第4話 襲来 ~スキル発動

「うーん。スキル名というより、何かのキャッチコピーみたいな……」


 固有スキルは大体、【空間収納】だの【火炎無効】だの、見れば大体分かる名前になってるものだが。


 冒険者カードには、スキル名しか表示されず、詳細はない。

 固有スキルはまれに所持する冒険者が居るものの……レアすぎて使い方などは周知されていない。


「まあ、そのうち分かる時も来るだろ……」


 とりあえず今の目標は、妹の病気の件だが。

 第二の目標が出来てしまった。


 それは男の体を取り戻すことだ。


 これは絶対だ。

 

 なんとしても……一度肉体から切り離された魂を元に戻す秘術を、見つけなければならない。


「そのためにはやはり、古代魔法に頼る以外、ないよな」


 既知の魔法などでは不可能なことも、古代魔法なら可能と言われている。

 ダンジョン最深層にあるとされる、古代魔法の詳細は不明ではある。

 

 しかし、普通の手段では無理な事を行う以上、賭けるならここしかない。


「そのために、まずいったん地上に戻らなきゃな……」


「あら、もう地上へ帰られるのですか?」


 振り向くと、エルフのご婦人がレリアと並んで部屋の入り口にいた。


 レリアが大人になったらこんな感じなんだろうな……という妙齢の。

 ということは。


「あなたがネクロマンサーの……」


「はい、ニーナと申します。


 突然このような姿にさせてしまって、申し訳ありません」


「いえ……もう無いと思った命を、頂いたようなものです。


 感謝しかありません」


 お互い、頭を下げる。


「そう言っていただけると助かります」


 ニーナはほっとした様子でほほえんだ。


「シルヴァンさん。あなたの元の体は、長期保存の処置をして保管してあります。


 いつか、元に戻れる手段が見つかった場合に備えて」


「重ねてありがとうございます、助かります」


 ネクロマンサーなら、死体と魂の扱いはプロだろう。

 俺の魂を女の子の体に入れる秘術といい、腕は確かなようだ。


「……しかし、レリアはハーフエルフだったんだな」


 最初は、普通に人間の子だと思ったけど。

 エルフのご婦人が母親なら、そういうことになる。


「そうだよー! 耳、あまり長くないから分からない人も良くいるの」


 じゃあ、見た目より年を取ってる可能性があるんだな。詳細は聞かないでおくが。


「さっき言ってたけど、地上に戻るのー?」


「ああ。いつまでもここに居るわけには」


 俺にはやる事がある。しかし。

 現状、奈落から帰還出来た者はいない……


「どうやって戻ればいいのか……それが問題だ」


 思わず天を仰いだ俺に、レリアがあっけらかんとして言った。


「あたし、分かるよ?」


「……は!?」



 レリアが言うには、20年くらいかけて、ダンジョン最下層に繋がる道を探し当てたという。

 そこからは当然、迷宮を地上まで登る必要が生じる。


 つまり奈落から帰還するには、最下層から迷宮を脱出する力が必須となる。



「あなたは、10階から来た。だから、戦えるでしょ? 強いモンスターと」


「ああ、って、今は無理だ。この体だと……」


 くそう。

 こんな非力な少女の体だと、短剣だってろくに使えない。


 そもそも魔法スキルも、全てLV1になっている。


「……最下層まで戻ることが出来れば、ファビオたちが作ったポータルがある。


 そこまでたどり着ければ、なんとか……だが、今の状態だと心もとなすぎる」


 せめて、魔法が以前のように使えれば。

 俺は早く地上へ帰って、金を稼ぎ、妹のために腕のいい治療師を雇わなければならない!


 悔しさに身を震わせていると、ふと外が騒がしくなっているのに気づいた。


「遠征隊が帰って来たぞー!」


 誰かの叫び声が聞こえた。ああ、食糧確保の部隊か。


 その人たちが戦力になってくれれば、最下層をあの小部屋までなんとか戻れないだろうか?

 そう考えた俺は、思わずレリアの家から飛び出していた。


 外は、レリアの家と似たような小さな家がまばらに建っている、小さな集落のようだった。

 あちこちにある緑水晶の輝きで、何とか視界が確保できる、暗い世界。


 そして集落の外から、くたびれた冒険者っぽい格好の男たちが、こちらに向かって走って来ている。


「……追われている!?」


 その男たちの後ろ、空を飛んで向かって来ているものがいた。


「アビスワイバーンだ!」


「避難しろ! 遠征隊の二人がやられた!」 


「助けてくれ!」


 遠征隊はアビスワイバーンとやらに襲われ、村まで逃げてきたが振り切れなかったようだ。

 ダンジョン中層に出没する強敵ワイバーンの強化型か。


「シルヴァンさん! 避難しなきゃー!」


 外に出てきたレリアが、俺の腕を引っ張る。


「家の中に、地下室があります。そこへ……危ない!」


 続いて出てきたニーナが悲鳴を上げた。

 突出したワイバーンが、俺たちに向かって急降下してきたのだ。


(この速度……! やられる!?)


 以前の体ならともかく、この体ではどうしようもない。

 俺は死を覚悟した。その瞬間、全てがスローモーションの世界と化し……



(だが、せめてこの母娘だけでも守らねば)


(LV1の魔法では)


(間にあわない)


(また終わるのか。蘇った直後に)


(マティ!)



 その、とき。



(スキルを)


(スキルを、使いなさい)


(叫びなさい。スキル名を。そして、あなたの魔法を、敵に)


 俺の声……いや、この女の体のほうの声だが、俺以外の存在がその声を使って語り掛けてきた。


 俺は無意識にその声に従い……スキルを、発動させた……!


「【強く、可愛く、頼もしく】!」


 そして、


「ファイアーボール!」


 レベル1の火炎魔法スキルだ。こぶし大くらいの火の玉しか出ない、最も威力の弱い攻撃魔法……

 のはず、だったが。

 

 放たれたのは、不死鳥。

 フェニックスの形をした、究極の火炎魔法。


 ……なんか、フェニックスにしては丸っこくて、子供のようにも見える、可愛い形だった。

 しかし威力は抜群、アビスワイバーンは一瞬にして消し炭と化した。


 完全にオーバーキルだ。


「うおおっ!?」


 スキルが発動した!?効果は、魔法威力の増幅なのか!?


 また、声が語り掛けてきた。


(これがあなたのスキル)


(韻を踏みなさい)


(言葉の組み合わせで、可能性はいくらでも)


 宣言が必要なスキルなのね……他の言葉も使えるのか。


 「強く、雄々しく、逞しく」みたいな?


 『可愛い』はとりあえず外さないとな。スキル名で叫ぶの、やや恥ずかしいし。


(いいえ、『可愛い』だけは固定です)


 なんでだよ!!!


(使いこなしなさい、そして地上へ)


(あなたの目的に向かって) 


 まあ、とにかく助かった。あんたは、もしかして……この体の。


(いつでも、あなたのそばにいます)


(今回は、ここまで……)


(それではまた……すやぁ)


(……)


 なんか、寝たみたいだ。


 しかし、妙な縛りのあるスキルだが、これなら。

 ポータルまで、地上まで、戻れる……!

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