第2話 神の使い
森を抜けるべく歩く2人は、なるべく広く抜け、かつ日差しの方向を気にしながら進む。
これは全の提案であったが、先程の一本ツノのウサギの事と言い、どこぞと知れないこの場所に身を置く居心地の悪さに不安を隠しきれない様子だ。
そんな全をよそに武仁はズンズンと進む。
あれから動物と出くわすことなく30分は歩いただろうか、時計もないため体感でしかわからない2人。
しかし全の判断は正しかったようで、2人は踏み跡が出来ている場所へと抜け出た。
「踏み跡がある。これは人が通っていると言うことだ......この跡に沿って進もう」
「おっさん、腕はからっきしなのに感はいいんだなあ」
そう言うと武仁は笑う、武仁もあれで気を張っていたのだろう。
「いや、だからおっさんじゃなくて全さんと呼びなさい」
そうやり取りをしながら踏み跡を目印に更に進むと、少し向こうに街道が見える、ようやく森を抜けたのだ。
「ふあー、やっとだ......一時はどうなることかと思ったが、まずは良かった」
「おっさんはビビりすぎなんだよ。つうか腹減ったな」
そう言う武仁に、全は持っていたリュックをあさり始めた。
「社会人たるやいかなる時でも準備は怠らない。喉も乾いたし、そこの岩陰で休憩だな!」
全はリュックからペットボトルの水とおにぎりを取り出すと「やるじゃねーか!」と武仁は笑った。
森を抜けると、街道より手前に見える岩陰で休憩する2人。
全は武仁に眉唾な、しかしこの状況に説明がつかない事からある話をしはじめた。
「僕はライトノベルなんかをよく読むんだが、この状況......もしかすると僕らは異世界転移したんじゃないかと思うんだ......」
「異世界転移? んだよそれ?」
おにぎりを食べながら全の話に耳を傾ける武仁。
「ああ、簡単に言うと、ここは僕らがいた世界ではない、別の世界だと言う事だ。まずあんなツノの生えた凶暴なウサギは見たこともないし。それに見てみろよあの建物」
全は街道が続く先にある、城のような建物の方に目配せした。
「とりあえず日本にはあんなもんねえよなあ」
武仁はおにぎりを食べ終えると、水を飲みながら街道先の建物を横目に言った。
「でだ! 異世界転移した人間って言うのは大抵お決まりでチート能力を持ってるんだ! ライトノベルなんかを参考にするなら、こうだ!」
全は少し高揚しながら続けた。
「ステータスオープン!」
そう言うと同時に、どこからともなくゲームのようなウィンドウが現れ、ファンファーレのようなメロディとともに聞こえてきたのは女性の声だった。
『初回ログインボーナス〜♪』
想定以上の出来事に、2人はポカンと口を開けながら固まる。
『ようこそ異世界へ〜。私は迷いし落ち人、全様の
案内役と言うリンが言い終わると、メロディも止みステータスウィンドウが閉じた。
2人はしばらく何が起きたのか理解できずに呆けていたが、全に続こうと武仁もつぶやいた。
「ス......ステータス......オープン......」
武仁はこのようなファンタジーな世界観には免疫がないようで、耳を赤くしながらも言う。
するとステータスウィンドウが開くと同時に、先程とは違う和太鼓のようなメロディと力強い声が聞こえてきた。
『武仁殿、ようやっとお呼び下さったな! 我は武仁殿の
武仁の案内役と言うズチが言い終えると、メロディは止みステータスウィンドウが閉じた。
再び呆気に取られる2人だが、目を合わせながら堪えられずに吹き出した。
「「あっはっはっはー!!」」
「はははっ......なんだよ、コレ!? 俺ぁゲームだとか漫画だとか疎いからよお? 全、つまりどういうこった?」
「はははっ......はあ、笑った、苦しい。......とりあえず! やはり僕らは異世界に転移したようだ。それで、さっきのツノの生えたウサギはやはり
「なるほどなあ。信じられねえが、頷くしかねえな。つうか元の世界に戻るにはどうしたらいいんだ?」
武仁のシンプルな疑問に全も考えあぐね静まりかえる。
「ひとまず、ステータスを確認しよう。何かわかるかもしれない......それから疑問点を再度、
帰れるのか、と言う不安が2人を渦巻いたが、全が口火を切ると武仁も静かに頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます