卒業旅行

ミノビシャス

1話完結

 将来のこととか、あまり考えずに「絵を描くことが好きだから」って理由で何となく通ったデザイン専攻の専門学校も来月には卒業。

 あっという間の2年間だったな。


 私は専門学校で一番仲の良かった奈美なみと2人で卒業旅行に行くことになった。

 私も奈美も就職の内定が無事に決まっていて、4月からは新生活が待っている。

 それぞれ離れた街で暮らすことになったから、これからは今までみたいに奈美と会えなくなると思うと凄く寂しい。

 奈美とは専門学校からの付き合いだけど、たくさん遊んだし、たくさんケンカもした。

 色々あったけど今回の旅行で最高な思い出がつくれたらいいな。お互い社会人になったら、なかなかこうして旅行に行く時間もなくなるだろうから。

 私は計画を立てたりするのが苦手なタイプだから、こういう行事やイベントはいつも奈美が計画してくれる。 


 今回宿泊する旅館も奈美が探して予約してくれた。街から離れてて、山奥にある古い旅館だけど凄く宿泊費も安くて、まぁ、値段の割には悪くないかなって感じ。

 

「さぁ!今日は飲むぞ〜!」

「乾杯〜!」


 女2人旅。お酒が進むに連れて思い出話にも花が咲く。

 初対面の時はお互いよそよそしかった時のこと、仲良くなって初めて飲み会した時のこと、2人でBTSのライブに行った時のこと、夏に海でナンパされたこととか、話が尽きなくて本当に楽しい。楽しいと思えば思うほどこの時間が終わってほしくないって思う。でも…4月からはこうして2人で楽しく過ごす時間はなくなっちゃうんだよね。

 ほろ酔いで楽しさ半分、寂しさ半分で時間はあっという間に過ぎていった。気がつけば午前2時。 


 その時だった。


そろそろ寝ようかって時に、奈美がトーンの低い声で口を開いた。


「あのね…ここの旅館、


「え?出るって…何が?」

「幽霊」

「え…?」

「この旅館の宿泊費、すっごく安いでしょ?何の割引もクーポンも使ってなくてだよ?でね、私、ネットで色々調べたの。そしたらね、この旅館、幽霊が出ることで有名だったの。」

「やだ…本当に出たら、どうしよう?」


 奈美は言葉を続ける。


「大丈夫。もし本当に幽霊が出たらどうするかってことも調べてあるから。今から私が言うことをしっかり聞いてね」

「う、うん…」

「ここに出てくる幽霊は首を絞めてくるらしいの。でね、首を絞められている時に絶対に目を開けたらダメみたい」

「もし、目を開けたら、どうなるの?」


私は恐る恐る聞いた。


「もし目を開けちゃうと、あの世に連れて行かれちゃうんだって」


 元々、怖がりでこういう話が苦手な私は一気に酔いが覚めていくのを感じた。

 

「でも、目を開けずに我慢してたら、その幽霊はどっかに行っちゃうんだって。ま、ネットに書いてあることなんてほとんどいい加減だから気にしないでいいよ。ごめんごめん、怖がらせちゃったね」

「も〜!」


 確かに宿泊費が安い旅館や施設にこういう根も葉もない噂話が広まるのはよくある話かもしれない。それに、奈美も一緒にいることだし大丈夫。

 そう自分自身に言い聞かせて、布団に入り、寝ることにした。


 布団に入って数時間が経った時だった。私の首が絞められてることに気がついた。


 やだ、本当に幽霊が出た…


 奈美から「絶対に目を開けたらダメ」と聞かされていたので、私は絶対に目を開けない!と強く念じて固く目を閉じたままにして恐怖心と戦った。


しばらく時間が経っても、幽霊は私の首を絞めることをやめようとしない。それどころか首を絞める力はどんどん強くなっていってる。


 く、苦しい…。


 私は思わず目を開けてしまった。



 その時、私が見た光景は、私の首を絞めている奈美の姿だった。






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