺りを見渡した。
マグマ山へ続く道には人1人の影もなく見飽きた草原に変わりもない。
とりあえずとステータスオープンを唱え4日目のログインボーナスをリンから授かるとスキル複製を修得した。
これは所持するアイテムを複製するスキルのようで全知全能と相性が良さそうだ。
ステータスウィンドウを開き水属性魔法を見ながら生活魔法とされる浄化(クリーン)を唱える。
洋服は洗濯されたように、体は風呂に入ったかのように、歯も磨いたようにスッキリだ。
武仁が起きるまで採取してきた薬草で錬成をしようと張り切っていると、案外早く起きてきた武仁に「まだ寝ててもいいんだぞ」と声をかける全だが「いや、目が覚めちまった」と二度寝する気配もないため諦めて武仁にも浄化(クリーン)を唱えた。
「......!? 便利な魔法だな! これで毎日風呂も歯磨きもしなくていいじゃねーか!」
と今までのどの魔法より感動する武仁に「いやそれもどうなんだ......」とツッコむ全だが「忘れずにログインボーナスもらえよ」と口添えた。
言われて武仁もステータスオープンを唱えるとズチの声が聞こえてくる。
「武仁殿! 4日目のログインボーナスですぞ! 今日もスキルなのだが、少しこれまでと勝手が違うスキルですぞ。強者の特権......このスキルを使用すると武仁殿が打ち負かした魔物を使役(テイム)する事が可能になりますぞ! 魔物の世界は分かり易い弱肉強食......そして強い魔物ほど知性も持ち合わせておりますからな、使役(テイム)する魔物次第では心強い協力者となりましょうぞ! まぁ武仁殿の力の前にして協力者など必要ないかもしれませんがな! がはははは!」
そう言うとズチは去った。
武仁は「強い魔物なんかいんのかよ」と言いながらも一方の全は、「魔物使役(テイム)じゃないか」とはしゃいでいる様子だがあまり興味のないスキルに「早く行こうぜ」と武仁が急かすと2人でテントを片付け昨日に引き続きマグマ山を目指して歩みを進めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます