第9話 厄災の芽
城下町カルカーンを背に街道沿いを進む3人。
カルカーンを出てからは特に魔物に遭遇する事もなく、道行く人も、ぽつり、ぽつり、とすれ違う程度でのどかなものだ。
「俺の腕試しはいつになんだよ。魔物一匹いねぇじゃねえか」
武仁がボヤくとケインが口を開いた。
「この辺りは普段から割と平和なんだよ。魔物より賊なんかが関わっている事案の方が多いくらいさ。とは言え、それも数えるほどだけどね。だから昨日は本当に驚いた......。領主様が直々に依頼を出すのも当然、何もないに越した事はないし、報酬を貰い実績も積める、良い事尽くしじゃないか武仁!」
そう言い武仁の肩をポンと叩き微笑むケイン、納得の行かない武仁はムスっとしたかと思えば、次の瞬間ニヤっと笑う。
「いるじゃねぇかぁ......! 俺が行くまでそこ動くんじゃねぇぞぉ......!」
第六感スキルが働いたのだろう、そう言うと走り出す武仁。
全とケインは途端に走り出した武仁を追うが、その差は縮まらない。
「はぁ、はぁ......昨日のホークアイ討伐といい、さっきの鑑定スキルといい、全には大概驚かされたが......。武仁もただの
武仁を追いかけながらケインは全に言った。
「はぁ、はぁ......武仁は僕らの故郷でも一番身体能力が高くて、野生的に感も鋭いんだ......。僕と武仁は無いものを互いに補える、良いパーティだと思っているよ......!」
そんな会話がなされているとも知らない武仁は、およそ2kmと少しを走り抜け単身小さな村へと辿り着いた。
村の入り口にはムツノハシ村、と書いてある。
一見すると穏やかな村だが、村にいる人々の目は虚で、農作業をするお爺さんも、家の前で会話をするおばさん達も、走り回る少年少女にさえ違和感を覚えた。
武仁が感知した魔物は、どうやら村の奥にいるようだ、武仁は2人の到着を待たずに村へ足を踏み入れる。
すると、一斉に武仁の方を見る村人達、武仁は物怖じせずズカズカと村の奥を目指し進む。
「こんにちは、こんな辺鄙な村へどのような御用向きですか?」
「こんにちは、今日は天気が良いですね」
「こんにちは、お兄さんは冒険者ですか?」
村人は一斉に武仁に声をかけたかと思えば、ジリジリと近づいてきており、それはまるで村の入り口を塞ぎ、武仁を村の奥へと追いやるかのように徐々に集まってきていた。
「気持ち悪ぃな、なんだお前ら? まぁ俺も用があんのはこの奥だからよぉ。わざわざんな事しなくたっていいんだぜ?」
そう言うと、嫌な気配のする村の最奥にある民家まで歩み進める。
武仁は
それはまだ新しい苗木だったが、普通の苗木ではあり得ない、ギョロリとした大きな目が苗木から伸びた葉についているのだ。
その目は武仁の方を見るや枝を伸ばし、もの凄い速さで鋭く幾度も突いてきた。
地面に刺さった痕跡からして、当たれば貫通必至だろう。
しかし武仁はこれを身軽に避けながら接近し、苗木の前まで来ると
苗木はその衝撃でボロボロと崩れ落ち、最後にはコロンと目玉だけが残り地面に転がった。
「遅すぎるぜ。肩慣らしにもなんねえ」
そうつぶやくと目玉を拾い、民家の裏手から出ると、さきほどまで目が虚だった村人達は、正気を取り戻した様で少し混乱していた。
武仁が混乱に乗じて村を出ようとしたタイミングで全とケインが村に到着する。
2人はかなり息を切らしているようだ。
「ははっ! お前らも遅すぎるなぁ!」
そう言うと武仁は、まだ肩を揺らしながら呼吸の整わない2人に説明しながら、拾った目玉を見せつける。
「!!!」
それを見るや目を見開いて驚いたケインは、まだ呼吸が整わない中で絞り出し言い放った。
「......厄災の芽......だと......!!」
ケインの様子から、それは何か不吉なもので、急を要する深刻なものなんだ、と感じた2人。
「急いでカルカーンに戻った方がいいかな?」
そう全が言うと、ケインは深く頷いた。
「まだ試した事はないけど......
全が唱えた闇属性上級魔法の転移は、一度訪れた場所に移動できると言うものだ。
3人は瞬く間にカルカーンに戻ってきた。
ケインは転移に驚きながらも、厄災の芽の事で気が気でない様だ。
2人にギルドへの報告を頼むと、大急ぎで領主へ報告に向かった。
厄災の芽が果たして何なのか、はっきりしないながらも、よほどの事態なんだろう、と察する2人もギルドへ急ぎ駆け込んだ。
受付のマムに経緯を説明しながら厄災の芽を差し出すと、マムは大慌てで「お2人も来て下さい」と言い、上階のギルドマスターの元へ駆け上がった。
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