第81話 里を発つ ~糸口、見つかる
そうして、夜があけ……
次の日の朝。
俺たちティエルナは、大勢のエルフたちに見送られ、里を後にした。
「ありがとう! この恩は、一生忘れないよ!」
「いつでも、戻ってきてくれー!」
俺たちは振り返り振り返り、手を振ってこたえる。
正直、あの星の舟を勝手に自爆させたことで、何か言われるかと思っていたが、
「星の舟の大爆発、スカッとした!」
「王ごと無くなって、最高だった!」
という声ばかり。
エルフにとっては、恨みの対象でしかない舟だったようだ。
たぶんあれも、鉄製品の範疇に入るだろうしな。
「おーい!」
と、ひときわ大きい声に振り向くと、リナがアルカディーと並んで手を振っている。
リナの周囲には、いつか彼女をいじめていた子供たちも居た。
なにやらバツの悪そうな顔をしているあたり、反省しているようだ。
エルフたちも今後は、民族やらなんやらの違いに、壁を作るという事は減っていくだろう。
「ありがとー! ほんとに! リナも、ティエルナみたいに頑張る!
そして、夢をかなえる! そうしたら、また来て祝福してねー!」
夢というのは、アルカディーと結婚することだろう。
ぜひとも、結婚式には出席しないとな。
「ああ! また来るよー!」
俺たちも盛大に手を振って、答えた。
▽
「……行ってしまいましたね」
アルカディーが名残惜しそうにつぶやいた。
ティエルナの姿が見えなくなり、エルフたちはようやく振っていた手を降ろす。
「ところで、夢ってなんだい?」
アルカディーがリナに聞いた。
「それは……あと、何年かしたら分かるよ!
関係あるからね、アルカディーお兄ちゃんにも!」
すこし赤くなって、リナが答える。
「? そうなのかい。じゃ、それまで待つよ」
「うん、待ってて! その間、アプローチ続けるから! ずっと!」
「アプローチ……?」
アルカディーが首を傾げた。
リナが笑って、駆け出していく。
「……何かの謎かけかな? 謎、と言えば……ティエルナの方々のあの格好。
ずっと皆さん、同じ格好してましたね……
エルフへのリスペクトのために民族衣装を着た、とか言われてましたが」
彼女らのあの格好は、なかなかに刺激的で、目のやり場に困ったものだ。
「民族衣装ではありますが……大昔の踊り子の衣装なんですよね。
今ではなかなか、着る者のいない……」
その後、ティエルナが着ていたという事で、若い女性エルフの間にその民族衣装が流行る事となった。
若い男性エルフにも大好評だったという……
▽
「それじゃ俺たちは、一足先に王都に行くよ」
「ほんとに助かった。一時はどうなることかと……」
「ティエルナは、俺たちにとっても、英雄だ!」
エルフの里に囚われていた冒険者たちも、口々に礼を言ってくる。
全員、無事に帰れることになって彼らも喜んでいた。
握手を交わし、彼らにギルドへの報告を任せて……俺たちはエウねーさんの家へと向かった。
「……よく考えたら、別にエウねーさんに報告しに行く事って、ないんだよな」
今回は古代魔法の案件でもないし、ただクエスト依頼を受けてエルフの里へ行っただけ。
あとは成り行きみたいなものだ。
「でも、すっかり習慣になったからねー!」
「一区切りごとに。帰る場所」
レリアとマティに言わせれば、そういうことらしい。
「ま、いいけどね。ちゃんと冒険者らしく働いてきたって、報告に行くとしよう」
エルフの里の大浴場も良かったが、ねーさんちの魔女の浴場も何度入っても良いもんだし。
「私は、あと何日か滞在したかった気もします……」
エリーザは即効酔いつぶれてたからね……
今日は朝早く起きて、朝風呂ってことで大浴場を堪能はしたようだ。
「リナの結婚式と言わず、また来ればいいさ。ちょっと遠いけど」
「いいなー、結婚式! あたしも、いつかできるかなー?」
……レリア、なんかこっち見てる?
「おにいちゃんの鈍感」
マティにドスッと肘で突かれた。
なんなん……
「そういえば、今回は借りを返す、っていう動機じゃなかったねー」
と、レリアが思いついたように聞いてくる。
「そうかもな」
と、ここでマティがレリアに、
「そうでもない。
エルフの里に乗り込んだの。レリアが傷つけられた件。わりと大きいと思う」
などと言った。ぼっと顔が赤くなるレリア。
確かに、レリアに毒矢が当たった時はかなり頭にきたが……
「そ、そうかも、しれない……?」
レリアと目が合い、何となくお互いに目をそらしてしまった。
ううむ……
そんなこともありつつ、また時間をかけて馬車旅を続け……
俺たちはまた、エウねーさんの魔女の小屋(木のうろ版)へと帰還したのだった。
「ただいま、エウねーさん。
行方不明の冒険者たちを助けて、ついでにエルフの王をぶっ倒してきたよ」
「なんだいそりゃ? エルフ国に喧嘩でも売って来たのかい?
いよいよ国際問題を起こしたか!」
魔女の小屋について、適当に報告したらエウねーさんのそんな反応が返って来た。
「しかし、皆してその格好。すごいもんだね」
俺たちは、未だにエルフの民族衣装を着ていた。
清浄の魔法がかかっており、長い事着ても全く汚れないため、つい着続けていたりする。
ここまでの旅の間、完全に着方も会得し、マティに着付けてもらわなくても大丈夫にすらなっていた。
「透け透けでやらしいねえ! 踊り子の衣装みたいだよ!」
うっ……傍から見たら、やっぱりそうなるのか……
俺たちはなにか、麻痺してたのかな……
「しかし、良く見りゃ、大事なところは透けないようになってるね!
大したもんじゃある!」
じろじろと俺の胸の部分を見ながら、そんな事を言う。
そして、ねーさんは両手の人差し指で、つんっと胸の一部をつついてきた。
「ひゃん!」
「だはは! 当たったかい? こういうゲームでは無敵のねーさんだよ!」
何のゲームだよ!?
「しかし、ひゃん! って! 可愛い女の子の反応だね!」
くそう! お、思わず変な声を出してしまった……
「そ、そんな事より!」
俺は胸を隠しながら、話題を変えた。
「オーブの解析はどうなってるんだ?
私の魂と体の問題を解決する、糸口は見つかったのか?」
するとエウねーさんは真顔になり、
「ああ。見つかったよ」
とわりとあっさり答えた。
え、マジで……!?
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