第64話 撃退 ~老エルフ、頭を下げる

「また、黒いローブのやつらですっ!」


 エリーザが双剣を抜き放った。マティも同じように剣を構える。


「王の、特殊部隊だよっ!」


 リナが叫んだ。

 しかし、こいつらなら以前撃退済みだ。 


 今度こそ、捕まえてやる。


「何度来ても。無駄」


 マティは飛んでくる吹き矢を、剣を器用に使い、逆に相手に跳ね返した。


「……!」


 だが、黒ローブの男たちには、刺さっても効果がないようだ。

 さすがに、解毒剤を服用済みってことか。


 エリーザも双剣をふるい、吹き矢を全て切り払う。

 レリアは眠り効果の香水を吹きかけ、襲撃者を二人ばかり睡眠状態にした。


 しかし、


「うーん、やりづらいですねっ! 家具とか壁を壊さないように戦うのは!」


「その上。殺さず無力化。少し時間がかかりそう」


 エリーザたちは家の中のものに配慮しながら戦うが、襲撃者はおかまいなしだ。

 レリアにも近づかないように距離を取っている。


 ならば……


「【多く、可愛く、食らいつく】! ライトニング!」


 追尾機能をもった雷撃魔法を複数発動させ、襲撃者全員をシビレさせた。

 今回は威力の強化はないため、数秒、体の動きを止めるていどの強さしかない。


 しかしその間に、マティとエリーザがみね打ちや当て身を食らわし、襲撃者を全員気絶させてしまった。



「すごい! お姉ちゃんたち。あの黒ローブたち、あっという間!」


 リナが拍手をする。


「ごめんね、少し部屋の中、荒れちゃった」


 レリアが頭を下げるが、リナは「ぜんぜん! だいじょうぶ!」と興奮気味だ。

 荒らしたのは十割、襲撃者の仕業だしな。


 とりあえず、襲撃者全員をロープで拘束した。

 前回と同一人物かは分からないが、また老エルフのみで構成されている。


「あとは気が付くのを待って、色々と情報を聞き出そうか……」


「あまり、乱暴にしないでね? 王に無理やり従わされてるんだから。この人たち」


 リナが、そう言って俺を見てきた。


「大丈夫。レリアの、素直になる香水があるから、拷問なんてしないよ」


「そうなの?」


 リナがレリアを振り返ると、レリアがカバンから一つの香水瓶を取り出し「ぴかぴかぴーん」と叫んだ。

 なんだそれ、効果音?


「だけど、それでも何か情報を喋ったら、爆発しちゃうかも。この人たち」


 リナがうーんとうなる。


 爆発!?

 まさか、秘密保持のための仕掛けがなにか、ほどこされてあるのか。


「首元。見て。首輪をつけられてる」


 リナの言う通り、襲撃者たちは全員、なにかの金属で出来た首輪をつけていた。


「まえ、見たんだ。


 遺跡で、王に反逆しようとした人たち。そしたら、首輪が爆発して……」


 当時の光景がよみがえったのか、リナは気持ち悪そうに顔を青ざめさせた。


「それはまずいですね。この人数、この家ごと吹っ飛ぶかもしれません」


 どういう仕組みかは分からないが、状況次第では、今すぐ爆発する可能性もあるかもしれない。 

 このまま、気が付くのを待つのは得策ではない……?


