お隣さん

千子

第1話

4月5日

今日から新生活、新居での暮らし。しかも角部屋!空いていてラッキーだった!

窓を開けると澄みやかな青空が広がっていた。

本当は1日が良かったけれど、引っ越し会社がどこも予約で埋まっていてこの日になってしまったけれど、幸先良さそう。

大学も明日からスタート!楽しいことがあるといいな。


4月6日

帰宅してからお隣さんがうるさい。

角部屋だからお隣は一室しかないし犯人はそこの住人ということになる。

何をしているかわからないけれど、もう少し他の住人のことも考えて欲しい。


4月10日

お隣さんがうるさくて、なにをそんなにうるさくしているのか壁に耳を当てて聞いてみた。

話し声のような、何かの物音のような…はっきりしない。

こんなに聞こえるのに、なんの音が分からない。ちょっとこわいな。


4月12日

朝、大学に行く前にお隣さんの家の郵便受けに苦情の手紙を入れてみた。身バレが怖くてパソコンで打ったけど。

帰宅後そっと郵便受けを見てみると無くなっていたから読んで反省してくれたと思いたいが、やっぱりうるさい!全然反省していない!


4月15日

バイトが決まった。大学近くのコンビニ。

これから頑張りたい!と思った瞬間にお隣さんからまたなにか物音が激しくなった。

そろそろ不動産会社に苦情を入れようか悩む。


4月20日

バイトが思ったより忙しくて帰宅したら即寝てお隣さんのこと気にしてなかったな。

相変わらずごそごそ物音か話し声か分からない音がする。


4月23日

今日は休みで1日中家にいるせいかお隣さんの物音がすごく気になる。

毎日なにをそんなに喧しくしているんだろう?


4月26日

バイト三連勤きつかったー!

自分へのご褒美にちょっとお高めの弁当を買ってきた。

今日はテンション高くてお隣さんの騒音にも気にならない。

弁当の肉がうまい。さすがは焼肉弁当!


4月30日

ゴールデンウィーク明けから小テストをやるって教授が言い出したからバイトも休みだったしファミレスで友達と勉強会をした。

帰宅が深夜でもお隣さんは元気だ。

俺は疲れたから寝る。


5月8日

ゴールデンウィーク中、ずっとお隣さんの騒音に悩まされてきた。

いい加減不動産会社に連絡しよう。

レコーダーとかで証拠の物音を録音した方がいいのかな?

手痛い出費だな。


5月18日

我慢出来なくなって不動産会社に連絡したら隣は空き部屋だと言う。

なら、毎日聞こえるあの物音はなんだというんだ?

今も聞こえる。聞こえるはずのない音。

レコーダーを聞いてみたら何の音もしない。

なんでだ。俺にしか聞こえないのか?

怖くなってきた。


5月19日

もしかしたら誰かが無断で使っているのかもしれない。

とりあえずノックしてみて、すぐに自室に逃げ込もう。

人がいたら何かしらのリアクションがあるはずだ。




「被害者の日記、ここで終わってますね」

パラリと捲って確認しても残りのページは空白だった。

週に一度は連絡が来ていた息子からの連絡が途絶えて数週間、両親が不動産会社に頼んで息子の部屋を開けたらそこは生活のあとがありつつも無人だった。

「不動産会社にも確認取れました。隣室は確かに半年後以上前から誰も入居していないそうです」

「じゃあ、被害者の日記のこの物音ってなんですかね?今は隣室から物音も聞こえませんし…」

レコーダーも警察官全員で聞いても無音のままだった。

「不動産会社から鍵を借りて来ました。事件と関係しているかもしれませんし開けてみましょう」

しかし、そこには何もなかった。

「やっぱりご両親には申し訳ないですけれど、単なる失踪なんじゃないですかね?」

「そうかもな」

窓を開けると澄みやかな青空が広がっていた。

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お隣さん 千子 @flanche

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