「待って。【鑑定】した」


 マティが手を挙げる。


「この首輪のここ。ここを雷撃魔法で焼き切れば。


 機能停止して爆発しない。安全に外せる」


 おお、さすがマティ。


 俺はマティの頭をひと撫ですると、襲撃者の首輪一つ一つに雷撃魔法を撃ちこんでいき……

 全員の首輪を外すことに成功した。




「おおお……首輪、首輪が外れておる!」


「よもや、よそ者に命を救われるとは……」


「首輪から解放される日が訪れるなどと……夢のようじゃ……」


 拘束を解いた襲撃者たちが気が付いたので、経緯を説明した。

 彼ら、老エルフたちは首元をさすりながら、喜びをかみしめている。


「ちょっと! お礼は無いの、お姉ちゃんたちに。よそ者、よそ者って。


 エルフは、命の恩人に感謝することを知らない、無礼者って思われたいの!?」


 リナが老エルフたちの前に立って、腰に手を当て、お説教を始めた。

 老エルフたちは顔を見合わせ、ばつが悪そうにしている。


「まあまあ。私たちとしちゃ、お礼を求めて助けたわけでもないし。


 遺跡で働かされている、若いエルフの人たちのこと。


 その人たちを管理している人たちのこと。それらについて、教えてもらえば」 


 俺の言葉に、また老エルフたちは顔を見合わせる。

 そして少しずつ、遺跡の現状について、ぽつぽつと話し始めるのだった。





「……まとめると、遺跡で働かされてるエルフたちにも、例の首輪がつけられている。


 そしてエルフたちに加えて、外から連れてこられた人間も同じように働かされてる」


「遺跡で、その労働者たちを管理監督しているのは、王の右腕とされるレオーン将軍。


 その部下の警備隊長グリゴリーが、首輪を爆破できるスイッチを持っている。


 ということでしたね」


 俺たちは顔を突き合わせて、老エルフたちの話を手短にまとめた。

 

「いちばん優先することは、そのスイッチの奪還だねー!」


 レリアの言葉に、皆うなずいた。


「現場には不満しか溜まってない状況だ。首輪の爆破が不可能になってしまえば……


 大規模な反乱がおきる」


「第一目標。グリゴリーの確保。遺跡のどこかに居るのかな」


「リナ、わかるよ! しょっちゅう、探りに行ってたから。遺跡。


 だいたいの、巡回ルートだって」


 リナが胸を張った。

 頼りになる幼エルフだ。


「あ……あんたら。まさか、遺跡に乗り込んで、皆を解放しようというのかね?」


 老エルフの一人が、よろよろとやってきて話しかけてきた。


「む、無茶じゃ。グリゴリーは恐ろしい男じゃ。


 笑いながら首輪を使って人を殺す冷酷さもそうじゃが、剣の腕前もエルフの里では随一。


 そのうえ、遺跡から発掘されたという光の剣……


 それは全てを切り裂く凄まじい武器なのじゃ」


「だいじょうぶだよ! 強いもん、お姉ちゃんたち!


 襲ってきたあなたたち、すぐやられちゃったじゃん!」


「わ、わしらなど比較にならぬ。

 

 いくら魔力で肉体強化したとはいえ、グリゴリーには束になってかかっても……」


「ドラゴンより強い?」


 レリアが、老エルフに向かって聞いた。

 老エルフは戸惑いながらも、


「い、いや。それはなかろうが……」


「なら、大丈夫だと思うよー! 


 あたしたち、古代魔法のダンジョンでドラゴンと戦って、倒してきたんだから!」


 老エルフ全員とリナがぽかんと口をあけた。


「じゃ、じゃあお姉ちゃんたちが、あのティエルナ……?」


「そういうこと。きっと、捕まってるエルフたちを解放してみせるよ」


 グリゴリーも、レオーンもぶっ倒して、ね」


 俺がそう言うと、老エルフたちはまた顔を見合わせ……なんと今度は皆で頭を下げてきた。


「……さきほどの無礼をお詫びします。


 命を助けてくださって、感謝してもしきれません。


 手のひらをかえすようで、気分を害されたかもしれません。


 現金なやつらと思われても仕方がありません。しかし……


 捕らえられたエルフ解放はわしらの切なる望み。


 それが叶うのなら、どうか、どうか……」


 さらに床に手をつき、膝をついてふかぶかと頭を下げる老エルフたち。


「いやいや、大丈夫。


 私たちだって、同業者を助ける目的があるし、ね」


 そう言って、俺は老エルフたちに手を差し伸べるのだった。

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